陶器姫の第一の成り上がり
「ただいま戻りました」連れて行かれたのは王都のメナ街の中心地にある大きな商会であり、フィー向け家具の販売規模第一位のシリスターク商会だった。
「遅かったですね。シェリネス」オジガエルの名はシェリネス。年は40代前半といったところだろうか。
「そちらは?」
「彼女はトレーリン。みなさんご存知の陶器姫です。看板娘にちょうど良いかと。下働きとして雇いませんか」
「珍しいわね。あなたが誰か連れてくるだなんて。後ろの人は誰?」
この人は誰だろうか。見た目は茶髪に緑眼というオーソドックスな感じだが、強気そうで豪胆な性格が言葉の端々から感じ取れる。気に入ったものはとことん可愛がり、気に入らないものには情けはかけない。そんな感じがする証拠に、シェリネスを見る目は優しく、トレーリンを見る目は冷たい。どことなく八方美人そうな感じがするシェリネスみたいしてよりは、よっぽど好感が持てた。
「彼は陶器姫の保護者です。木工職人なので彼にも家具職人として共に働いてもらおうかと」
「滅多にわがまま言わないあなたの頼みだもの。聞いてあげたいけど…まずその前に」
「うわっ」手を掴まれて脱衣所と浴ができる場所に連れてかれる。
「どのくらい美人で看板娘になる子なのか、確かめないといけませんね!」
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店で働くには信用と身元保証が大事だ。普通はなかなか見ず知らずのメノの子供とその保護者を雇ってやろうなんて気にはならない。それがここのような大商会になれば尚更だ。それなのに……。
「へえ。あなたが商会長のフェリさんで、48歳の既婚女性なんですね。」
「そうそう。さっきのシェリネスの姉!」
「シェリネスさんの姉とは思えないくらいの美形…」
「まあ、トレーリン!可愛いこと言ってくれるじゃないの。飴ちゃんいる?」
「もらいます。」
浴室の衝立の向こうから聞こえてくる会話に思わずため息をつきました。どうしよう。連れてきたのは私ですが、なぜこんなにも打ち解けるのが早いのですか…。わかっています。彼女の決して愛想がいいわけではないけれど素直そうなところとか、気の利いたところで褒めてくれろところがフェリくらいの女性はキュンとするのでしょう。ですが私はひどいこと言われたばかりなのにな…。
「あら、やっぱり可愛い子ね!ほらここもうちょっと紅たすわよ〜。きゃあっ!もう雇うっ!雇うわ!」
「旦那さんに相談しなくてよろしいのですか?」
「いいわよ!長は私だもの!
あっ、ちょっと待って、やっぱり下働きを看板娘にするだなんて商会の品位が下がるって怒られそうわ…。いいこと思いついた!あなたのことは従業員、つまり店員として雇います!」
「えっ。メニになってしまうではありませんか」抑揚のない彼女の声からは感情を読み取ることはできない。が、位が上がるので嬉しくないということはないだろう。
「あのう」口を挟む。
「だってあの老人は私たちのお抱えの木工職人にするのでしょう?それならばメニどうしの方がいいわ」
「そうかもしれません」
「あのっ」
「あら、シェリネスを待たせていることすっかり忘れていたわ。衝立越しだと話しづらいわね。今行くからちょっと待ってて。」
「ふう」
「ジャーン」
「フェリ、口調が乱れてま……」大きく目を見開いて、間抜けな顔をしているであろうことが自分にもわかった。それでも現れたトレーリンから目を逸らせなくなる。
豊かな金髪はこの世の光全てを集めているかのような輝きを放ち、黒く濡れた瞳は吸い込まれてしましそうなほど深く美しかった。心なしか血色の良くなった肌は艶めいて、相変わらず真一文字に引き結んではいるが潤った唇がさらに美しさを引き立てている。鼻の高さと角度、眉の形太さ、涙袋のサイズ位置まで、ここまで完璧な美貌を持つものを私は他に知らない。14歳にしては痩せすぎではあるが縦には平均的な身長くらいにスラリとのび、出るとこは出ていてシンプルな白のワンピースがこれ以上なく良い形を作っている。
「あっ…。……とても綺麗です。」
「わあ!シェリネスが一目惚れしちゃった!」
「ちょっ」こんなふうに私たちが騒いでいるというのに、
「いやあ、少しはマシになりましたね。どうです?店頭にいたら『まあ、入ってやろうかな』くらいの気持ちにはなります?」当の本人は真顔でこんな調子だ。
「ここまでか…。ここまで綺麗になるのですか…。」
「そうでしょう、そうでしょう!これで教養もあるのだから、やはりメニにすべきよね!」
「ああ。」
「わーい。出世だあ。」いや、棒読みで言われてもですね…。
「それでは契約書にサインを!」
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シリスターク商会雇用契約書
フェリの名の下に、このトレーリンをメニとして雇うことを契約する。
シリスターク商会長
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「案外シンプルですね」
「キャハハっ!トレーリンちゃん素直!可愛い!でもこれでいいのよ〜。あめちゃんいる?」
「もらいます。」いったい幾つポケットに入れているのだろうか。なくなるまでもらおう。
「この契約書もずっと持っといてね!」
「はひ」
「あら?」
「ふはふほはへはほへひっひひはへへひはふ。ほひひひへふ。」
「二つもらえたので一気に食べています。美味しいです、か。嬉しいわ!でも、喉に詰まらせないようにね。子リスみたいに膨らませちゃってあらやだかわいい!」
「いや、なんでわかるんだ…」
バリボリバリボリ
「それに喉詰まらせないか、私も心配してしまいますよ…」
バリボリバリボリ…ごっくん
「ほらこれで心配なくなりましたね!」
「「あの量を一瞬でっ?」」
「もっと味わって食べろということならすいません。しかし栄養が足りず体が糖を欲していたもので…」
「あらあらまあまあ。かわいそうにね。よし!夕飯にしましょうっ!今日はお祝いで栄養があって美味しいものをたくさん食べさせてあげるからね!料理長、よろしく!」
「はい!」
ゴクリ
食事…この言葉はトレーリンを豹変させるものであった…。




