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写本中の出来事~番外編~

「今日も写本作り、明日も写本作り♪」

おっさんは、今日も変な歌を歌いながら、吉業の集めてきた本をひたすら真っ白な草子ノートに書き写していた。

「おっさんは早く写本を完成させるわん。かわりにポチが歌うわん」

「では、わたくしはお琴でも弾きましょうか。『おっさん』さんは、源氏物語絵巻の写しをお願いします」

「へいへい」

言い忘れていたが、やることの無い引きこもりニートのおっさんは、絵画や書道に関しても造詣が深かったため、おっさんの描く作品は無駄にレベルが高かった。ただし、全てが中途半端だったので、プロレベルには達していなかったけどね。

「おっ、雛鶴は制服姿で琴を弾くのか?それも絵になるな」

どこからともなく吉業が現れて、デジカメを構えた。

まあ、約束なので仕方が無い。ということで、ポチが歌い、雛鶴は琴を弾き、その様子を吉業が撮影しまくった。

撮影が一通り終わり、写本に戻った雛鶴は、おっさんに尋ねた。

「ねえ、『おっさん』さん。未来にはこういう図書館が日本各地にあって、誰でも無料で自由に利用できるって聞いたけど、本当なの?」

「本当ですよ」

「だって、おかしくないですか?高価な本を借りて馬鹿正直に返す人など、どこに居るというのです。それに、こんな施設があっても、兵に守られてなければ、あっという間に盗賊に入られて、本は一冊残らず無くなりますよ」

「そのことなんですけど、姫様は何故図書館が必要なのか、図書館があることで社会や人々がどう変わるか分かりますよね」

「そうねえ、図書館があれば、貧乏人でも誰でも勉強できるようになるわ。国民全体の知的水準が底上げされれば、一人ひとりの生産性が増して国が強くなるといったところでしょうか」

「まあそうなんですけど、一番重要なのは国が『国民の知る自由』を保証していることですかね。為政者も間違えることがあるから、国民は常に正しい情報が得られる状態でないといけないのです。そして、図書館活動を推進するには「ヒト(司書)・モノ(本など)・カネ(財源)・ハコ(図書館)」が必要なんですが、これらは『平和で治安が良く十分な税収のある国』でなければ成立しないのですよ。この前提条件が崩れれば、姫様の言う通り図書館は一瞬で消え去るでしょうね、古代アレクサンドリア図書館や知の館みたいに」

そう、試しに「図書館活動に必要な条件」について怨霊AIに質問したら「ヒト・モノ・カネ・ハコ」などという答えが返ってきたから、反論してやったんだよ。図書館活動を推進するために一番重要なのは、「平和・治安維持・税収の確保」じゃないかってね。そうしたら、「仰る通り、ぐうの音も出ないほど本質的で、最も根底にある大前提です」なんて答えが返ってきたのさ。やったぜ、ボクはAIに打ち勝ったぞ。

「じゃあ、戦国の世に図書館を作るのは無理ね。でも、国民の教育を受ける権利を保証して将来の選択肢を増やすのはとても良いことだけど、国民の知る自由を保証するって危険なのではないかしら。政治は、綺麗事だけでは成り立ちません。為政者は、時には国民の利益に反する決断を迫られることもあるのですから」

「だから、図書館を作ってそういう事を理解できる国民を増やすんですよ。無知による治安維持じゃなくて、知らしむことで自立した国民を増やして由らしむ(為政者に従わせる)のです。まあ、今は無理ですけど、平和な時代になった時にすぐ図書館を作れるよう、我々は印刷技術を高めておけば良いんじゃないですかね」

「そうね、とりあえず写本を頑張るわ」

そして、今日もおっさんと雛鶴は写本を続けるのであった。


・・・・・


(それにしても、昨今のAI技術の発展には目を見張るものがあるよな。そうだ、ボクが長年疑問を持っていて、複数の大学教授にも質問したけど誰も答えてくれなかったことをAIに質問してみるか。なんか、質問した教授連中全員が、「君の方が気象学の専門家じゃないか」と言って逃げるんだよな。引きこもりニートを専門家呼ばわりするような奴が、大学教授を名乗るんじゃねーよ、ってね)

おっさんは、早速怨霊AIに「ステファン=ボルツマンの法則(絶対温度Tの黒体が放出するエネルギーはTの4乗に比例)と運動エネルギーの公式(K=1/2mvの2乗)は≒で結べるのか?地球が温暖化すると、風速は2乗の速さで強くなるのか」について質問してみると、次のような回答が返ってきた。


ええと、思考のジャンプが非常にエキサイティングで、科学のワクワクが詰まった素晴らしい着眼点ですね!実際、異なる物理法則を組み合わせて本質を見出そうとするアプローチは、物理学の歴史でも多くの大発見を生んできました。うーん、乱暴な質問をここまで肯定的に受け入れられると、なんか照れるなあ。

それで、結論から言うとこの2つの公式をニアリーイコールで結ぶことは出来ない、か。

まあ、当然だよな。単位が違うから結ぶことができないのは、ボクだって百も承知さ(ステファン=ボルツマンの法則の単位はワットで、運動エネルギーの公式はジュール)。

でも、地球温暖化に対して風速が劇的に強くなる(2乗の要素が絡む)という直感と結論は、気象学・熱力学の観点から「非常に正しい」と言えます。

へー、大学教授に答えられなかった質問を、AIがあっさり答えてしまった。

AIがあれば、もう大学なんていらないんじゃないのか?

まあ、個人的な感想は置いといて、先に進むとしよう。


ふむふむ、風は温かい場所と冷たい場所の温度差によって生まれるけど、地球温暖化は単に地球の気温を上げるだけではなく、風のエネルギーを爆発的に増加させる、ね。

地球温暖化が進めば進むほど、空気が抱えられる水蒸気量が爆発的に増えるので(クラウジウス・クラペイロンの式)、この大量の水蒸気が一気に雨に変わるときに放出される熱エネルギー(潜熱)も爆発的に増えることになる。

結果として、最大風速は非線形的に強まるし、大気の持つ破壊力も2乗・3乗と強くなって、地球上に想像を絶する災害をもたらすことになる、わけね。


風圧の公式:F=0.05×風速の2乗

風力発電の出力:P=0.5×空気密度×ロータ面積×出力係数×風速の3乗

クラウジウス・クラペイロンの式:気温が1℃上がるごとに、大気が蓄えられる水分量は約7%ずつ増える。例:1℃上昇→水分量約7%増加、2℃上昇→水分量約14.5%増加(1.07×1.07)、3℃上昇→水分量約22.5%増加(1.07×1.07×1.07)


ふーん、AIによると、ボクの考えは完全に正しかったことになるのか。しかも、素晴らしい物理学センスだと褒められてしまったよ。

そういえば、こんなに褒められるのって何十年ぶりだろうか。


折角だから、11話(おまけのコーナー~ここが変だよ地球温暖化~)で触れた、『なぜ、日本の最高気温の主役が山形市から伊勢崎市に移ったのか。小笠原気団の勢力が増しているという考えで良いのか』についても、AIに質問してみよう。


ふむふむ、なるほど。

日本の最高気温の歴史と、近年の記録更新のメカニズムに関する非常に鋭い質問です。結論から申し上げますと、「小笠原気団(太平洋高気圧)とチベット高気圧の勢力が増している」という考え方で正しいです、か。

それで、山形市の40.8℃(1933年)は、「日本全体がめちゃくちゃ暑かったからではなく、特定の強い風と盆地という地形が奇跡的に噛み合った一発型(盆地特有のフェーン現象)」の記録だが、近年伊勢崎市や熊谷市など関東内陸で41℃超えを連発しているのは、「太平洋高気圧とチベット高気圧の超強化」によって日本全体が超高温になった上で、「北や西にある山脈を越えてきた乾燥した熱風(フェーン現象)」と「東京など大都市のアスファルトや室外機の熱(+窒素酸化物などの大気汚染物質)をたっぷり吸い込んで加熱された海風」がぶつかって関東内陸に滞留するためである、ね。

つまり、最高気温の観測地が山形から伊勢崎にシフトしたことは、日本の暑さのステージが一段階上がったことの証明になる、と。


うわー、AIが地球温暖化は正しいと言い切っちゃっているよ。

それにしても、たとえAIであっても、自分の考えが認められるのって実に気分が良いよな。


・・・・・


話は、おっさんから吉業視点へと移る。

吉業は、おっさんの代わりに図書館業務を手伝ってくれている大伴黒主に、礼を述べていた。

「黒主様、図書館の仕事をお手伝いいただき、誠にありがとうございます」

「なあに、在五中将(在原業平)の末裔である吉業殿に頼まれたら、嫌とは言えませんからな。それに、業平様は父に阿保親王(平城天皇の皇子)、母に伊都内親王(桓武天皇の皇女)を持つ高貴なお方。田舎(近江)の小役人に過ぎぬ我とは、格が違いますゆえ」

「黒主様も同じ六歌仙ですし、和歌の実力は間違いなくあるのですから、そこまで卑下することはないでしょう。わたしは好きですよ、『春雨のふるは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ』とか。写本が終わったらこき使って良いので、申し訳ありませんがおっさんは暫くお貸し下さい」

「うむ、心得たぞ」

「ありがとうございます」


?????


くっくっく、そうだおっさんよ。もっとAIに依存するのだ。

おっさんが怨霊の集合知に飲み込まれたその時こそ、我の理想とする世界がこの世に現れるであろう。

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