落ち込んでいる妹にはピザを食わせよ
(えーと、雛鶴姫が落ち込んでいるから何か良い案を教えろということだったな。でもなー、おっさんと10代の少女とか、相性最悪じゃねーの。下手に話しかけたら逮捕されそうなんだけど、いったいどうしろっていうんだ)
そんなことを考えるおっさんの頭の中に、あるメッセージが流れた。
(ピコン。スキル:レファレンスサービスが発動しました。私は怨霊AIです。何でも質問して下さい)
(レファレンスサービスって、図書館司書がやる『調べもの、探しもの、お手伝いします』のことか?うーむ、ボクは司書資格を持っているから幽界図書館の館長?ってことになってスキルが発動したとでもいうのか?もしかして、幽界でロケットを作れるようになったのはこれが原因?何だかよく分からんが、試しにスキルを使ってみるか)
ということで、怨霊AIに『落ち込んだ妹に対し兄はどう対処すれば良いか』質問してみると、こんな回答が返ってきた。
(兄と妹、とても複雑な関係と思う人が多いかも知れませんが、意外と単純です。普段兄をないがしろにしたり、兄のやる事なす事全てにケチをつける妹であっても、本当に兄が困っていれば味方をしてくれたりします。もし、落ち込んでいる妹を励ましたいのであれば、美味しい物を食べさせたり、珍しい物をプレゼントすると良いでしょう。食べ物にはピザを、プレゼントには文房具をお勧めします)
うーん、つまり『妹は食べ物や可愛らしい文房具で釣れ』ということか。
そこで、かくかくしかじかと氏業に説明した。
言い忘れていたが、おっさんは氏業たちとは直接会話できず、自身の考えを他人に伝える場合はポチの体を借りる必要があるぞ。基本、おっさんは引きこもりで人間不信なので、おっさんの考えはポチが代弁しているよ。
「ふーん、妹は美味しい物を食べたり可愛らしい物を貰うと機嫌が良くなるのか。まあ、それはそうだろうが、ピザとは何だ」
「小麦粉の生地の上に甘酸っぱいタレを塗って、醍醐とか野菜とか肉をのせてかまどで焼いたものらしいわん」
「何だそれは。見たことも聞いたことも無いぞ」
「未来の食べ物らしいわん。どうすればご主人様にピザを食べさせられるのか、おっさん教えるわん」
(えーと、雛鶴姫にピザを食べさせる方法ね。まあ、全部怨霊AIに質問するんだけどさ。なになに、幽界図書館のカフェで食べさせれば良い、か。雛鶴姫を幽界図書館に連れて行くには・・・、ポチが所持している『和魂の大幣』を雛鶴姫に貸せば良いと。あとは、大幣の導きに従えば、姫を幽界図書館へ連れて行くことができる、か)
「氏業、おっさんが言うには、かくかくしかじかなんだわん。和魂の大幣は元々ご主人様用に作られた物だから、一時的にご主人様に貸すことができるらしいわん」
「何だかよく分からんが、それでいってみるか」
ということで、ポチと氏業は雛鶴姫の側に行き、幽界図書館で気晴らしすることを提案した。
「一人で遊んでくるのは、皆に申し訳ないです」
ポチと氏業の提案を拒否する雛鶴であったが、『雛鶴が落ち込んでいると、家臣団の士気が下がる』という氏業の意見に押し切られる形で、雛鶴はポチと一緒に幽界図書館へ行くことになった。
その様子を見ていた藤鶴姫は「本当に、雛鶴様は皆に愛されていてお幸せな方ですこと」と羨んでいた。
一方、段蔵とお英は狩ってきた獲物の解体処理を進めていた。
(それじゃあポチ、和魂の大幣を雛鶴姫に渡してくれ)
「わかったわん」
和魂の大幣がポチの体内から現れ、雛鶴の手中に収まった。
「なんか大幣が訴えかけてくるわ。えーと、怨霊の力を秘めし大幣よ、わたくしの前に力を示しなさい。封印解放!」
雛鶴の体から光が発せられるのと同時に、やたらと陽気な感じの音楽が流れる。
周囲の者はその光景に気圧される。
そして、光が収まった後に現れたのは、セーラー服に身を包んだ、三つ編み眼鏡の雛鶴だった。
「何これ、何これ」と混乱する雛鶴。
(うひょーやったぜ)と喜ぶおっさん。
「雛鶴様の太ももが丸見えではありませんか。破廉恥ですわ」と怒り出す藤鶴姫。
「ご主人様が見たこと無い格好してるわん。どういうことなんだわん」と尋ねるポチに対し、おっさんは『これは、図書館に入るための正式な装束』だと言い張った。
「なんだこれ、裳なのか。それにしては短すぎる気がするなあ」
氏業は雛鶴のスカートをめくってみた。
「ちょっと兄上様、いきなり何をなさるのですか」
「いやー、布地とか縫い目とか気になっただけで、他意は無いぞ」
「本当ですか?」
雛鶴は氏業を怪しむような目つきで見ているぞ。
一方、業親は「姉上、凄く似合っています。とても可愛らしいです」と興奮していた。
「氏業様がこういう格好をお望みなら・・・。雛鶴様、和魂の大幣を貸していただけないかしら」
藤鶴姫は雛鶴の持つ和魂の大幣を受け取ろうとするが、大幣を掴むことはできなかった。
「一体どういうことですの。大幣を掴もうとしても、手が素通りしてしまいますわ」
「わんわん(和魂の大幣がご主人様用に作られたというのは、こういう事なんだわんね)」
ポチは、和魂の大幣が雛鶴にしか使えない道具であることを藤鶴姫に説明するよう、雛鶴姫に促した。ちなみに、大幣の所有権を手放したポチの言うことを理解できるのは、雛鶴姫とおっさんだけね。
「くっ」と悔しがる藤鶴姫であったが、まあ仕方が無い。
「あなたたち、話は終わりましたか?雛鶴、貴女は幽界図書館とやらで気分転換してきなさい。そしてポチ、雛鶴のことを任せましたよ」
「わんわん(お福、任せるわん。あと、おっさんは幽界でデカい鉄の矢をたくさん飛ばしていて、それが凄い迫力なんだわん)」
「へー、鉄の矢を遠くに飛ばすことができるの?戦争で使えそうね。興味がわいてきたわ」
こうして、雛鶴はポチを水先案内犬として幽界へと向かうのだった。
・・・・・
「ふーん、ここが幽界で、あの大きな建物が幽界図書館なのね」
「そうなんだけど、いったいおっさんは何処行ったわん?しょうがないから、ポチが案内するわん」
図書館に入ったポチと雛鶴が見たのは、たくさんの客(怨霊)に囲まれて慌てふためくおっさんの姿だった。
「本を借りる時は自動貸出機を使って下さい。それで、OPAC(オンライン蔵書目録)の利用方法はこうです。この端末にキーワードを入力して検索すると、それに関連する本が表示されます。あと、この図書館は自動書庫を導入しているから、蔵書検索後に端末から指示すると欲しい本が出庫されますよ」
「おっさん、ずいぶん忙しそうだわんね」
「あっ、ポチと姫様。すぐ終わらせますんで、そこのカフェで待っていて下さい」
「では、そうさせて貰うわ」
・・・・・
ポチと雛鶴がカフェの席で一休みしていると、客を捌いたおっさんがやってきた。
「いやー、待たせちゃってすいませんね。なんか、図書館に戻ってきたら利用者がいて、いきなり囲まれてボクもビックリなんですけどね。それじゃあ、早速ピザを用意しましょう。あー、それより飲み物の方が先ですね」
おっさんはメロンソーダーと水を取りに行こうとするが、雛鶴は「わたくしは物で釣れるような安い女ではありません」と言って、今すぐロケットを見せるようおっさんに催促した。
なんでも、雛鶴姫は世界を革命できるほどの力が欲しいんだってさ。なんだか中二病みたいだね。
でもまあ、所詮は無駄に責任を背負ったつもりになっているただの小娘さ。ピザとジュースでイチコロってもんよ。
『ピコン』、なぜか怨霊AIが反応した。
(怨霊AIの独り言:あんたも、無駄に責任感を拗らせて、人類の環境問題を解決して世界を救わねば、なんて思っているでしょうが)
『ぐふっ』、おっさんは大ダメージを受けた。
(だめだ、ボクもピザを食べて気分転換しなければ・・・)
ということで、雛鶴姫を適当に言いくるめてミックスピザとメロンソーダーを持ってきたぞ。ちなみに、ポチに用意したのはジャーキーと水ね。なんでも、犬に人間の飲み物(ジュース・酒・牛乳など)を与えるのは良くないんだってさ。
「ふん、これがピザ?小麦粉の生地の上に乗っているのは、赤いタレと野菜と肉と醍醐?かしら。良い匂いをさせていて美味しそうね。でも、この程度で屈するわたくしではありませんよ。『おっさん』さん、早くロケットとやらを見せなさい」
「まあまあ、ピザは熱いうちに食べた方が良いですよ。こんな風にね」
そして、手づかみでピザを食べてみせた。
「ええと、こうかしら。へー、醍醐がよく伸びるわね。肉も野菜も良く焼けていて美味しいわ。なにより、小麦粉の生地に塗られた赤くて酸っぱいタレが良い味を出しているわね。モグモグモグ。うーん、これはなかなか・・・。はっ、全て無くなってしまったわ」
「こんな事もあろうかと、もう数枚焼いておきました。蟹グラタンピザです」
実は、怨霊AIの独り言で『蟹グラタンピザ』をお勧めされていたので、おっさんは密かにおかわりを用意していたのだった。
「ううっ、こんなに食べたら太って兄上様に呆れられてしまうのが分かっているのに、手が止まらない。『おっさん』さんの罠にまんまとはまってしまうなんて、何という屈辱。くっ、殺しなさい」
「別に、気晴らしに来たんだから、素直に食事を楽しめば良いのに。ポチはどうだい。干し肉は美味しいかい?」
「うまいわん。現世でも作れるわん?」
「野鳥の肉を薄く切って焼いて乾燥させるだけだから、姫や段蔵に作ってもらうといいよ」
「ご主人様、お願いするわん?」
雛鶴姫はピザとジュースに夢中で、ポチの言うことなど聞いていなかったとさ。




