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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
化け物とヒト
25/50

例外

「う…」


 起きるとはまた別の装置に四肢を縛られていた。

 意識が戻ると同時に、脳内に数多の情報が埋め込まれていることが分かった。視界がはっきりしていくと同時に勝手にファイルが開いていく。



『超能力について』

『国の対策』

『この施設について』

『現段階の状況』

『対洗脳プログラム』

『機密情報アクセスキー』



 と様々な情報が蓄積されていった。


「お、起きたね。今何時か分かるかい?時計機能に障害はないだろうか」


 僕たちを連れ去った男は白衣を着て、椅子に腰かけている。


「今は…午前四時十七分…。彼女はどこに⁉」


 どうやら三時間ほど寝ていたようだ。現在地は奥多摩の山奥、超能力の研究施設らしい。

 力一杯動かそうとしても離れようとしない。パージしようとも考えたその時に、手を差し出して思いとどまるように促した。


「体の検査中だ。安心していい」


「それは分かってるけど…この情報が嘘だって可能性もあるだろ」


「大丈夫、嘘じゃないから」


 扉から検査服を着た彼女が現れる。どうやら何か危害を加えられた訳ではないようだ。


「良かった…」


 僕の様子を見た桜島は、一瞬だけ眉間に皺を寄せてからメガネをかけてボタンを押すと、四肢が解かれて僕は自由の身になった。


「彼女の名前は川凪ヒカリというらしい」


「ヒカリさん…えっと…」


 すぐに彼女の方へ駆け寄ってみたが、かける言葉が見つからない。


 それを見た彼女は何故か悔しそうに眼を逸らした。


「…おかしい」


 さらに、桜島が明らかにこちらを怪しみながら呟く。


「君、対洗脳プログラムはインストールしたか?」


「ん?しましたけど」


「「「…」」」


 沈黙の中最初に口を開いたのはナギさんだった。


「嘘…だろ」


「あー、マジモンの一目惚れか…」


「どういうことです?」


 俺が問うと、桜島は頭を抱えながら答えた。


「彼女の能力、沢山能力があるんだが、その内に催眠も入っていてね。一目見るだけで相手を自身に対して好意的な印象を持たせることが出来るようだ。今回インストールしたプログラムにそれに対する耐性を付け加えたんだが、それが機能していないみたいだ」


「えっとつまり…どういうことです?」


 その時、急に警報が鳴り始めた。


『侵入者発見、侵入者発見』


『施設北東から侵入者です。そのまま南西に向かっています。施設内にいる方はすぐに逃げてください!』


 機械的な音声の後に人間の生の声が聞こえた。明らかに緊急事態だ。


「ここに来ているのか?まさか、奴か?まさか走りで?というか、奴は撒いたはずだろ⁉」


 桜島が驚いて立ち上がり、足元から何かを取り出そうとすると、ヒトの長さ程の大剣が壁を突き破り、あの甲冑がその凶悪な姿を現した。


「私からは、逃れられないぞ。必ず殺してやる」


「あ…あ…」


 ヒカリさんは完全に怯え切っている。


「ヒカリさん!」


 また、彼女を連れて逃げるべきだろうか。


 誰かが、今回の場合は桜島に任せて逃げてしまうべきか。


 断じて否だ。


 それはいけない。そんな選択肢は取ってはならない。


 逃げるという選択肢だけで、この脅威から逃げられるとは思えない。

 だから、何としてでも、これに立ち向かわなければならない。

 立ち向かって、戦って、排除しなければならない。


 抵抗して何もない状態から、初めてこの一目惚れが真実であることを確かめよう。


 初めの一歩を踏むために、一歩となる障害を全て破壊しよう。


 あの時ほどの恐怖はない。今なら、彼女のために動くことが出来る。あの時のように逃げるだけじゃない。洗脳できる能力者だろうがあんだろうが関係ない。


 出会ったあの時に、僕は運命と錯覚するほどの情熱を抱いた。


 だから、助けよう。彼女を。


「カンフー、習得」


 大剣を蹴飛ばして彼女の前に立つ。


「来いよ」


 戦闘に関する全ての情報を、ダウンロードしながら奴を挑発する。


「aaaaaaaa」


 甲冑からうめき声を響かせていると、桜島がこちらに「おい!」と呼び掛けてから銃を投げて来た。手に取ってから、銃の扱い方を優先してダウンロードし、標準を頭に向けて構えた。



 80%、完了



 奴が起き上がってすぐに振るわれる攻撃は全て避ける。


「ヒカリさん、逃げててください!」


 国際競技場で遭遇した時よりも、明らかに速度が遅い。恐らく、馬鹿正直にあそこからここまで走ってきたのだろう。



 100%、完了。



 完全にダウンロードしたことを確認すると、いきなり全ての弾丸を奴に当てた。


 しかし、甲冑についた傷はすぐに修復されてしまう。


「銃いるか⁉」


 桜島の声が聞こえると、反射で答える。


「あるだけ全部!」


 するとすぐに、天井から銃を備えたアームが俺の方へ降りてくる。

 そこから比較的拳銃に近いものから手に取っていき、引き金を引く間に他の火器の使用方法についてダウンロードを始める。


 手に持った銃器を、弾が切れるまで打ち続けて、切れたら別の銃へと持ち替える。


 銃声が途絶えぬように、今の奴に攻撃する隙を与えぬように、全てを使って削り続ける。


 火力は次第に上がっていくが、甲冑の中身に傷が入ることはない。甲冑の再生速度が余りにも早すぎる。今使っているサブマシンガンの銃痕では瞬く間に再生されてしまう。


 ただ、これ以上火力を上げるとこの施設にダメージを与えかねない。


 奴の強引な侵入のせいで、どこもかしこもボロボロだ。ロケットランチャーでも使えば、あの甲冑に穴を開けられるかもしれないが、この部屋周辺が崩壊してしまう可能性さえある。もしその崩壊でナギさんが巻き込まれてしまったらどうしようもない。


 何か策はないだろうかと、銃撃と並行して考えていた。



「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」



 突然のことだった。甲冑が慟哭したのだ。


 まるで化け物のように、または辺りに怨嗟を撒くように叫んだ。


───え?


 その次の瞬間、僕の両腕が切断されていた。


「…え?」


 奴は腕から数十本の白銀の刃を繰り出して、武器を取り付けていたアームと僕の両腕を切断していた。


「お前も…標的だ、ネジ屑…」


 立ち上がった化け物がかすれ声で僕に告げる。


「殺してやる。必ず殺してやる。覚悟しておくことだな。絶望を、これ以上ない絶望を味合わせてから嬲り殺しにしてやるからなァ!」


 そういった次の瞬間に、奴は跳躍して天井を突き破って逃げて行った。


「…行ったようだな」


 しばらく静かになった後、桜島が僕の肩を叩いた。


「ありがとう」


「ああ、どうも」


 僕がそう言うと、彼は切断部を眺めてから残っているパソコンをいじり始めた。


「君、J23型だね。スペアの両腕があるんだが、いるかい?」


「お願いします」


 彼は手作業で僕にその両腕を手際よく取り付けた。


「仮止めだから無理に動くなよ」


「どうも」


 日常的な行動ならば支障がないと確認した僕は、ナギさんの逃げた方向へすぐに向かった。

 彼女は部屋を出たすぐの場所にいて、気まずそうに廊下の真ん中に片手を腰に当てて立っていた。


「すまん」


 彼女は僕が5メートル程まで近づくと、少し大きな声で謝ってきた。


「い、いや。嬉しいんだけどさ…。本当に、洗脳かかってないんだよな」


「はい。そうですね…。一応、よろしくお願いします」


「…よろしく」


 どこに行けばいいのか分からず、彼女を連れて研究室に戻ると、桜島がパソコンを操作しながら俺に話しかけて来た。


「少し話があるがいいか?」




 午前四時半過ぎ、俺たちは高速道路で奥多摩の研究施設に向かっていた。この時間帯の高速道路でも通行量は極端に少ない訳ではない。ただ、感覚として、トラックの量が多いような気がする。


 運転は自動操縦に任せて、対向車線を見ながらコーヒーを少しずつ飲んでいると、助手席に座っているクイナが話しかけてきた。


「気が早くない?」


「確かに、それはそう。まぁ、何かあるかもしれないからな。アイツはおかしいくらいに強い」


「それって、茨木さんくらい?」


「いや、流石にそれほどじゃないけど、枷を二つ付けた人間に余裕を持って優位に立てる時点で、相当だ。幹部上位クラスは確実にある」


「厄介だね。これは第二部隊全体で戦った方が良さそうだ。茨木さんは…無理だろうけど、隊長や沢潟さんに支援してもらおう」


「ああ、それと…」


 対向車線の一つの車に奴がいる気がした。


 たった一瞬、あの不気味な甲冑が見えたような気がした。


 それが突然なことだったので、座席から飛び上がりかけると、それに驚いたクイナはビクっと反応した。


「クイナ、なんか変な感情感じないか?」


 既に枷を着けていたクイナに、聞いてみると彼女は否定した。


「いや、ちょっと一瞬すぎて…いや、待って」


 運転席に座っている彼女はすぐに自動運転を解除して自分でハンドルを握り始めた。


「そこの感情は感じられなかったけど、他の敵意は察知できた。どこかに掴まってて」


 彼女がそう言うと、さらに車の速度が上がり、それ相応のGが体に掛かる。


「後ろか?」


「そう後ろの普通車両全部。3台」


「流石、推定無所属だ。頭おかしいことを平然とやりあがる。俺が迎撃するから、回避宜しく」


「そっちを配慮した運転はしないから、投げ出されないように!」


「勿論!」


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