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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
化け物とヒト
30/50

沸々と湧き出た夢

「それじゃあ、そういう方針で」


 一方、ヒカリとウィローを保護しているクイナとオサムは、これからどのように動くのかを無線でマモルと通信を繋げた上で打ち合せをしていた。


「ああ…。それが…おい!」


 その時オサムが、車内にヒカリがいないことに気がついた。


 クイナも振り向いて彼女がいないことに驚く。


「え、いつ⁉」


 彼らは気づけなかった。

 そもそも、ドアを開ける音がしなかった。


「すいません!」


 すぐにウィローも車から出て、出口の方に走り出した。

 出口である扉の前には、ヒカリが既にドアノブに手を掛けている。


「霧になることも出来たんですね」


 扉を開ける前に追い付いたウィローは手首を掴んで彼女を制止する。


 困ったような表情をしたウィローを見て、ヒカリは口をポカンと開けていた。


 彼女に移るアンドロイドの目には、確かな意思が宿っていた。今まで見てきた虚ろで真っ黒な目ではない。機械の人形とは思えない熱が迸る目をしていた。


「駄目ですよ。貴方は僕に守られていてください」


「…」


 川凪ヒカリの口が僅かに禍々しく歪んだ。


「貴方のことは見ていますから」


 その言葉に、その目に、川凪ヒカリは今までにないような、感激と刺激を受けた。何かが強引にこじ開けられて、今まで溜まっているモノが溢れそうな予感がした。


「…大丈夫っぽいか?」


 オサムとクイナは遠くから彼らを見て、どうしてかは分からないが、逃走する気がないことを察した。


「おーいそこの二人。車に戻ってくれ」


「はい、今行きます」


 彼らに呼びかけるとウィローはすんなりと返事をした。


「行きましょう」


 ウィローが手を離すと、逆にヒカリが彼の腕を掴んだ。


「ああ、引っ張ってくれ」


「え?ああ、はい」


 彼女は彼に引っ張られていった。。




『おーい。聞こえるか?』


 彼らが車内に戻った後、リツトからの連絡が届いた。


『ああ、うん。聞こえてる』


『こっちは研究室だ。ちょっと野暮用が出来たからさ。そっちに行きながら解決するよ』


 既に異能局は柚季派の介入の報告を受けており、リツト自身の進言から、その処理を彼に一任していた。


『ああ、任せた』 


『その声は…沢潟さんですね。お願いします』


『ああ、任しとけ』


『キリの良いところで連絡するので、その時集合地点の指示をお願いします。それじゃあ』


 彼は手短に話してから通信を切った。


「そっけないなぁ」


「忙しいんですよ」


「それにしても、アイツ一人で一つの派閥をどうにかできないだろ」


 彼の疑問に、クイナがあっさりと答えた。


「はいそうですね。多分、勢いで言ったんだと思います。後で支援や援護が入ると思いますよ」





 俺は桜島さんのラボ付きの改造キャンピングカーに乗せてもらっていた。


「さて、準備できたかな?」


 歩けるくらい回復した後、通信機能を使って研究所の裏口から桜島さんと合流した。

 彼にカルマポリスの調整を願い出ると、彼は移動しながらそれを行うと提案した。


「はい。できました」


 キャンピングカーには必要な荷物とアンドロイドらしき人形が寝室に置かれ、俺は中央にあるソファに座って休んでいた。


 桜島さんはどうやら兵器開発を一秒でも早く行いたいらしく、これから多くの戦闘を行う同行してもらうこととなった。既に異能局から許可は取っている。


「それじゃあ行こう。君の上司からめぼしい場所の位置情報は貰った。近いところから道すがら潰していこう」


「そうですね。障害になってもマズいですし、柚季派は全て、俺が潰します」


 いつも、あの光景が俺の脳に焼き付いている。

 この世界に似合わない空想が、現実を蹂躙していく様はまさに絶景だった。


 夢想の果てに力を手に入れた男。


 彼が作り出した絶景が語りかけてくる。


──お前の作りたいものはなんだ?


「急にどうした、ヒロカネ」


 杜若派の『仲間割れ事件』の後、一度だけ話す機会があった。


「いや、作りたいものはあるかって」


 事件以来、杜若派は従来の苛烈さを失っていった。ヒロカネも家族を作り、派閥の船頭はカリムという奴に譲って表に出てこないようになった。


「さぁ、どうだろうな」


 苛烈さを失った代わりに目つきが変わった。


 その彼の問いに、少し考えてから答えた。


「あの絶景を作りたいな…」


 制圧。


 きっとこれが俺の深層心理だ。


──この願いに、価値をもたらすために。





「ただいま」


 リツトとの戦闘を終えた柚季派の幹部は、近くの拠点の一つである一軒家に辿り着いた。


「ボス、どうしたんですか!」


 彼の帰還に気づいた部下の女性が彼を出迎えた。

 さらに続々と、五人の部下が彼の元に集まってくる。


「次の竜王と戦った」


「早速、ですか?」


「ああ、今すぐに捜索に派遣している者以外の柚季派全構成員を招集しろ。目標は杜若リツトだ。奴はこれから加速度的に強くなる。ここで叩かなければ」


「捜索班…戻さなくていいんですか?」


「ああ、川凪ヒカリは俺たちで抱え込むべきだ」


 柚季派はリラシオの中でも一番多い構成員がいる派閥だ。さらにそこに、杜若派が壊滅したことによって逃げた杜若派も合流して。より大きな規模の派閥になっている。


「そこまでなんですか?」


「ああ、あの時の奴の力を彷彿とさせる。手合わせをしてそう感じた」


 まだ杜若派が頃、杜若ヒロカネと彼には深い交流があった。


「今のうちに、なんとかしないとな」


 すると、扉の鍵が爆破される音が聞こえた。小さな、鍵の役割を果たす部分だけを壊す小さな爆破。そこにいた全員が、敵が来たことを察する。


「まさか…奴か?」





 最初は、研究所から一番近い位置にある柚季派の拠点らしき場所に向かった。

 そこから、先行させていた小型ドローンで柚季派の幹部が入っていった所を確認してから、特殊な機械でドアノブ部分を爆破し単独で突入した。


 今の奴は少なくともダメージがある。アンプルを刺して体を騙し、一時的に全快まで動けるようになった俺なら、仲間共々捕まえることくらいできる筈だ。


 土足で侵入し、銃を形成して、目の前に現れた二人の構成員に引き金を引く。


 電撃を浴びた二人はばたりと倒れて、意識が一時的になくなったのを確認してからリビングに向かう。


 異能局からの情報によると、この拠点が研究所から一番近いらしい。ならば、あの幹部がここにいる可能性は高い。


 無言でドアを蹴破ってリビングに進む。


「クク」


 幹部を見た瞬間に笑みをこぼしながら銃口を向ける。

 部屋の中にいるのは四人。


 まずは幹部の動きを止めて、すぐに他三人を倒さなければ、こちらが一方的に倒される。



 ここである可能性を思いついた。



 ドアを爆破した時点で彼らは俺の侵入を知っている筈だ。

 のうのうと部屋に待ち構えるはずがない。

 蹴破った瞬間に能力の集中砲火だってある筈だ。ただ、それがなかった。そのことに疑問が浮かんだ。



(嵌められたか!)



 すぐに何者かによって背後から腕で首を締められる。


 透明化の能力によって身を潜めていたのだろう。一度廊下に出て、壁に叩きつけ、コートの一部を拘束具に変形させてから、首を壁に貼り付ける。


 叩きつけられた痛みと流した電流で力が緩んだ刹那を気に、首を締める腕を払いのけて、再びリビングに戻ろうとすると、7人の柚季派と戦いになった。


 コートのナノマシンを槍の形に変化させて目の前にいた一人の男に突いて電流を流す。

 突いた瞬間に先端の形状を変形させたので出血はしていないが、腹部の痛みと電流で少しの間は動けないだろう。


 次々に迫る相手を武装の形を変更しながら、攻撃と共に電流を流すことで動きを鈍くしていく。


 槍から手槍に、手槍から剣に、剣からナイフに、ナイフから小手に、そこから槍に。


 空間認識と想像力は、この装備を持つ前からも、電気の形を作ることで培ってきた。

 それを駆使して、狭い場所での大立ち回りを実現させた。


 攻撃全てを繋ぎ合わせて隙を消す。さらにナノマシンだけでなく電気の剣や槍も駆使して全員が能力を発動させないように戦う。


 ただ、この人数差を短時間で覆して全員倒すことは出来なかった。

 全員を倒す頃には、柚季の幹部は一人の部下を連れて逃げてしまっていた。


「くそっ、無理したか?」


 幹部を捕まえようと焦って突撃したことを後悔していると、事前に飛ばしていた異能局の職員が家の前に到着した。


「急に連絡されもこちらが困るんだがね」


 一人のスーツ姿女性が俺に話しかけて来た。


「安藤だ」


 スーツに茶色のコートを合わせている彼女は、アンドロイドたちを引き連れて来た。


「所属は言えない。察してくれ」


 公安の人間だろうか。


 俺は彼女に自分が気絶させた能力者たちのことを報告した。


「分かった。よし、彼らを連れ出して」


 彼女はアンドロイドたちに指示をして手錠を掛けて車に連行した。

 異能局だったらそうだと名乗ってそうなので、どうやら局の人間ではないようだ。


「だとしたら、あなたは…」


 彼女の所属を言い当てようとすると、彼女自身の人差し指を口に当てた。


「『察して』と言った。君は興味を示したらとことん突き止めるタイプのようだね」


「…」


 仕草から遊ばれているように思えた。それがあまり気に食わなかったので、彼女のことについて知ろうという欲は無くなった。


「ああ、はい。分かりました」


「はは!飽きたな!それでいい!私は戻るよ。ああ、君にはみんな期待してる。」


「了解です」


 そうして安藤という女性が出てから、近くで停車していた桜島さんの車に帰った。


「よし、調整しよう。君は休んでいてくれ」


 腕時計を彼に預けてから、ソファに横になる。

 今の時間は午前11時、リラシオの動きが活発になりやすい夜までに、できるだけ戦力を潰しておきたい。


 桜島さんはスイッチを押して寝室をラボへと変えて、ナノマシンをいじり始め、車は自動運転で次の目的地へ走り始めた。


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