第87話◆未完成の世界と最後の鍵
わたしたちは森の奥へ、奥へと進んでいった。
夜の森は、音が少なすぎて逆に怖い。風が葉を揺らすたび、何かに見られている気がした。
黒甲冑をいなして倒したはずなのに――
胸の奥に残っているのは、勝った手応えよりも、不安だった。
(……あいつ、魔法を“追ってきた”)
さっきの戦いで、はっきりしたことがある。
黒甲冑は、わたしたちの魔法を傍受して――その近くに転送されてくる。
わたしは、歩きながら煉とポルックスに言った。
「ねえ……黒甲冑が、私たちの魔法を“拾って”飛んでくるなら……できるだけ、魔法を使わずに移動した方がいい」
煉は、前を向いたまま低く返す。
「海路は無理だな。陸に上がるたび、あいつに殴られる」
ポルックスも頷いた。
「誘導されてるみたいなものだ……こっちの行動が、全部筒抜けだ」
わたしは、唇を噛んだ。
(……だから、移動方法を変えないと)
――その数時間後。
遠く離れた闇の中で、ひとつの声が低く響いていた。
黒の旅団の首領は、ゆっくりと語る。
神は超常ではない。ただの高度な定理だ。
世界は未完成だ。神は――その証明を途中で投げ出した。
この世界は、誰にも解かれないまま放置された数式に過ぎないんだ。
失敗作のまま放置された世界を、私が修正しろという神の思し召しだ――
そして――
その「最終定理」を証明するのは、私だ。
ならば――自分が神になる。
「神は――無から有を生み出した」
何もなかった世界に、光を与え、
そしてクリスタルに命を吹き込んだ。
だが、それが間違いの始まりだった。
命を与えられた結晶は、やがて意志を持ち、
暴走し、町を焼き払った。
結晶の獣がすべて黒に塗りつぶした。
人々はそれを恐れ、こう呼んだ。
――クリスタルビースト。
最初の七日で、町は炎に包まれ、
次の七日で、すべては灰になった。
それは伝説として語り継がれてきた。
だが――
「実在する」
首領は、手元の一冊の本に視線を落とす。
創生の術式。
神が世界を作るために用いた理論。
「その本は、今、私の手にある。そしてクリスタルビーストも」
だが、錬金術師も、知恵ある者たちも、
誰一人として、この術式を解くことはできなかった。
――“鍵”が、足りないからだ。
首領の口元が、歪んで笑う。
「だから私は、明里を呼び寄せた。この世界に。
創生の術式の在り処を突き止め、その謎を解かせるために。
だが―
明里を連れてこれないとは、どういう事だ?黒甲冑」
首領の冷たい目が黒甲冑を射抜くように見つめていた。
首領は確信していた。
明里こそが――この世界を完成させる、最後の鍵だと。
――すべては、創生のために。
4章 完
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