決戦
この建物は地下五階までで設計されており、広い部屋以外は碁盤の目のような構造になっている。だからか、等間隔の距離を非常に保ちやすい。
順調に地下一,二階の侵攻は終わり、地下三階に移ろうとすると、井原原と合流した。
「おう、そっちはどうだった?井原原」
「ま、なんとかなってるよ」
辺りを確認しながら歩みを進める。
「…その…あー、大丈夫なのか?その、友人と…あれだろ」
「あー、それか。それは大丈夫だな。分かれは別で済ませた」
あの喫茶店での出来事がいい準備になった。あれが無かったらもう少し戸惑っていただろう。と考えると、喫茶店とは矛盾した意見であることを思い出す。
こういう自身の心情でも、想定と実際では、結果はかなり違うらしい。
「そうか…超能力者の友人ってどんな感じだ?」
「んー、多分普通の人と変わらないと思うぞ。まあ、精神はヒトだからな」
俺の言葉を聞いた彼は少し笑っていた。
「そんなもんか…。そうだよな」
何かのしがらみから解放されているような笑みだった。
『全員に通達。どうやらマップに追加の情報が必要なようだ。共有を進めてくれ』
無線に茨木さんの音声が入る。マップに秘密通路の存在が示唆されている。
『今、茨木さんから情報が入った通りだ。三階にいる隊員は隠し通路を探してくれ。
『了解』
『りょーうかい』
俺と井原原は隠し通路の場所を探すことにした。
「俺に任せてくれ」
井原原は自身の水を出し始めて壁に貼り付けさせ浸透させている。
「俺はお前より能力の感覚は上みたいだからな。一定範囲を超えて飛ばさなきゃ感覚はしっかり残る。これで隙間を探すぞ」
「頼む。守りは俺が」
俺たちは慎重に歩きながら隠し通路を探した。
「お、見つけたぜ」
数分後にすぐその場所を見つけることとなる。
『こちら杜若、隠し通路を発見。座標を送り、これから杜若、井原原が突入します』
『了解、慎重に頼むぞ。他の隊員はしばらく来れそうにない』
『もちろんです』
無線を閉じてそれらしき場所に手を触れてみる。
「何が起きるか分からない。あれで扉を壊してから中を確認するぞ」
井原原に指示して高熱の電気の塊を用意する。対して井原原は銃口を扉に向けている。
「せーのっ」
電気と水で爆発を起こしてドアを吹き飛ばした。
その先に誰もいないことを確認してから通路の先に進む。
少し長い通路の先にはさらにまた広い通路がある。横幅は三十メートルそして奥行きは70メートルほど。照明はかなり明るく、所々に植物などが生えている。
「植物…てことは」
「ああ、植物使いがいるってことかもな」
妹と母の敵の残骸か、それともカモフラージュか。どちらにしろ、かなり警戒度を上げる必要がある。
辺りを見回してみると他にも松明や、何かが中に入っている大型で円柱型の水槽が並んでいる。そして天井には豪華な氷のシャンデリア。一か所だけボロボロになっていたり、本が積まれたりもしている。そして漆黒の粉が足元にある。
まるで何かを展示しているかのような、オブジェクトっぽさがある。
奥に見えるのは大きな扉。他の異能局メンバーとの合流を待った方が良いだろうか。
「お、客か」
その大きな扉が開き、一人の男が現れる。
マイの父が大きな歩幅でこちらに来ている。
「どこもかしこも、ひっちゃかめっちゃか。ここで私も終わりと考えていたが、最後に一つ楽しめそうだ」
奴の右手には飾り気のなく、なんの装飾も施されていない無骨な剣を持っていた。
『井原原、奴の能力は分かってるな』
『ああ、斬撃。発動前には何かしらの動作あり』
『よし、やるか』
義手の奴なら二対一でどうにかなる。
「久しぶりだな。リツト。して、そこの君」
「なんだ?初老ジジイ?」
井原原が幹部へ挑発で返す。
「君はどんな人間だ?」
二秒は時間を置いた後、彼は答える。
「あー、どうなんだろうなぁ。俺は水だからな。時と場合に依る」
「んー」
奴はその答えを聞いて回答を悩んでいるようだった。
『死闘になるぞ。井原原』
『分かってる。隙作ってそこに爆発で倒す』
「微妙だな。時と場合って──」
俺たちは弾速優先で奴に向かって水と雷のレーザーを放ち、爆発させる。
「人の話は聞こうかぁ‼リツト‼」
話を遮られた奴は、笑いながらこちらに怒鳴る。
「聞いてられるか!斬撃野郎!」
奴が武器を構えて横に思い切り振る。そこから蜘蛛の巣のような斬撃が辺りに飛散る。
『どうなってんだコレ⁉』
井原原が無線で驚愕を叫ぶ。
『実際に切っている感覚を使って能力を強化しているんだ。この銃と同じだな。能力は道具を使ったりして具体的なイメージを持つと強くなる』
避けながら解説する。
『詳しいな』
『元々この組織いたからな。能力についてはお前より詳しいぞ』
「逃げるばかりか?それは良くないなぁ!」
奴は次々と剣を振って攻撃を加える。
「な訳ないだろ!」
足を踏み込んだ瞬間にそこから電気を、床を伝わせて放つ。
奴がそれを飛んで避けたところに水を襲わせる。しかし、それらは斬撃で吹き飛ばされて辺りに散らばってしまう。
『なんだよ。あの使い方、バケモンか』
井原原が呟いたその時、隼の速さでマイの父が俺に切りかかってきた。剣は銃で受け止める。
(リミッター、完全解除)
最早、攻撃を当てる瞬間に、強化のオンオフを切り替える余裕はない。
体力度外視で、常時能力を強化する。
銃をナイフに変形して近接戦闘に入る。
ナイフの間合いで戦えば能力を発動させる余裕もなくせる筈だ。ただ注意したいのは後退での回避。刀身以上の間合いでは斬撃が飛んでくる。あのスピードを近い距離で切られたら避けられるはずがない。俺の近い間合いを保ち、話されてもすぐに張り付かなければならない。
振られる腕は振り切る前に抑えて、空いた部位にナイフを突き立てる。
『構うな!合図で合わせる』
『敵頭2、1』
頭を下げると水のレーザーが飛んでいく。上手く避けたとしても体勢は崩すことは出来る。そこを突くようにナイフを刺す。水のフィールド。そこに少しでも近づけられれば、ミナトがサポートもできる。
「それはどうかな」
奴は力任せに俺を吹き飛ばした。俺がその場所に追い込もうとしていたことに気づいたのだろう。距離は取られてしまう。しかし、それで構わない。
天井から電気の槍と刀が雨のように落ちた。
全て、奴に突き刺さり動きを止めさせた。
「なる、ほど、水に気取られていた。時点で」
「その通り」
最初の話を遮る爆発の時点で疑似カノン砲一つ打てる雷を天井に浮かばせていた。
俺が近づいて、奴の額に銃口を当てて引き金を引こうとする。
「これで…」
その時、奴の指が動いた。方向は井原原の──
「避けろ!」
井原原はすんでのところで斬撃を躱していた。それを確認してすぐに引き金を引いて気絶させた。
奴がもう動かないことを確認すると、無事だった仲間の方を見る。
「いや、良かった…大丈夫か?」
強化を解いてドローンへ移行させると、安否を言葉で確認した。
「もちろん、いや、危なかった」
味方に血が流れなかったという安心感でホッとする。
その時、一瞬地面が盛り上がったような気がした。あまりにもそれは不気味だったので横に飛ぶ。
「おい!」
迷わずドローンを投げて井原原の位置をずらした。
あの木の根が奴の腹部を大きく掠めていった。
「おいおいおい!」
奴の仕業だ。
恐らく、隙を突くために潜んでいた。
俺はすぐに駆け寄って木の根を抜かれた井原原を抱える。
「動くな。そして喋るな」
『こちら杜若、井原原が負傷した。すぐに救援を頼む』
ゆっくり彼を地面に降ろしてから植物使いへと視線を送った。
「なぜ私を責める?それは自然ではない。『それ』は警戒をしてなかった。『それ』が悪いだろう」
あの植物使いが、憎き敵が憎たらしいセリフを吐きながら憎たらしく木の中から現れた。
「『それ』とは会ってそれほど経ってないだろう?何故、そこまで心配している?聞くところによると、嫌悪の対象ではなかったか?」
相変わらず、言葉の一つ一つで神経を逆撫でるので憎たらしい。
取り敢えず、脳波でドローンを操作し、井原原を部屋の隅まで移動させる。
「目の前で人を殺されて、不の感情を出さない奴はいないだろ。そこに、俺との間柄が親しいかどうかなんて、関係ない」
「犯罪者でも?極悪人でも?お前は慈しむと?」
「慈しむとか、そんな人間じゃねぇよ。俺は」
膝をつきながら引き金を引く。
「それでは、助け、守った者たちがお前に感謝しなくてもいいのか?」
「うっせぇな。感謝されるためにここにいるんじゃない。ただ、守りたいからここまで来たんだ」
「いや、それは不自然だ。等価交換ではない。どんなものにも見返りは必要だ」
それを聞いた植物使いは、ぴんと来てないようで首をかしげていた。
「あー、能力にヤられて頭おかしくなったのか」
「いや、私の頭はどこもおかしくないと思うが…」
奴の真剣な顔を見るとさらに怒りが湧いてくる。
「お前程の実力者が、組織の表に出てこなかった理由が分かったよ。お前リーダーシップなさそうだしな!幹部になれねえよ!嫌われてるだろ!そんな変な価値観こねくり回してたらな」
「貴様…!」
挑発が効いたことを確認すると、ドローンは俺の方へ戻り背中に取り付いて変形した。
(やるか…!)




