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幽界図書館の謎

「うっうっ、ミックスピザと蟹グラタンピザを完食してしまいました。わたくしは、ここでピザを食べ続けてブクブクに太って、兄上様に見下されるんだわ。こんなに太った妹では、政略結婚の駒にもならないとか言われて・・・」

「姫様、はいテリヤキチキンピザです」

「貴方はどうしてすぐおかわりを寄越すんですか。そんなにわたくしのお腹を膨らませたいのですか?モグモグモグ。ああ兄上様、雛鶴は堕落してしまいました」

「そんなにお兄さんが気になるんですか?好きなんですか」

「なんか、皆さま勘違いされているようですが、わたくしは兄上様のことなんか何とも思っておりませんよ。ただ、産まれた時から一緒にいる兄上様には、いつまでも可愛い妹として見られたいだけなのです」

(それが好きって事なんじゃないのか?)

おっさんはそう思うが、またもや怨霊AIが反応した。

(怨霊AIの独り言:妹は兄のことをなんとも思っていませんが、兄に良く思われたいというのは事実のようです。実際、大人になっても飲酒や喫煙している姿を兄には絶対に見せない妹がいるようです。ただし、妹の様子は母親を通じて兄に筒抜けになっていたりします)

(なんだそりゃあ。妹とか母親とか、身内の女は何を考えているのか、よく分からんな)

おっさんは考えることを止めた。

「ふうふう、お腹いっぱいで動けないわ」

「干し肉うまかったわん」

「姫様、これからどうします?ロケットの打ち上げでも見ますか?それとも、読書しますか?お絵かきとかもできますよ」

「うーん、今動くのは無理ね。行儀は悪いけれど、寝ながら能や田楽を見たり、音楽を聞いたりしたいわ」

「それじゃあ、アニメでも見ますかね。DVD持ってきますよ。恋愛物とか歴史物とか、どの分野が良いですか?」

「『おっさん』さんにまかせるわ」

ということで、アニメ見てマンガ読んでお絵かきしてゲームして、腹の具合が落ち着いたらスイーツを食べたりしてしばらく過ごすのだった。ちなみに、最近はテレビゲームができる図書館(国立国会図書館など)もあるぞ。


・・・・・


「はあ、とっても楽しかったわ。『おっさん』さん、ありがとう」

カフェで饅頭を食べ抹茶を飲みながら、雛鶴はおっさんに礼を述べた。

ちなみに、屋外では雛鶴の要望を受け入れてロケットを飛ばしているぞ。

「まあ、気晴らしになったのなら何よりです。ところで、姫様が興味深く感じた作品などはありましたか?」

「そうねえ・・・。わたくしは、長野家の姫としてどう生きればよいのかずっと考えてきたのだけれど、答えは思いつきませんでした。とりあえず、姉上様たちと同じように政略結婚の駒となり、長野家の味方を増やすことがわたくしの使命だと考えていたのだけれど、今日『小公女』を読んで考えを改めたわ。わたくし、みんなに夢と希望を与えるお姫様になりたい。『たとえボロを 纏っていても 心はいつでも プリンセス(都々逸は江戸末期に成立したが、都々逸節の元になった民謡はかなり昔からあったらしいぞ)』。どれほどみすぼらしい格好をして辛く苦しい目に遭ったとしても、心はいつでも気品溢れる気高いお姫様でいられたら素敵でしょうね。でも、どうすればなれるのかしら」

「うーん、領民たちの安全や衣食住を確保した上で、誰もが気軽に読書を楽しめるようにすればいいんじゃないんですかね。そういえば、長純寺で炊き出しをするために榛名山に登って獲物を捕ってきましたよね」

「ポチと段蔵で獲物を捕ってきたわん」

「炊き出しをしている時に、子どもたちに学問を教えるのはどうですかね?こんな感じで」

そう言っておっさんが取り出したのは、紙芝居だった。

「なにこれ。とても鮮やかで綺麗な絵ね。裏に文章が書かれていて、絵を見ながら物語を楽しめるのね。これを題材にして子どもたちに文字を教えれば、やがて文官への道も開けるということかしら」

「そうです。戦争孤児たちの未来の選択肢を増やしてあげることができたなら、それはみんなに夢と希望を与えるお姫様になれたということなのでは」

「ふうん、『おっさん』さんのくせに良いことを言うわね。ところで、この図書館の本や食べ物を箕輪城に持ち帰ることはできるのかしら。ピザは冷えると不味くなるから、お饅頭とか珍しい本とか紙芝居を持って帰りたいわ」

「うーん、どうなんでしょうか?」

おっさんは、『それは難しいんじゃないかな』と思った。実際、幽界から現世へ物を運ぶことができれば、領地経営でも戦争でもやりたい放題になってしまうからね。

雛鶴とおっさんがあれこれ悩んでいると、突如『疑問があるなら、わたしが答えてしんぜよう』という声が天界から降ってきた。

「あっ、吉業兄上様」

雛鶴とポチとおっさんの前に現れたのは、河越合戦(1546年)で戦死し、今は父業政の助手をしている長野右衛門大輔吉業であった。

「雛鶴よ、久しいな。ところで、そのセーラー服とてもよく似合っているぞ。すごく可愛らしいな。ちなみに、スカートのプリーツは乱さないように、セーラーカラーは翻さないようにゆっくり歩くのがお姫様の嗜みらしいぞ」

吉業に頭を撫でられている雛鶴は、とても嬉しそうだ。

「この服はセーラー服で、裳はスカートというのですね。それで、この襞がプリーツですか。初めて知りました。ところで吉業兄上様、箕輪城の皆さんにお土産を持って帰りたいんですけど、可能でしょうか?」

「そうだなあ・・・。うーん、ここの品々や知識は未来の産物だからな。下手に情報を外部に流出させると、何か問題が発生するかも・・・」

「えっ、母上様たちにお土産を持って帰ることができないのですか?」

目を潤ませる雛鶴を見て、吉業は動揺した。

「ちょっと待て、雛鶴。えーと、うーんと・・・。よし、規制付きだが、わたしの神力で本と菓子を持ち帰れるようにしてやろう。本は歴史と干渉しない物語に、菓子は戦国時代の技術で製作可能な物に限定させてもらうがな」

(ふーん、神力があれば幽界図書館の物を外部に持ち出すことができるのか)

おっさんは、その事実を深く心に刻んだ。

「雛鶴よ、これを受け取れ」

続けて、吉業は一枚のカードを雛鶴に渡した。

「吉業兄上様、これは何ですか?」

「それは、『幽界図書館登録利用者カード』だ。それがあれば、この図書館に自由に出入りできるようになるぞ」

「吉業兄上様、重ね重ね有り難うございます」

雛鶴は、吉業に向かってにこりと花が咲くように笑った。

(なんか、妹って無茶苦茶可愛いよな)と吉業が思ったのは余談である。

「ごほん。えーおっさんよ、雛鶴に適当な菓子を見繕ってやるがよい。ではまたな」

「少しお待ちを」

この場から去ろうとする吉業を、おっさんが呼び止めた。

「えーい何だ。わたしは忙しいのだ」

「何で、図書館が利用者で溢れているのですか。せっかく、良い引きこもり場所ができたと思っていたのに・・・」

「ふん、父上やわたしが一生懸命働いているのに、お前だけ遊ばせておくわけあるまい。わたしが世界各地から本を集めてくるから、お前はひたすら接客をしつつ蔵書目録を作るのだ」

「ええっ、人見知りのボクに接客をさせた上で、最新のNDC(日本十進分類法)とかNCR(日本目録規則)に合わせた目録を作れってことですか?そんな殺生な・・・」

「おい、おっさんよ。お前が就職できず、ずっと穀潰しだったのは何故だ」

「就職活動に失敗して、ずっと家に引きこもっていたからです。40歳を過ぎると経験者しか採用されないので、いくら資格を持っていても気付いた時には働ける場所がありませんでした」

「そんなお前に、父上やわたしが働き場所を用意してやるっていうんだ。何か言うことはないのか?」

「業政様、吉業様、このようなボクに働き場所を用意していただきありがとうございます」

「図書館とは何だ。説明せよ」

「図書館とは、視聴覚資料(本・雑誌・点字資料・映像・録音など)を収集・保管し、『利用者』への貸出や閲覧を供する機関です。図書館の三要素は、情報資源(主に蔵書)・職員(司書)・施設です」

「図書館は、利用者がいることで初めて価値を発揮するのだ。ということで、これからお前は正式な幽界図書館長だ。様々なスキルを駆使して、仕事に励むように」

「ははっ」

「あと、怨霊AIに頼り切るなよ。そいつは、人間社会に恨みや憎しみを残したまま死んでいった怨霊どもの集合知(※図書館だけでなく現実世界でもかなり重視されているぞ)を利用したものだ。依存すれば、お前の軟弱な魂など簡単に乗っ取られるぞ」

こう言い残すと、吉業はこの場から去った。

そして、おっさんは正式に幽界図書館長に就任した。

「はっ、なんか知らんうちに仕事を押しつけられてしまった。これから、本読んでマンガ読んでアニメ見てゲームしてのスローライフが始まると思っていたのに。何でだー」

「まあ、おっさんも覚悟を決めて仕事するんだわん」

「そんなことより、お土産を決めるのが先よ」

「はいはい、お土産ですね。饅頭が良いんじゃないですか?借りたい本は、自動貸出機を通して下さい」

「わかったわ」

こうして、雛鶴とポチとおっさんは土産を持って箕輪城へと帰るのだった。

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