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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
化け物とヒト
31/50

運命に出会っていた

 満月の夜、オレは、運命の出会いをした。


 今まで、世界はオレに都合が良すぎた。何をやっても、俺を肯定してくる。


 それを認識したのは小学生の頃だった。


 ある日、オレは遊んでいる途中に家のモノを壊してしまった。


 完全にオレのせいだと思って、取り敢えず壊したものを隠して、結局バレた。



 それは良い。

 重要なのはそれからだ。



 そして親は俺に「怖かったねぇ」 と、まるで慰めるかのように言った。


 彼らに怒りはなかった。実際に怒られることもなかった。


 次は学校で名無しの状態でテストを提出してみた。


 返ってきたのは『おまけ』と書かれ、オレの名前が付け加えられた解答用紙だった。その『おまけ』は5回も続いた。


 それをやめた理由は、気味悪がってこっちが止めたから。

 多分、このまま続けていたらずっと『おまけ』を貰えていたと思う。



 一人称を変えてみた。

 髪を染めてみた。

 ピアスを開けてみた。

 犯罪は…起こす勇気がなかった。


 敗れる勇気があった規則はいくつも破ってみたが、何故か私だけ許された。


 他人と一緒に破っても私だけ許された。それでも周りに嫌われなかった。私だけに都合が良かった。


 本当に気味が悪かった。伝えてくれる善意が、全て薄っぺらく見えた。


 多分、褒めてもらえるであろうことしても、そのありがたみ、というか本来感じられる達成感を感じなかった。


 一度、受験を精一杯やってみたがある。

 ネットで『褒められること』と検索してヒットしたからだ。

 正直、今思えば現実逃避だ。


 逃げるように私は勉強して、都内の有名高校に受かって、薄っぺらく褒められた。

 特段、何もない。


 褒められても喜びは感じられない。何をしても何もないのと同義だ。



 結果、さらにグレた。


 夜に放浪して、私を否定してくれる存在を探すようになったのも、この時、高校一年になった頃からだった。ただ私もそんな存在がいることは分かっていて、ただただ徘徊するだけになってしまった。


 この現象が私の力のせいだというのは薄々気づいていた。


 どんな人間も私を止めてくれない。これはおかしい。


 私には特別な力があって、そのせいでこんな生活を強いられている。そんな気がしていた。


 ただ、いつも通り徘徊していた時だった。その日は偶々、人通りのない道を選んで歩いていて、急に話しかけられた。


 話しかけられること自体はよくある。怪しそうであれば、帰れと言えば帰ってくれるので、そう言えばいい。


「殺してやる。化け物」


 出会って第一声がこれだった。初めて殺意を向けられていた。そこから逃げて、逃げて、出会ったのがウィローだった。


 そうして私は、この力抜きで私のことを好いてくれる人間に出会った訳だ。




「話聞いてます?ヒカリさん」


 ヒカリがぼーっとしているのを見ていたウィローが彼女を呼んだ。


「ああ、聞いてる。すまねぇ。それと、ありがとな」


「本当ですか?それは良かった」


 ウィローは何故感謝されたか分からなかったが、何か自分が良いことをしたのだと解釈した。


「大丈夫かぁ?」


 オサムが確認すると二人は頷いた。


「よし、んで、この手錠さえあれば何とか生きてける。だから、安心してもらっていい」


 もうじき日が沈む頃、彼らは長い間の会話の果てで、ヒカリの心を開かせかけていた。


「よし、さて、どう来るか。だな」


 これより夜の時間だ。リラシオの動きが活発になる。


(本当は、本部が良かったんだがな。ただ、クイナが本部にいるとアイツの未来を通してヒカリの場所がバレる。ただ、心を開かせるにはクイナがいた方が数段やりやすい)


「オレとクイナでお前たちを守る。時間になったらテレポートの奴が来るから、それで退却。サヨナラだ」


 彼の心の内にある懸念は、柚季派とあの鎧とその仲間が全員この場所に集まってくることだった。


 リツトの報告によると、もう既にいくつかの支部が潰れているらしい。


 また、柚季派の動きから見て奴らはリツトに対して執着している。正直なところ、彼にはここに来てほしくはない。

 しかし、あの鎧にはリツトとオサムの二人で対応しなければならない。オサムはあの化け物は枷二個分の人間が二人いなければ退治できないと考えていた。


「あー、茨木さんこねぇかな!」


 戦力不足に思わず小さく声が漏れてしまう。

 オサムは彼がいればどうにかできると考えているが、茨木ジンはカリムを追っているので、手が塞がっている。


『確かにあの人がいれば楽ですよね』


『ま、ネガティブになっても駄目だな』


「臭い的に近づいて来る様子はない。けどまぁ、警戒しておいてくれ」


(いざとなれば全員食っちまえば良いだろ…?な?)


 彼は誰かに問うように心の中で呟いた。


「んでさ。川凪ヒカリだよな。名前」


「ハイ。そうです」


「ああ、そうだな。俺もお前と同じような能力、持ってんだ。厄介な力だよな」


 彼は近くにあったパイプ椅子を拾い上げて、それに座り語り始める。


「面倒だよな。コレ。でも、安心してもらっていい。この力は制御できる。その例が俺だ」




「そろそろ、東京に着きます」


「ああ、そうか…」


 柚季の幹部、柚季キヨマサは、車を自動運転に任せながら運転席で休んでいた。


 彼は拠点を転々としながら、柚季派の構成員に声をかけて首都圏まで向かっていた。


 声をかけたいくつかの拠点はリツトに潰されたようだったが、他の戦力は予定の場所に集合している。


「竜胆…、これから忙しくなるぞ」


「冗談言わないでくださいボス。もうこんなに忙しいのに」


「はは、そうだな。だが清々しい忙しさだ。簡単だよ。配置、暴動、血祭。一度はあいつにつられてここまで落ちぶれてしまったが、制定の時間だ。全部壊そう」


「「…」」


 会話のキャッチボールがどこかへ転がってしまう。


「え、今私返すべきでした?」


「あー。…いや、独り言だ。構わなくていいい」


 彼らは体力とはまた別に精神的に疲れていた。ただ、柚季にはやるべきことがある。


「そろそろ、時間だよな」


「そうですね」


 やるべきこととは、いわば煽動である。


 既に彼らは柚季派の全員に東京各地を襲撃する用意をさせていた。


「諸君、聞いているかな?」


 通話を通して彼の部下全員に呼びかける。


「我々は厳しい冬の時期を過ごしてきた」


 音声通話だから、表情は出せない。だから、声だけで感情が伝わるように、彼は大げさに語っている。


「それはとても、寂しくて、静かで、つまらないものだ」


「それはなぜか。我々は、才能の発露の先を選べないからだ。我々はいつも自分の深層心理と戦っている。


 だがもううんざりだ。

 既存のホモサピエンスとやらが作った法律なんて枷は、私たちには窮屈すぎる。そいつらを傷つける可能性のためにどうして我々が牙を抜かれなければならないのだろうな?」


「最悪だな。俺たちは思うままに力を使いたいだけなんだ。奴らに基準を合わせる必要性なんてものはない」


 次第に彼の言葉は力強くなっていく。


「才能ある者が、評価される!世界では!ないのか⁉」


「たかが、たかが、旧人類どもの規則に縛られる我々ではない!」


「我々は穏健派の皮を被り、研鑽を重ねて牙を研いできた。それも今日でおしまいだ!」


「我々は、我々の、自由のために!戦おう…!」


「手筈通り、頼んだぞ。この世界を、塗りつぶそう!手始めに、東京という土地を血で染める」


 彼は激励を残して通話を切った。




 俺は首都圏に入るまでに、幾つかの拠点を潰してきた。


 その中にはもぬけの殻となった場所もあり、柚季派がどこかに集まっているらしいという情報を得た。どうやら、俺以外にも柚季派を追っている人たちがいるらしい。

 大方、安藤さんらが行っていることだろう。


 キャンピングカーの座席でしばらく横になっていたら、クイナからの通話があった。


『もしもし。どう、調子は?』


『報告にある通りだ。順調』


『それは良かった』


 彼女はほんのりと嬉しさを感じさせる口調だった。


『ああ、クイナ。昼飯一緒に食えなかったな。すまない』


『気にしてないよ。そっちは昼ご飯食べたの?』


『あー、うん。蕎麦食べたな』


『え、同じじゃん』


『まぁ、他に思い浮かばなかったからな』


『それも同じ』


『ああ、埋め合わせたいし、今度イタリアン行こう』


『いいけど、なんでイタリアン?』


『好きじゃなかったっけ、イタリアン』


『ああ!うん、好きだけど…』


「話しているところ悪いが、ちょっといいかな?」


 クイナと話していると、カルマポリスver2の調整を終えた桜島さんが呼びかけて来た。


「はい、大丈夫です」『後でまた』


『オーケー』


 通話を切って桜島さんから腕時計を受け取ろうと立ち上がった。彼は寝室を改造した小さなラボから出てきた。


 彼から時計を受け取ろうとすると、すんでのところでそれを胸ポケットの中に入れた。


「随分と仲がいいようだけども、遅めの青春でもしてるのかい?」


 どうやら、俺の人間関係に興味があるようだった。


「別に青春してるわけじゃないですよ。ただの、仲がいい同僚です」


「…そうか。ま、いいさ」


 彼は表情を変えることなく、しまった腕時計を俺に渡した。


「色々、機能を向上させてる。反応速度とか、あと応用性も向上している」


「ありがとうございます」


「礼はいい。…そろそろ到着するんじゃないのか?」


 そう言うと、カーナビが目的地への到着を告げた。


 ここが最後の場所だ。


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