おっさんが写本をして、ポチが歌って、雛鶴はグラビアアイドルになる
ここで舞台は幽界へと移る。
図書館にやってきたポチと雛鶴は、おっさんと合流して吉業が来るのを待っていた。
「ねえ、『おっさん』さん。貴方が考えた金策には、どのようなものがあったの?」
雛鶴の質問に対し、おっさんは「基本的には兄君が考えたものと一緒ですよ」と答えた。
「でもなあ、水飴の製造法を商人に売って得た金は、第四次川中島の戦いで使いたかったなあ。だとすると、今すぐ金を手に入れるにはあれしか方法はないか・・・」
ブツブツ言っているおっさんに対し、「何か良い方法があるなら、教えて下さい」と雛鶴はおねだりした。
美少女に縁の無いおっさんは、雛鶴の演技に引っかかった。
「お福様の実家近くには、大きな古墳が幾つもあるでしょう」
「ええと、保土田(高崎市保渡田町)には大きな古墳(八幡塚古墳・二子山古墳・薬師塚古墳のこと。現在は上毛野はにわの里公園として整備されている)が複数あるわね。それがどうかしたの?」
「実は、あの周辺には未盗掘古墳が沢山あるんですよ。古墳から発掘された埋葬品を売れば、手っ取り早く金になるんじゃないかなって」
「まあ、わたくしたちに墓泥棒をしろっていうの。何て恐ろしいことを言うのですか。埋葬者の祟りが怖くないの?」
「祟るのは、周囲に居るこんな奴らですよ。ついでにいうと、ボクも怨霊なんですが、そんなに怖いですかね?祟りなんて、生きている人が勝手に恐れているだけで、実際には何もないんですよ」
そう言いながら、おっさんは図書館で本を読む怨霊たちを示した。
「うーん、そういうものなのでしょうか。でも、箕輪の当主が墓泥棒をしたとばれれば、領民の信頼を失うでしょう。その案は、兄上様には言わない方が良いと、わたくしは思います」
「それなら、なおさら吉業様に写本の許可を得る必要がありますね。吉業様を説得するなら・・・、セーラー服の胸当てを外した方が良い気がしますよ」
「??何だかよく分からないけど、頑張るわ」
雛鶴とおっさんがそんなことを話していると、疾風とともに吉業が現れた。
「雛鶴よ、わたしに何の用かな・・・!?」
吉業は最後まで言葉を発することなく固まってしまったが、おっさんは見逃さなかった。
風でめくれたスカートの中にチラっと見えた雛鶴のパンツに、吉業の目が釘付けになっていたことを。
そのまま雛鶴は平伏し、「吉業兄上様、どうか長野家をお救い下さい」と言いながら頭を下げ、今までの経緯を吉業に説明した。
吉業は雛鶴の願いに対してかなり渋っていたが、吉業の視線が雛鶴の襟元からチラリと見える胸の肉付きにあることを、おっさんはしっかりと確認した。
(動揺していることは確かだが、妹の若さと健康美に満ちあふれた時分の花(世阿弥の風姿花伝の一節)では、吉業は落ちないか。じゃあ、少し攻め方を変えてみるかな)
おっさんは、雛鶴とポチと吉業を連れて図書館の中庭に移動した。
中庭の桜は満開で、まさに見頃を迎えていた。
「まあ、とっても桜が綺麗ね。みんなでお花見をするのかしら」
あいかわらずのんきな雛鶴であったが、おっさんは雛鶴を満開の桜の前に立たせて本を持たせると、雛鶴にメモを渡した。
「それじゃあ、風が吹いたらそのメモを読んで下さい」
おっさんは、雛鶴にそう言って風を吹かせた。
雛鶴のスカートと三つ編みが風になびき、その背後で桜吹雪が舞った。
まさに、理想的な文学少女の完成である。おっさんは、その出来映えに満足した。
「ええと、吉業兄上様、わたくしに出来ることであれば何でもしますので、どうか写本を売る件についてお許し下さい」
雛鶴がお願いするのと同時におっさんは吉業の側まで移動し、その幻想的な光景に見とれる吉業にデジカメを渡してささやいた。
「さあ吉業様、姫様が写本を作って売ることを許すのです。その代わりとして、美しく成長した妹の姿をデジカメで撮影するのは如何ですか?きっと、お父上も喜びますよ」
「しかし、長野家に便宜を図りすぎるのも問題がー」と渋る吉業に対し、おっさんはなおもささやいた。
「姫様は、兄君たちのことをとても信頼しています。でも、その兄君が妹を邪な目で見ていることを知ったらどう思いますかね。ボクは見ていましたよ、貴方の視線が姫様のスカートの中と胸元にあったことを」
急に、吉業は慌てだした。
「貴様、おっさんの分際でわたしを脅すというのか。それに、お前も男なら分かるだろう。何歳になっても、男は若いおなごに目がないことを。それにだな、わたしが見た雛鶴は本当に小さかったのだ。それなのに、急にこの様な成長した姿で現れたら、妹であっても色々なところを見てしまうのは仕方あるまい。・・・そうだ、思い出してきた。わたしは河越合戦で深手を負い、捕虜となって小田原城に連れて行かれたのだが、まだ梅雨前の富士山がとても美しかったな。そのような状況で、余命幾ばくもないわたしを哀れんだ(北条)氏康様が、特別に雛鶴と会わせてくれたのだ」
「えっ、姫様は小田原城にいたのですか?何でまた・・・」
吉業は、余計なことを言ってしまったと顔をしかめた。
「おい、おっさんよ。特別に写本製作と販売を許してやるから、今聞いたことは全て忘れよ。雛鶴に真実を伝えるのは、あくまでお福殿の役割なのだからな。写本しても良い本についてはわたしが見繕ってやるから、早く雛鶴やポチと一緒に図書館内へ移動せよ。いいか、絶対余計なことはするなよ。もし、約束を破るようなことがあればお前がどうなるか、分かるよな!」
(うへー怖い怖い)と思いつつ、おっさんは雛鶴やポチとともに図書館内で写本できる、広いテーブルのある部屋へと移動した。
「写本して良いのは、この辺りかな。あと、挿絵を入れるなら、既に戦国時代に製作されているものにせよ」
吉業は、竹取物語、伊勢物語、枕草子、源氏物語、源氏物語絵巻、平家物語、太平記、万葉集、古今和歌集、新古今和歌集をテーブルの上に広げた。
「吉業兄上様。写本を作ることをお許しいただき、ありがとうございます」
「礼には及ばぬよ。それより雛鶴よ、こんな感じに姿勢を取ってくれぬか」
「ええと、こうでございますか?」
吉業は、色々なポーズを取る雛鶴をデジカメで撮影しまくった。
「あのー、吉業様。一つ確認があるのですが」
「おっさんよ、なんの用だ。わたしは今忙しいのだ」
「写本を版木にして、大量印刷しても良いですよね。宋(960年~1279年)の時代には既に行われていたことですし、未来の技術を漏洩したことにはなりませんから。それに、写本が世に出回って国民全体の教養が底上げされるのは、吉業様にとっても都合が良いのでは?」
「ああ、写本を作るには時間がかかるし、売ったらそれでお終いだからな。好きにするが良い」
「吉業様、ありがとうございます」
「わんわん、ポチはここに居るだけで何の役にも立っていないわん。つまらないわん」
「ポチは、こっちに来て雛鶴と遊んでいなさい」
「吉業、わかったわん」
そして、吉業はポチと戯れる雛鶴をデジカメで撮影しまくり、おっさんは写本作りを手伝わされるのだった。
・・・・・
「うーん、氏業みたいに三年はかからないと思うけど、これらの本を全部書き写すにはかなり時間がかかるよな。というか面倒くせー・・・。あれっ、ポチじゃないか。用は済んだのかい?」
「吉業は、ご主人様とポチが遊んでいるところをパシャパシャやっていたけど、もういいって帰されたわん。今は、桜の木の下で横座りしながら本を読んでるご主人様をパシャパシャしてるわん」
「ふーん、制服美少女の読書姿を撮影するとは、吉業もマニアックな奴だな。そうだ、ポチは干し肉でも食べてなよ」
おっさんはポチに干し肉を渡すが、ポチは「自分もご主人様の役に立ちたい」と訴えた。
「でもなあ。ポチに写本製作はできないしなー」
「あっ、ポチ歌を歌えるわん。ご主人様が、でーぶいでーとかいうのを見ている時に覚えたんだわん」
そして、おっさんが写本をする横で、ポチは歌い出したのだった。
・・・・・
「わん、わーわわーわわーん、わわわわわわわーわわん、わーわーわわーわわん、わわわわーわわーわーん」
パチパチパチと、雛鶴が拍手をした。
「まあ、一緒にDVDを見ていてお歌を覚えたのね。とっても上手よ」
「あれっ、ご主人様。パシャパシャは終わったのかわん?」
「ええ、そうよ。それでは『おっさん』さん、最低でも二冊ずつ写本を作りましょう」
「えっ、面倒くさっ。図書館で本を借りて、城に戻ってからみんなで写本すれば良いじゃないですか」
「いつまでも、父上様や吉業兄上様を困らせる訳にはいきません。一冊は商人に売って木版印刷させ、残りは手元に置いて皆で書き写して、特別な写本として大名に配るのです。近衛様(近衛前久のこと。この時は、茨城県の古河城にいた)に奥書を書いて貰えたら、家宝になりますよ」
「おっさん、頑張るんだわん」
「ポチに言われちゃあ仕方が無い。姫様、お手伝いしますよ」
こうして、全ての本と絵巻物を写本し終わるのに半月はかかったのだが、現実世界では半日しか経っていなかったとさ。




