水蒸気爆発
俺以外にも柚季派を追っている人々が存在すると断定する根拠は他にもある。身柄を引き渡す時に現れる人が『次は…へ行って、その次は…』と慌ただしくしていた。 『次がある』ということは俺の他にも並行して鎮圧されている拠点があるということだ。
「よし、やるか」
体力は回復して気力も十分回復した。
体のエンジンも依然好調で、新しい兵装にも慣れてきたところだ。
これ以上、何も起こさせないために柚季派は殲滅する決意をした。
最後の拠点は、マンションにあるらしい。
周りの住民に怪しまれる可能性が出るので、他の人たちと協力するという連絡を受けた。
「久しぶりだなリツト」
「それほど経ってないだろ。井原原。ま、久しぶり」
ロビーの前にスーツ姿の人々、それに井原原が集まっていた。
「近隣の方々に怪しまれるとマズい。とっととやろう」
彼がそう言ったのでマンションのロビーに入ろうとすると、「そこじゃない」と彼に呼び止められた。
「こっちだ」
そう言って、彼はマンホールの方を指差した。
どうやら今回の拠点は地下にあるらしい。
「最初に言ってくれよ」
「最初に言っとくと、突っ込んじまうだろ。今回は俺たちとお前の作戦だ。足並みはそろえないとな。あと二分後に工事会社が来る。それまでは変に動くなよ」
人通りは多いとはいえない場所だが、誰かに見られるのはあまり良いこととは言えない。ただ、早く乗りこみたくてうずうずする。
「そういや、俺がここに配属された理由、聞きたいか?」
急に彼が話題を振ってきた。
「急にどうした?まぁ、聞いておこう」
「バランス調整だ。一つの部隊に戦力が偏ってたら駄目だろ?茨木さんは例外らしいが」
「そうなのか」
なるほど、とすんなりと納得できた。
心のどこかで『彼を左遷させてしまったかもしれない』という負い目があったので安心できた。
「当初はそれで良かったんだがな。そこで問題が起きた。ルーキーにしては、お前が強すぎるんだ」
急に俺が評価され始めたので少し驚いた。
「褒めてるのか?それ」
「ああ褒めてる」
「そうか。ありがとな」
「んー。話の腰を折るな。現時点でリラシオの拠点を潰して回れていて、カリムに未来を把握されている幹部級撃破記録保持者。それがさらに問題児がいる第二部隊に配属されている」
「問題児?誰のことだ」
「いや、なんとなく分かるだろ?沢潟さんだよ。あの人はとある事件で大暴走してる」
能力者が暴走したのであれば、その要因は一つしか思い当たらない。
「能力のせいで暴走したってことか?」
「よく知ってるな。リラシオでもちょくちょくあったのか?」
「ああ、俺は見たことないけど、親父に話を聞いたことがある。潜在意識に引っ張られすぎると、それに飲み込まれて理性が無くなるんだってさ」
「へー」
「いや、能力と潜在意識の関係については、リラシオ独自の仮説だからな。真に受けなくてもいい」
「ま、沢潟さんに何かあるっぽいから、能力の暴走みたいなことはあるんだろうな」
俺たちが雑談をしている間に、業者が到着して準備をし始めた。
「どうしてそんな話を?」
「え?…いや、ただの雑談だよ。意味のない。そういうもんだろ。友人同士の会話は」
「それは…そうだな」
『休んでる能力者二人。仕事だ。君たちが前衛を張れ』
『『了解』』
指示を受けた俺たちはガスマスクをしてマンホールから拠点に侵入した。梯子を下っていくと、下水が隣で流れている通路に到着した。
『こちら杜若、毒ガスはないみたいです』
『よしそのまま計画通りに進んでくれ』
俺たちは暗闇の中、送られてきたデータを頼りに歩き始めた。
マンホールの中は、恐らく能力によって拡張、改造されており通常のマンホールから繋がる地下とは思えないほどには広い通路が広がっている。
足音が暗い通路に響く中、懐中電灯で道を照らしながら歩いていると、俺たちとはまた別の足音が聞こえてきた。
『二人かな。足音的に』
光はない。相手側に暗視ゴーグルか暗闇の中でも近くできる能力があるのだろう。
『井原原、暗視持ってるるか?オンオフ切り替えられるヤツ』
『ああ、持ってる』
『じゃあ一人よろしく』
ナノマシンの一部をサングラスのように変形させて暗視機能を起動する。
『合図で閃光弾を使う。上手く合わせろよ』
こちらに走ってくる二人に向かって、俺たちは同時に引き金を引いて電気弾と水の弾を上手く当てて爆発させた。
電気弾の一瞬の光で分かったが、右側の男は暗視ゴーグルをかけている。
爆発に臆さず、乗り越えて走り続ける二人に対して、彼ら強さを推定して身構える。彼らはリラシオの一般構成員より明確に上の実力を持っているようだ。
『井原原、左は任せた』
『おう、任されたよ』
俺が戦う右の相手がナイフを投げて来た。
(罠か?)
そう思った瞬間に、ナイフの数が一から二十に増えた。
コートを変形させて体を完全にカバーしきれる盾を作りそれを防ぐ。
マフラー程に残ったナノマシンを変形して銃を作り、盾に穴を開けて電気の銃弾を放つ。
それさえ避けてナイフで切りかかってきたので、盾の一部を掴んで小手に変えて受け止める。
『5秒後、閃光』
井原原にそう告げて、盾のナノマシンを全て回収し、四肢の装甲とナイフに変形させた。
増えるナイフに対応しながら、奴の攻撃を5秒間捌き切り、手のひらから電気の閃光を放った。
ナイフを増やす能力者は目が眩み、一瞬だけ動きが止まる。
そこにすかさず銃弾を撃ち込んで電流を流す。一瞬動きが止まったところに蹴りを入れて電気の剣で追撃する。
(まだか)
まだ倒れない敵に対してさらに攻撃しようとすると、俺と奴の間に割り込む者が現れた。
どうやら、物を増やす能力者は、自身をも増やすことが出来るようだ。
さらに、電気を使った際に確認したが、増えている筈のナイフが消えてなくなっている。
ここで考えられるのは二つの可能性だ。
一つ目は分身の維持にリソースが割かれること。
二つ目はこれらが嘘、ブラフであるということ。
両腕の装甲から剣を生やして電流を流す。その電流を明かりとして、二人の攻撃を捌く。
相手に手数が増えるのは厄介だ。
囲まれ続ければ、一方的にダメージを食らってしまうし、その状態が長時間続くのは良くない。
たがそれは、繰り出される攻撃が脅威であるから成立する。
「圧が足りないな」
二人の攻撃を受け止め、分身と本体の首を掴んで電流を流すことで気絶させた。
分身の方は本体が気を失うと煙のようになって消えていった。
『まだ、続きがあるみたいだぞ』
『頑張っていこう。無理はするなよ。爆発を仕掛ける。井原原、いけるか?』
『もちろん』
通路の奥から、足音が続々と聞こえて来た。
左腕にガトリングを形成して右腕は剣を形成した。
「ククク。暴れるか」
ガトリングを斉射して前衛の動きを止めたら人ごみの中に切り込んだ。
約十人あまりの一団を抜けたら、ガトリングをライフルに変形して、振り返って合図を送ってから引き金を引いた。
爆発で全員を一網打尽にし、そのままその拠点にいる全ての構成員を無力化した後、地上にいる方々を呼んだ。
「おい、杜若」
「ん?」
手錠がつけられて動けなくなった分身使いが叫んだ。
「どうして、そんな顔をしていられるんだ?お前は何であれ裏切り者だぞ。信頼を踏みにじった!人を騙した!お前はそっち側じゃないはずだ!どうしてそこまで愉快そうに戦ってるんだ!」
『止めるか?…リツト?』
俺は何も反論することが出来ない。反論するつもりもない。
「…おい。何か言い返せよ。じゃあなんで俺は自分を増やしてまで寂しさを紛らわせているんだよ!」
「あー。黙れ」
すると、どこからか現れた安藤さんが銃を撃って彼を強引に黙らせた。
「麻酔銃だ。連行する時に喚かれると困るからな」
「あ、どうもです。先輩」
「うん、お疲れ。まだ仕事は残ってるからな」
続々と構成員たちは連行されて行って、地下には安藤さんと井原原と俺だけとなった。
「君たちも分かっているだろうが、柚季派のほぼ全ての構成員が首都圏に向かって動き始めた。第一も対処をするつもりだ。今回で柚季派を壊滅できれば、リラシオの勢いも相当弱くなるだろう」
「良いんですか?俺に情報を言っても、俺が知るってことはカリムが知るってことですよ」
「構わない。奴に情報でプレッシャーを与えることが目的だからな。絶望的な状況を叩きつけられれば、人は考えさせられる。現在のリラシオには互いの派閥間で協力できる関係にない。本部進行が失敗したからな。スパイや情報屋からも杜若カリムの言動を疑問視している者が増えたという情報があった。アイツは未来が見られるだけで全能ではないということだ」
確かに、そういう考え方もできる。今までカリムに知らせないためにも色々な情報を取り込まないようにしていたが、わざと知らせることで奴の行動を制限する可能性もある。
「ありがとうございます。参考になります」
「ん?…ああそう…か」
急に俺が礼を言ったからか、驚いていた安藤さんはやや詰まりながら答えた。
ナノマシンの汎用性が高いなーと思いながら書いていました。




