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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
化け物とヒト
26/50

『ラスタバン』

 バックミラーで背後にある車の位置を確認してから二つの枷を嵌める。

 ここで派手に能力を使う訳にはいかない。


もしこの路上で力を使うのなら、どんなタイミングでもいいから、バレない状況で、電撃を起こして奴らの車を停止させればいい。


 背後の追跡者たちは、二列に並んで俺たちを追跡している。


 クイナすぐにアクセルを踏み込んで速度を上げると、それに呼応して後方の車たちも速度を上げる。


「何する気だ?」


「三つで囲って一気にドーン。そんな感じ」


「面倒だな」


 彼らの車の加速率が異常に高い。恐らく、改造したものだろう。


「一般車使って一つずつ対処しよう」


 彼女はトラックの間を掻い潜ってその車の隊列を崩そうとする。


「なんでこんなマーク上手いんだろうね!」


 しかし、操縦技術に関しては相手が上手であり、振り切れそうな気配はない。


「ねぇ、あと研究所まで、徒歩で何分?」


「さぁ、一時間くらい?多分」


「よし、迎撃はいいから、しっかりと掴まってて」


「え?ああ、分かった。ああああああ⁉」


 彼女は車のいないスペースを見つけるとドリフトをし始めて、方向を180度回転させ、空いた隙間を縫って三つの車の列を抜け、逆走をし始めた。


「おいおいおいおい」


「ちょっと静かにしててねー」


 彼女は前方から迫る感情を察知することで、なんとか衝突せずに進んでいる。


「脱出準備!」


「了解!」


 彼女はすぐにガードレールに向かってアクセル全開で車を走らせ、ガードレールに突っ込み高速道路から落ちた。


 俺たちはちょうどいいタイミングで車から飛び出して、すぐに車が落ちた場所から離れた。


「…これで一旦振り切ったか」


「まぁ見つけられても一方的に戦えるんじゃない?」


 木々に隠れながら待っていると、六人の超能力者が、車が落ちた場所に集まってきた。


「あいつら捕まえて情報吐かせるか」


「よし、そうしようか」





「……」


 甲冑男は決してその兜は外さず、車の中で佇んでいた。


「おいおい。礼も言わないのか。あの子の居場所、教えただろ?」


 杜若カリムはその車の運転をしながら、目線は前に向けたままで軽い愚痴を言う。


「何故、どうして、どんな理屈があって私を助けた」


「分かってるだろ。お前が必要な駒だからだ」


 この甲冑にはもう余力が残っていない。ただ、殺気だけをカリムに向かって飛ばしていた。


「睨む余力があるなら、感謝する方に回せ。僕はこれ以上の介入は出来なくなったんだぞ、尻尾を掴まれたからな。それに、この未来なら、あいつら全員殺せる未来だってあるんだぞ」


「…」


 その言葉に対しても、甲冑の男は何も返さなかった。

 沈黙の間に、リツトとクイナが乗っている車とそれを追跡する三両の車とすれ違い、カリムはその瞬間を見逃さなかった。


(私の見たい未来への道は、順調に舗装されているな)


「今回、僕は表舞台には出てこない。助けもこれ一回きりだ。情報提供も、次の二手だけ。くれぐれも、深追いには気を付けろよ」


 彼はそう言ってから、目的地を甲冑男の仲間のいる拠点に設定した。


「すみません。桜島さんに用があるんですが」


 午前九時ごろ俺たちは、未明に襲われた奴らを引き渡した後、研究所に再度向かって受付に話しかけた。ハスターさんが事件前後の防犯カメラなどを調べてくれたことで、今回の被害者について知ることが出来た。


 今回の事件の被害者は、スタジアムの警備員である一般アンドロイドのJ23-4576型のウィロー、そして能力者である川凪光。


 監視カメラや防犯カメラの映像によると、特に狙われていたのは、川凪の方らしい。あの甲冑は何か目的を持って彼女を襲い、それにウィローが巻き込まれてしまったと見るべきだろう。しかも、あの甲冑はそこから奥多摩までその足で追ってくるほど執念深い。動向を見失ってしまった。


「ああ、はい。存じております。応接室にご案内します。すぐに桜島を呼んでまいりますので、少々お待ちください」


「はい。了解です」


 受付の方について行っていると、スーツにコートを着た男女の二人組とすれ違った。


『あれって…警察か?』


 無線でクイナに確認する。


『さぁ、分かんない。感情的にここの施設の人じゃないっぽいけど。…怪しいからハスターさんに調べてもらおう』


(それとも記者かな…?いや、服装がフォーマルすぎるか?そもそも、取材ならビデオ通話でも十分だしな…)


 そんなことを考えながら案内に従い、応接室に入って椅子に座って桜島を待つ。


「警察…かなぁ?」


「だとすると面倒だな。積極的に介入してくる一般人がいると動きにくくなる」


 俺が背もたれに寄りかかって、もしものことを考えようとすると、クイナが肩を軽く叩いてきた。


「ねぇ。今日の昼どうする?」


「急にどうした?」


「いや、考え込んでたから。結局、避けることは変わらないし、もし積極的に介入してくるなら、止めてもらえばいいし。落ち着こう」


 顔は向けずに、目線だけ彼女に向けて深呼吸をする。


「そうだな。根詰めすぎるとだめだし」


「んで、近くのご飯だべられる場所調べてみたんだけど…ここの」


「蕎麦?なんで?」


「え、好きじゃないの?」


「まぁ、好きだけど…」


 今日の昼食について話していると、桜島が入ってきた。


「おはよう。はじめまして。飲み物いるかい?ブラックだけど」


 彼は両手にコーヒーの入った紙コップを持ちながら入ってきた。


 すぐに立ち上がって挨拶をしようとすると、彼は「いい。大丈夫だ」と言って制止した。


「そういう堅苦しいのは嫌いなんだ。そもそも、スーツで来なくても良かったんだ。それで、ブラックで良かったかな」


「「は、はい」」


 二人で同時に答えると、彼はそれらを俺たちの目の前に置いて、足を組みながら向かいの椅子に座った。


「リツト君、腕時計はするかい?」


 彼は名指しで俺に質問した。


「しないですね。時間は携帯で確認します。あと最近の時計は高い気がしますし」


「そうだね。馴染みがないかもしれない。しかし、腕時計にはアクセサリーとしての価値がある。アクセサリーには付けている人間に価値を付加することが出来るんだ。付与できる価値は様々だ。金の腕時計でも着けていたら目立ちたがりな成金に見えるし、ボロボロなモノを点けていたら貧乏人に見える。ああ、もしかしたら形見や家宝を肌身離さず持つ伝統を重んじる人間に見えるかもしれないな。もし、今この時代で懐中時計なんて持っていたら、何かしら注目はされるだろう」


 俺はどう反応していいか分からず、取り敢えず黙って耳を傾けていると、桜島が小さな箱を差し出した。


「私はこれから、君に新たな価値を付与する。『異能局エースの一人」としての価値をね」


 それを受け取って中を開けると、アナログの腕時計が入っていた。


「最新のナノマシンの技術を使った汎用兵器だ。起動すると、リスクなしで枷二個分の強化状態になれる。さらに、展開するとロングコートのような形状となる。これが通常形態。その後君の脳波を感じ取って、ナノマシンがある限り、自由に形を変更することが出来るぞ。あと、起動する方法だが…」


 俺は一連の説明を受けてから腕時計を取り付けた。

「名前は知っての通りカルマポリスver2だ。これの名前は『ラスタバン』。大切に扱ってくれよ」


「ありがとうございます。これで強くなれます」


「いや、礼を言うのはこちらの方だ。他の者は誰も手を挙げなくてな。茨木は壊すし、沢潟は今のままがいいと言っていた…」


 彼はそう言ってからクイナを指差した。


「君を含め、全ての異能局員用の兵装の企画が目下進行中だ。彼の戦闘からデータを得て、枷が一つしか付けられない者にも対応できるようなものを作る予定だ」


「そうですか…良かった」


 少し俯きながら薄く笑って答えた。


「それでは、本題に移ってもよろしいですか?貴方が保護した男女。今どこにいますか?今すぐ教えてください」


 俺がそう言うと、桜島さんは少しムッとした。


「もう少しゆっくりしてもらっても良かったが…そうだな。彼らは私の部屋にいる。案内しよう。だが、そのコーヒーは持って来てくれ。私がわざわざ淹れたものだ。冷ましてしまうのはもったいない」


 彼は立ち上がって、携帯から応接室を出ることを連絡しながら、扉の前まで移動すると、こちらに振り向いた。


「ああ、毒とか、そういうものは入っていないから」


 彼はそう言って扉の外へ出て行った。


「終始、圧倒されたね」


「ああ、そうだな」


 俺たちは少し量の減った紙コップを持ってこの部屋を出て、桜島さんが案内した部屋に移動した。


 その部屋には保護できなかった二人が談笑しながら待っていた。

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