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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
化け物とヒト
28/50

タイマン上等

 『昨日』と『部下』の言葉が出たということは、柚季の幹部だろうか。

 ナノマシンを使って右手に銃を生成する。奴が動く予備動作を見た瞬間に、地面に電気の弾丸を撃って周囲に電気の盾を生成した。ただ、奴の動きが止まることはなく、反撃ができず防御することとなる。


 ただ、甲冑の時のような手ごたえのなさはなかった。それに追撃はない。


 ダメージは確実にある。


 恐らく、動きを決めて、それを不可逆的に実行する能力だろう。


 決まった動きを行う能力なので止められない。だが、ダメージは入る。

 そう判断したら、すぐに木陰に走り出した。


 奴も俺を追うためにとんでもないスピードで走り出す。

 すぐに雑木林の中に入ると、奴は既に何食わぬ顔で俺の目の前にいる。


「バトル漫画かよ」


 ただ、辺りに人はいないし、ここならより派手に能力を扱える。


 ナノマシンを両手に集め小手を作って、さらに右手を大きく振り上げた。


 電力をそこに集中し、俺と奴との間を覆えるほどの長さ、さらに前方180度カバーできるような電撃を展開する。


 電撃の網をすぐに振り下ろしてから振り返り、奴の攻撃を頬で受け止め、相手の顔面に電気を乗せた拳で反撃した。


「ククク」


 奴は俺の拳を受けて吹き飛んだが、綺麗な着地をしてすぐに体勢を立て直している。


「まずは一発だ」


 笑いながら、まず一発当てたことにひとまず喜ぶ。

 奴はその笑顔を心底嫌そうな顔で見つめていた。


「気に食わないな」


 男は俺に言い放った。


「お前のような奴がこうも笑っているのは気に食わない」


「お前の都合は知らねぇよ」


 浮かびかけた疑問は投げ捨てて、今は目の前の相手に集中する。


「そうか、だが、私は気に食わない。だから晒し首にする」


 刃渡りが20cm程のナイフが見えた瞬間、俺は勘でナノマシンで首を覆った。


 次の瞬間には俺の首にナイフが当たっている。すぐにナイフを持っている腕を掴んで、空いている手で奴の首を掴もうとしたが、あと少しのところでその手を掴まれた。

 次はどう攻めるべきかを一瞬迷ったせいで、すぐに足で蹴飛ばされる。

 数回転がって奴の方向を見ても、もう奴はいない。


(上か?)


 そう考えた瞬間、頭頂部に激痛が走って、そのまま地面に叩きつけられた。


 上から頭を蹴落とされたのだろう。


 奴が足を地に着けた瞬間に、ナノマシンを射出して拘束具を作り足の自由を奪う。


「よくも…やってくれたな」


 多くのナノマシンを使って右手の銃をレールガンの形態へと変形させる。


 相手は幹部だ。こんな簡単な拘束はすぐに解かれてしまう。


 奴のナイフを持つ腕を掴んで電流を流して動きを阻害する。

 さらに、即興で引き出せる電力を全て使って弾丸を発射すると、奴は数十メートル吹き飛んだ。


 すぐ近くには、先ほどまで奴を拘束していたナノマシンの欠片がある。


 どうやらギリギリのところで攻撃を当てることが出来たらしい。

 吹き飛ばされた先で立ち上がった幹部は、俺を睨みつけた後にどこかに消えてしまった。


(逃げたのか?)


 どこに行ったかを思案した瞬間、立てないほどに頭が眩んでしまう。


(脳震盪か…)


 さっき頭を蹴られた時のものだろう。これでは上手く動けない。かなり無理のある戦い方をしてしまった。この装備なら、もっと丁寧で巧みな立ち回りをすることが出来たはずだ。


「もう少し、工夫しよう」


 覚束ない足取りで、研究所まで戻ろうとする。もう近くには奴はいないようだ。


『クイナ、聞こえているか?すまない。あいつ逃した。流石に、そっちまで行く余裕はないと思うけど、他に追手が来るかも』


『了解。気を付ける。ありがと』


 無線を切ると、歩く気力も切れてしまい、近くにあった木に背中を預けて座り込んだ。


(どうして柚季派が動き始めたんだ?)


 歩ける程度に体力が回復するまでに、彼らがこの事態に介入してくる理由を思案してみる。


(俺たちに次ぐ穏健派で、父さんとも交流があったはず…)


 幹部らしき男の言動を思い出してみる。


(俺に恨みがありそうだったな…)


 頭が痛む中、あの男のめった刺しにするような強い殺気を思い出す。


(これは、俺が対処すべき案件かな…?)






「門前払いされちゃいましたね。先輩」


 昨夜甲冑を目撃した警察官二人は、研究所まで一度来て、追い返されてしまった。


「ああ、もう少し段階を踏めばよかったのかもしれないな」


 現場の近くを通っていた車ということで、桜島に話を聞けると思っていたが、『約束がなければ会

えない』の一点張りで望みが敵うことはなかった。


 帰りの車内は気まずい雰囲気が流れている。


「先輩?あの、先輩?鵲先輩?」


「ああ、すまん泥花。気になることがあってな」


 泥花リンの先輩である鵲レンは、タブレットの画面に対して眉間の皺を寄せながら眺めていた。


「ってあれ、ハンドル⁉あ、自動運転か…。で、『気になること』ってなんですか?」


「これを見てくれ、未明に届けられた行方不明者届だ」


 彼は彼女にタブレットの画面を見せた。


「川凪、ヒカリさん?行方不明の女子高校生…。違和感あります?」


「居なくなった場所を見てくれ」


「ああ、新宿区ですね。確かにあの件の現場に近いですけど、関係ありますかね?」


「関係あるとは言い切れないが、昨今、行方不明なんて珍しいからな。少しくらい調査してもいいかもしれない。それにここを見てくれ」


 とある項目を指した。


「えっと届け出を出したのは彼女の友人みたいですね。いい友人じゃないですか?それで彼女の両親からは来たんですか?」


「それが来てないんだ」


「え?」


「まぁ、川凪ヒカリという人間がどんな人生を送ってきて、どんな家庭環境なのかは知らないが、両親よりもその子供の友人が先に行方不明者届出すのは少しおかしいと思うよ」


 彼の言葉を受け止めた彼女は少し考えてから返した。


「いや、考えすぎじゃないですかね…」


 泥花が鵲の様子を伺うと、そこには凶器ともいえるほど澄んだ目があった。


「確かに、普通ならそうだ。だが、まぁ。あれだ。やってみたいんだ」


「噓でしょ…」


 子供のように目を光らせる中年がそこにはいた。






 無線を切ったクイナは、後部座席に座っている二人に話しかける。


「二人は車酔いとかしないタイプ?」


「しませんね。機械ですので。ヒカリさんは?」


「…私もしないっす」


 ヒカリから回答があったと共に、彼女にネガティブな感情がないことを読み取り、順調に心を開き始めていることに安心していた。


「シートベルトしてるよね。二人とも」


 目の前の車両から何かがこちらに向けられているのが見えた。


「ええ、まぁ」


 ヒカリの返答を確認していると、周囲の車両が少しずつ距離を近づけていることが分かった。


「どうして懲りないかな」


 前方の車両から向けられているモノは、どうやら猟銃のようだ。しかし、それを向ける人間からは殺気を感じなかった。麻酔弾でも入っているのだろうと彼女は推察した。

 さらに銃口はこちらに向いているが、感情の針はヒカリに向かっていることも察知する。


(彼女を眠らせて連行するつもりか…!)


 引き金を引く瞬間を見切って、銃弾を掴む。


「さて、どうし返してやろうか」


 バラバラになった麻酔弾をポロポロと落として自動運転を切り、アクセルを思い切り踏もうとした瞬間、彼女らが乗る車の上に何者かが現れた


『二秒後、ブレーキ!』


『…はい!』


 彼女は効きお盆パル声の指示通りにブレーキを踏むと、辺りの景色が変わる。


 車は甲高い音を立てながら、壁にぶつかるギリギリの場所で停車した。

 突然のことで、かなり感情が動いたクイナは大きく息を吐いて、心臓の鼓動を安定させようとした。


「大丈夫か?」


 そこに、沢潟オサムが車から降りて、ドアのガラス部分を叩きながら話しかけてきた。

 その隣で、また別の男が天井から転がり落ちた。


「お疲れさん。帰っていいぜ」


「ほんっと、人使い荒いですね」


(あ、テレポート使いの人だ)


 クイナは転げ落ちて息が荒くなっている男に見覚えがあった。

 リラシオが異能局の本部を攻めて来た際に、内側にいた局員を外に逃がしていた男だ。


「お疲れ様です。この前もありがとうございました」


「ああ、君は…第二の…。うん。どういたしました」


 彼女は窓を開けて顔を出して礼を言うと、彼が笑いながら答えた。


「ほい。とっとと帰れ」


 沢潟はテレポート使いの腹を小突いた。態度に余裕はあるが、声色はどこか焦っているようだった。実際、クイナは彼が少しだけ焦っていることを感じ取っていた。


「はいはい。それでは」


 彼はそう言うと、どこかへ消えていった。


「二人とも、大丈夫?」


 クイナは振り返って、乗せていた二人の感情を確認する。


「異常ありません」


「大丈夫です」


 嘘をついていないことも読み取った。


「なら良かった」


「よし、リツトのことだから、こっち来る間に色々するだろう。その間に、色々やるぞ」


 彼はいつの間にか持っていたパイプ椅子を広げて、車のドアの前に座った。


「あの人がいると都合が悪いんですか?」


 ウィローが口にした疑問はオサムが答えた。


「いや、あいつが嫌いだとかそういう訳じゃねぇんだ。ただ、あいつは未来視持ちのカリムに一番見られている。アイツが情報を把握すると、あっちが情報を把握することに繋がるからな」


「なら、私も見られてますよ」


「それは例外だ。俺だけで護衛をすんのは、いざという時に対応できない。んで、一人で行動できる力を持ってるアイツなら、浮いてる駒になっても好き勝手貢献するだろ」


『あともう一つ、ここからやることは、心が読めるお前の存在が不可欠だ。頼むぜ』


『勿論です』


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