第91話◆うしろに引かれる
車窓から顔を出す。
――黒甲冑がいた。
列車の後方。
片手を掲げたまま、動かない。
次の瞬間。
列車はどんどん後ろへ引き戻され、軋む音を立てながら、スピードを落としていく。
「くそっ……!」
煉が低く唸り、明里とポルックスに向かって叫んだ。
「明里、ポルックス! 乗客を先頭車両に誘導しろ! 車掌には全速で走るよう伝えろ! 急げ!」
明里とポルックスは即座に頷いた。
先頭車両へ、全力で走り出す。
車内を駆けながら、二人は叫ぶ。
「前に移動してください! 急いで! 後ろは危険です!」
真ん中あたりの車両まで来た時、明里は足を止めた。
(煉……一人で、あれと……?)
胸の奥がざわつく。
(私の判断ミスで、みんなを巻き込んでしまったかもしれない)
――あのとき、魔力を使わなければ。
あの瞬間。
ほんの一瞬の判断が、
今、全員を巻き込んでいる。
「……ポルックス、ごめん。乗客の誘導を頼む。私は煉のところに戻る!」
言い終わらないうちに、明里は踵を返した。
後方の車両へ駆け出す。
一方、煉は最後尾の車両で一人、身構えていた。
列車は急に前方へゆっくりと動き出したかと思えたが、――ガツン。天井から、重い金属音が響いた。ガツン……ガツン……規則正しく、まるで何かが歩いているような足音。
ガツン。
音が止まる。
――来る。
煉は息を殺し、天井を睨む。
その瞬間――
天井の金属板が大きくへこみ、ドンッ!という重い衝撃音が車内に響き渡った。
鉄板が裂ける。
裂けた鉄板の隙間から、
――黒。
まず、それだけが見えた。
次に、指。
金属の、ありえない形に歪んだ指が、縁を掴む。
車内の空気が、重く沈んだ。
続きが気になったら、下の【☆☆☆☆☆】で応援お願いします!励みになります




