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魔法科学の最終定理 ──創世の術式と黒甲冑──  作者: 団丸


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第94話◆時間を追い越した機関車

 モヤの中を、機関車が狂ったような速度で駆け抜ける。激しい車輪の音が機関室を駆け巡る。ガルド機関士は壁に叩きつけられた。ポルックスは窓を掴み難を逃れた。

時々、計器がカタカタ鳴っている。


ポルックスはガルド運転士に駆け寄る。肩を貸し上体を持ち上げた。機関室は闇に覆われていたが警報の赤だけは目立つ。


運転士は加減弁の方に手を向け「早くしないと。加減弁を・・・」呻き声を出しながらヨロヨロしながら立ち上がるが思うように足に力が入らない。



焚口戸の熱さが身体に刺さる。ガルド運転士を床に寝かせポルックスは近くにあったタオルを何回も手に巻き加減弁のレバーを握った。生地越しに熱さが伝わりすぐにでも離したい。


レバーを握った瞬間「坊主、死にたくなければ一気にやるんじゃねえぞ。」


汗が噴き出し、熱が痛いくらいに刺さる。

顔に流れる汗で目に入り視界がぼやけるが亀の歩みぐらいゆっくりレバーを引く。


車輪のレールを削る音。計器類のカチカチする音が脳に反響する。



もう、息の仕方さえ、わからなくなる。



――カチッ。


 ついに加減弁が最後まで戻りきった。

 狂ったような咆哮を上げていた蒸気が、ふっと力を失ったように。

 シリンダーを叩く激しい衝撃が、遠い雷鳴のような低い唸りへと変わっていく。


 機関車は、慣性で闇の中を滑り始めた。


 耳を劈くような金属音は消え、代わりに聞こえてきたのは、雨粒がボイラーの熱で蒸発する「チリチリ」という小さな音と、ポルックスの激しい呼吸音だけだった。


 ポルックスは、タオルの巻き付いた手をレバーから離した。

 熱で固まった指が、自分のものとは思えないほど感覚を失っている。

その時、ケガをした車掌がガラスが割れたドアから入って来た。


「後方の爆発により乗客、けが人ンー・・・ 」



あまりの血の量で口を噤んでしまったが。間髪入れずガルド運転士は「報告は?」と促した。


「後方の爆発により、けが人多数。一車両破損」



車掌の声は、ひどくかすれていた。



 報告を終えた彼は、そのままがっくりと膝をつきそうになりながら、ふと震える手で懐中時計を取り出した。


 カチ、カチ、カチ……。


 静寂が戻った機関室で、秒針の音だけが異様に大きく響く。

 車掌は何度も、血のついた指で時計のガラスを拭い、窓の外の闇を睨みつけた。


「……おかしい」



 その呟きに、ガルドが眉をひそめる。



「何がだ。……落ち着いたじゃねぇか」



「ガルドさん、時間が。……時間が早すぎるんです」


 車掌は、取り憑かれたように時計と外の景色を交互に見つめた。


「さっきの鉄橋……あそこを通過したのは16時30分。本来のダイヤより、五分も早い。あの猛烈な暴走で、予定を縮めちまったんだ」


 ポルックスは、息を呑んだ。


「……それが、どういうことなの?」


車掌が目を見開いた。


「単線だ……」


沈黙。


 車掌の顔から、一気に血の気が引いていく。




 車掌は窓にかじりつき、前方のモヤを指差した。


「……もしかしたら、この先に、もう……ッ!」


 その言葉が終わるか終わらないかの瞬間。

 モヤの向こう側、漆黒の闇の中から――。

 

 ボォォォォォォッ!!

 

 空気を切り裂くような、巨大な汽笛の音が轟いた。

 同時に、モヤを白く焼き切るような「二つの巨大な目」が、真正面からこちらを睨みつける。



「……間に合わねぇ」





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