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魔法科学の最終定理 ──創世の術式と黒甲冑──  作者: 団丸


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第88話◆虚ならば回収せよ

 首領の前で、俺はひざまずいていた。


「明里を連れてこれないとは、どういう事だ?――黒甲冑」


低い声が、暗い館の奥で反響する。

逃げ場はない。沈黙すら、罪になる空間だった。


俺は、黒甲冑。

その名で生き、その名で殺してきた。

だが――

俺には、越えるべき壁がある。



首領は、俺を救った。



死ぬはずだったこの命に、意味を与えた。

力をくれた。

黒甲冑の力を。

空間を渡る力を。

世界の理の外側に立つ力を。

俺はそのすべてを、首領のために使ってきた。

命令に疑問を持ったことはない。

躊躇したこともない。

血に塗れた仕事も、

名も残らぬ粛清も、

すべて、この力の証明だった。

それが正しいと信じていた。

それしか、生きる意味がなかった。 



――だが。



あいつは。


明里は。



俺を否定した。

 



力ではない。

恐怖でもない。

支配でもない。

あいつは――俺を、“越えた”。

俺の誇りを。

俺の存在理由を。

そして――

俺が積み上げてきたすべてを。

あの夜――

俺は初めて、

自分が「空っぽ」だと知った。


だから――




取り戻す。



俺の矜持を。

俺の存在を。

あいつを倒し。

あいつを否定し。

あいつを越え――

俺が、“俺”であることを証明する。



首領を一瞥する。

許可など、いらない。

あいつは――俺の獲物だ。

俺はなにも言わず、部屋を後にした。



背後で、首領の気配がわずかに揺れた。

だが、俺は振り返らなかった。


扉が閉まったあと、部屋には静寂だけが残った。

黒甲冑が去った扉を、首領はしばし見つめていた。


やがて、闇の奥で低く呟く。創生の術式の紋章を確認するようになぞった。


「黒甲冑……貴様が虚か実か。そろそろ見極めねばならん」


「虚なら――その身体ごと、回収するとしよう」




首領の瞳には、もはやかつての“駒”を見る色はなかった。


その声は、誰に向けたものでもなく、

ただ冷たい事実として空間に沈んでいった。


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