マッドではないサイエンティスト
「はい。そこの二人。警察が君たちを捕まえに来たよ」
彼は、恐らく冗談を言いながら彼らを呼んだ。
「ああ!あなたは!あの時はありがとうございます!」
どうやら、現場にいたアンドロイドの彼は俺のことを覚えていたらしい。
急に感謝されて驚いたが、動揺するところは見せられないので平静を保とうとする。
俺が戦ったことに意味を見出せた気がして、嬉しかった。
「どうも。覚えていてくれてたのか。ありがとう」
隣でクイナがほほ笑んでいた。
「そこにいるのが、川凪さん、だね」
クイナは俯き続けている彼女に話しかけるが、反応が返ってこない。
『警戒されてる?』
『そうみたい。ちょっと篭絡してみる』
『…⁉』
それが、彼女なりの冗談であることに気づくのが、数秒遅れてしまった。
「大丈夫だよ。私達、催眠にはかからないから」
その言葉を聞いた途端、感情が見えない俺でも分かるくらい、彼女の様子が変わった。
「そのために私たちの装備の説明とかしなきゃいけないし、ちょっと時間貰うね」
彼女らにこの事件と異能局についての一連のことを説明した。
「それで、桜島さんから聞いていると思うけど、今回の私たちの目標は、川凪さんとウィロー君を守ること。ここから異能局本部に移動して保護します。準備は大丈夫かな?」
彼らが頷いたことを確認する。
「一応、注意点として、今回の事件、関わる勢力が多くなりそうだから。二人とも警戒して。違和感があったらすぐに報告すること」
クイナは外に停めてあった車まで二人を案内した。
俺は研究室から三人が出たのを見届けてから彼らに続いて部屋から出ようとする桜島さんの前に、立ちふさがるように立った。
「ちょっといいですか?」
「ん?」
彼はやましいことでもあるのか、俺に目を合わせようとはしない。
実際彼は、やましいことをしている。
「ウィロー君の体、あれ。おかしいですよね?」
「なんのことだ?」
「とぼけないでください。あの体。一般アンドロイドのものじゃない。軍事用のボディだ。そもそもアンド「ああ、分かってる。分かってる。ただ、いざという時に備えた結果だ」
「それは、彼の意思ですか?」
「ああ、『問答無用で改造』といったマッドサイエンティストのように野蛮なことはしていないよ。私がなりたいのは、正義の科学者だ」
「胡散臭いこと言わないでください。もしかして、あの夜彼らを甲冑から救ったのも、その理由ですか?」
「ああ、そうだ。それと、テロ組織の一員だった君も、かなり胡散臭いぞ。そこらへん自覚した方がいい」
「それくらい分かっています。俺の異能局での立場なんてどうでもいい。今重要なのは」
「「この事件を解決すること」」
俺たちの言葉が重なると、桜島さんはにこやかに笑って指を指した。
「そういうことだ。私はどんな処分でも受けよう。だから、この事件に協力させてくれ」
俺に彼の協力を許可する権限はない。だから、この申し出に首を縦に振ることも、横に振ることもできない。
「分かりました。出来るだけ好意的に受け止めてもらえるように報告します」
「そうか…」
それを聞いた彼はいつの間にか持っていたコーヒーを一気に飲み干した。
いいように言いくるめられた気がするし、心が通じ合った気もする。
疑おうとも疑いきれない中途半端な感情があった。
「ああ、それと。俺の個人的な見解ですが、今回の事件について異能局は多めに見てるようなので、普段の業務に支障が出ないなら、大丈夫だと思います」
「おお、そうか」
「あと、アンドロイドが恋愛するってことあるんですか?」
「ある。種類によるがな。彼はJ23-457。感情のプログラムなどが人間に近く設定されている。アンドロイドだから洗脳は効かなかったようだが、一目惚れで恋に落ちてしまうのも無理はない」
さらに疑問に思っていたことを彼に聞く。
「確か、報告によると、彼女の洗脳は効いてないないみたいですけど、人に近いアンドロイドに効果ないもんなんですか?」
「ああ、これは彼女の超能力を分析した友人が言っていたな。彼女の洗脳は視神経から脳に働きかけて効果をもたらす物だ。つまり、カメラや機械には聞かないということだな」
「なるほど、そういうことでしたか…。ああ、一つ、渡すものがありました」
俺はとあるUSBメモリを彼に渡す。
「おお、言ってたアレか。これで最終調整を行って即実践投入、という予定だったか?メールでも良かったんじゃないか。ラブレターでもないんだし」
「直接ラブレターって、それっていつの話ですか…。あとこれ、異能局でもあまり使ってるとは言いづらいですから」
メモリの中身は『リラシオ、杜若派の能力者の遺伝子情報』。
杜若派が壊滅する事件があった後、俺が廃棄された拠点を巡って集めたものだ。
親父によると、俺が生まれるよりも昔の頃、裏切り者が出ないように遺伝子情報を登録していたらしい。それがまだ残っており、俺はそれを回収して異能局に報告し、そのデータのコピーを管理していた。
「いいのか?勝手に渡して」
「一応許可は貰っています。それでは、よろしくお願いします」
そして俺は手に持っているコーヒーを飲み干した。
「それでは、コーヒー美味しかったです」
研究室から出て空の紙コップを捨てた。
今回の事件では、複数の派閥が参加していると考えられている。
一つ目は被害者たちと異能局。
二つ目は甲冑。
そして三つめは柚季派だ。
昨夜、俺たちを襲ったのは甲冑の仲間ではなく、リラシオの柚季派の者たちだった。
何の目的があるのかは一切分からないが、対策は講じなければならない。桜島さんには装備面における支援を要請してから研究室を出し、既に異能局は他の任務中の沢潟さんへ終わり次第すぐに来るように指令を出している。
柚季派は、リラシオの中で二番目に穏健な思想を持った派閥の筈だ。それらが、能力を使わなかったとはいえ、あんな場所で戦い始めているのは不自然だ。
異能局の後方支援の職員の方々が、甲冑のカメラ映像を含めた後始末に奔走している。
さらに注意すべきことは、柚季派には洗脳使いがいるということだ。あの派閥とは親しくなかったので、どんな条件でどれほど効果があるのかは分からないが、川凪さんよりも強いものであることも想定して動かなければならない。
研究室から出てから、早足で車の助手席に乗りこむ。
保護対象の二人は後部座席に乗っており、クイナはエンジンを起動してハンドルに手を掛けている。
「昼飯、食えそうにないな」
「そうだね」
シートベルトを着けようとすると、道路の向かい側に誰かがこちらを見ているのが見えた。その男は異質な雰囲気をまき散らしながら、こちらへ歩きながら迫っている
「…悪い。俺を置いて、今すぐ車を出してくれ」
「本当っぽいね。頑張れ」
俺の感情を察したクイナはすぐに返答する。
「ああ、もちろん。あとウィロー君。君には戦闘することは許可されていない。血を流すのは俺の仕事だ」
「はい。分かりました」
彼が了承した瞬間に車から飛び出して、奴へと歩き始める。
(これで、ただの頭のおかしい奴だったら拍子抜けするぞ…)
研究所の周りは人気が無い。スーツ姿の男がロングコートを着たとしても不思議に思われることはない。
両腕を軽く上げて袖から両手首を出し、それらを胸の前で合わせる。
『こちら杜若リツト、これより戦闘を開始する』
右手だけを前に九十度回転させ、武装を展開した。
すぐ近くに山がある。
まずは、より人目の付かない山奥にまで誘導してから、この男を無力化する。
そう考えた瞬間、奴は俺との五十メートルほどの距離を一瞬で詰めた。
何とか防御してみせたが、スピードは相当速いし、その分攻撃も重い。
その後もいくらか続く追撃を防御して数回反撃しても防がれてしまう。
その一つ一つの行動が、茨木さんの次に早かった。
「昨日、部下が世話になったな。裏切り者」
「てめえも檻までお世話してやる」
昨日、投稿忘れておりました。申し訳ないです。
というわけで禁断の投稿2回目を行います。




