願いを叶えたいのなら、願いを砕く弾丸となれ
内田さんとハスターさん以外は自然と訓練室に集まるようになっていた。
「この前はありがとうございます」
俺は茨木ジンさんへと礼を言ういい機会と思い、彼に話しかけていた。
「どうということはない」
彼は支給された装備で調子を確かめている。
彼の両手は機械の鎧で包まれていた。
「出自はこの際どうでもいい。君も重要な戦力だ。よろしくな」
「よろしくお願いします…。すごいですね。それ」
彼の両手の装備は変形し続けている。手の部分が鷹の足のように変形したり、肘の辺りにジェットが出たり、ドリルのような形になったり、凶悪な銃になっている。
「その枷とは同じものだがな。この装備は強みを圧しつける私の力と相性が良い」
「茨木さんはどんな能力なんですか?」
「あー、私は好かないが名前は破壊者というらしい。体のあらゆる部位が破壊に特化しているそうだ」
能力に人を示す者が入っている力は見たことがない。さらに破壊という名前を付けられている以上、幹部二人が対面した時にたじろぐほどの実力があるようだ。
「もしかして、Type:Energiaですかね?」
頭の中でそれに当てはまる分類を口にした。
「ん?なんだそれは」
「リラシオで使った分け方です」
「タイプ:エネルジア、テーマを持った複合型の能力のことをそう言ってました」
「他にはどんなものがある?」
「名を冠されたもの、他の物質に干渉し、そのものを司るType:imperatore、インプレトーレ。能力を発射するType:scenic、シェーム。対象に能力効果を付加するType:mago、マゴ。そしてさっきのエネルジア。この四つです」
「なら俺はエネルジアってやつだな。俺のコレは各部位を強化する能力を全て一つに集めたような能力だ」
二丁拳銃の男がさらに入ってきた。
「お、俺は沢潟オサム、よろしく。能力は捕食者だな」
「あー、はじめまして…?」
実際には初めてではないが、慣れない相手なのでこんなあいさつになってしまった。
「おう。よろしく」
俺は彼も二つの枷を付けていることに気が付いた。そういえば、沢潟さんはあの時も二つの枷を付けていたことになる。
「そういえば、茨木さんと沢潟さんは二つ枷を付けてますよね」
「おー、これか」
彼は自分両手を眺めながら返答する。
「ま、オレと茨木サンの力は強力だからな」
「この枷の本来の目的知ってる?」
椿が俺の後ろから首を突き出した。分からない風を態度で示すと、彼女は説明し始めた。
「それは能力者の力を抑えること。特にそこの二人は強すぎて日常生活に支障が出るレベルだし、枷を二個付けるとその分能力も上がるみたいだけど、一定以上の能力の強さがないと動けなくなるみたい」
「えっと、つまり最初は能力の強化が目的ではなかったんだな」
「そ、確かプロトタイプは手錠をして鎖をちぎるタイプだったらしいし。でしたよね?」
「あー、あれ窮屈だったな。な、茨木サン」
沢潟さんがパスを受け取り茨木さんに渡す。
「ああ見た目が悪いし、解放に手間がかかるからな。日頃から手錠をするわけにもいかない」
「ちょ、なんのはなししてるんですか?」
さらに井原原が輪の中に入る。
「お前は…シェーム、愚者だっけか。それだな」
沢潟さんが井原原の力をリラシオの分類で当てはめた。
「愚者?タロットでも流行ってるんですか?」
「いや、リラシオでの能力の区分の話らしい」
「はーん。なんか、外国語ですかね、それ。変な呼び方」
井原原と沢潟さんの疑問に答える。
「ヨーロッパ圏内の言葉だな。なんでそうなったんだ?」
沢潟さんが問うと、その部屋にいる人々全員の目がこちらに集中して、無駄な緊張を覚える。
「えっと…名付けた奴がそこ出身だったか、外国語使いたがりかのどっちかじゃないんですか?それで、異能局ではどういう分け方してるんですか?」
「細かくは分けてないな。全部で二種類。俺と茨木サンみたいな奴が特殊併合型能力者。で他は普通に能力者って区分だ」
「へー、ざっくりですね」
「ま、こっちは分ける気ないからな。そっちはどうだ?種類ごとでヒエラルキーとかあったか?」
「特にはなかったですね。どんな区分でも強い人は強いので」
「そういえば、カリムはどの区分だ?」
「あー…、確かインプレトーレですね。未来の観測を司る力なので。勿論、過去視とかもその分類かと」
「んで、その、インプレなんちゃらってどれくらいいるの?」
椿がポン、と思った疑問を出す。
「数は希少。俺が見た中で、皇帝は…」
指を折りながら記憶を辿る。
植物使い。カリム。それと…。確か佐々理の幹部がそれだと聞いたことがある。
「三人だな。そういえば、どうしてカリムのことを聞いたんですか?」
「俺の主な業務はカリムの追跡、妨害だ。些細な情報でも欲しかったからだ」
どうしてカリムが放浪しているかの理由をこの場で得られるとは思わなかった。
奴はずっと茨木さんからに逃げていたのだ。
「だからあの人、いつもどっか行っていたんですね」
「そうだろうな。俺もこの騒動が終わったらまた奴を追い駆けなくてはならない」
「自由に動けないのは不便ですね」
「奴は自由に動かせていないからトントンだな」
突然、茨木さんの装備がバキリと音を上げた。アームがあり得ない方向に曲がっている。これは、彼の能力によるものだろうか。
彼は壊れた装備を見てからゆっくりとこちらに視線を向けた。
「……そちらの装備の確認はしなくていいのか?」
「あぁ、します。それじゃあ、失礼します」
「これからもよろしく」
「よろしくお願いします」
彼に一礼してから自分の訓練に入った。
茨木さんはすぐに訓練室を出た。装備が壊れたことを報告するのだろう。
『よし、聞こえるな?』
午前0時、作戦開始時間。
既に取り付けている枷の無線機能から内田さん、いや内田隊長の声が聞こえる。
『マップの更新や情報共有は即座にハスターが行う。各自はサポートに行ける距離を保ちながら手分
けをして、見つけ次第身柄を確保』
暗い線路の上、無音の空間で立ち尽くす。
全ての装備の準備は整った。
『連行については後衛の公安、特殊警察が行う』
『突入まで残り5秒』
戦いへの恐れはない。
『3,2,1』
細工も隆々。準備は出来た。
『作戦、開始』
第二部隊全員が侵入する。
そして、入り口のすぐ先にはたまたま居合わせた構成員がいた。
(タケル、マイ!)
彼らの顔を見た瞬間に無線に言葉を乗せる。
『俺がこの二人を抑えます!その隙に展開を!』
俺以外全員が彼らを避けて他の通路へ走り出す。この判断は合理的だ。だって俺は彼らの能力を突入組の中で一番よく知っている。だからそれに対する戦い方も組み立てやすい。上手く有利に立ち回れる。
正しい。
正しい。
これは、正しい決断なんだ。
「よう、リツト」
タケルが火の弓を構えながらこちらに向ける。
マイは無言で地面の牙で俺の喉を狙っている。
恐らく、別の人間の能力をコピーしたものだろう。
もう驚きはしない。もう戸惑わない。もう揺るがない。こうなるだろうと思っていた。
銃口を向け、さらに雷を放出して空中に武器を生成する。
「…やろうぜ。幼馴染。…轢き潰す」
漏れる感情の全て振り切って、苦悶の表情で言葉を紡いだ。
俺の言葉を皮切りに、能力群は互いが狙って、標的に向かって剛速で飛んでいく。それらを避けてマイに引き金を引く。幹部の時と同じだ。距離を取り続けると質と物量で押し負けてしまう。
それにあまり長く戦ってはいられない。他にも戦うべき相手はいる。
(リミッター、限定解除)
だから、少しも時間をかけられない。
ドローンを起動させ、強化された力で体を加速させ、タケルに近づき、両肩に両足を乗せて頭に銃口を向ける。引き金を引き、奴を踏み台にして距離を離すと、俺の上にある天井のみが落ちる。それを躱して電気の槍をマイに当てる。
「どうして、こうなった!」
タケルの怒号と共に火炎が渦巻き状に放たれる。
ピンボールのように跳ねて壁まで移動することで躱し引き金を引く。
「俺のせいだな!」
俺が逃げた先に炎の矢が襲い掛かる。俺の背後の壁はいつの間にか針となっている。
一瞬、体の強化に全ての電力を回して回避した。放たれる火の矢は壁を作っているわけではなく、縦横に隙間があったので、強化した体ならなんとか避けることができた。
銃を小手に変形させながら近くまで寄って拳を振り上げる。
溜まった感情を投げ飛ばす勢いで。
「っ───ああああああ!」
「ああああああ!」
互いの叫びと拳が互いの頬に激突する。
タケルだけが電気を乗せて拳によって殴り飛ばされた。
俺は身体を強化したからか、ほとんどダメージはなかった。
飛ばされた先でタケルが力なく倒れており、マイは無言で能力を発動させようとしている。
節約のために強化を解除して、彼女の様子を伺う。
「いくぞ。マイ」
彼女は俺の言葉には何も返さない。
軽く俯きながら俺に敵意を向けている。電気の剣を浮遊させて彼女に向けるが、それでも反応がない。
走り出すと共に剣を射出すると、それらは彼女の生み出した壁で防がれる。今度は剣を持って壁を乗り越え彼女の胸元へ突き立てる。それは避けられ、針がすぐに襲い掛かる。
それを避け、一定の距離で睨みあう。この距離では電気を出しても防がれる。接近戦をしようにも、近づくと棘で体が貫かれる。この戦いでダメージは受けたくない。
だが、防がれない攻撃さえできれば、この状況はひっくり返る。
俺は小手を銃に変形して、即席で用意できる電力を彼女の方向の床に放った。
電気は蜘蛛の巣状に広がっていき、それに触れて怯んだところに近づいていく。
彼女の虚ろな目が見える。
(──ッ)
一歩踏み出すごとに戦いの意義を問われるようで、どうしようもない虚無感が沸き上がる。
戦っている中、マイの目はずっと黒く淀んでいた。まるで俺の罪を見せつけ、俺を侮蔑するように。
俺が彼女の前に立っても、動きを止めても、彼女はもう、抵抗しようとはしていなかった。まるで動かないロボットのようだ。
「…いくぞ」
彼女の頭に触れて、気絶する分の電流を流した。
倒れる彼女の表情は一切見えない。
けじめをつけてから、いざ移動しようとすると、タケルが手を振ってこちらを呼んでいるようだった。
「…どうした?」
片膝立ちをしてタケルの声が聞こえるようにする。もう、彼には戦闘できるほどの余力は残っていないから、何か伝えたいことでもあるのだろう。
「いや、伝えることがあってな」
タケルはどうしてか爽やかに笑いながら喋っている。
「この基地には爆弾が仕掛けられている。沢山のな。残らず回収しとけ。場所は、知らん」
自爆作戦でも考えていたのだろう。
だがこれは、明らかに、リラシオ側が不利になる情報だ。どうしてそこまで話してくれるのだろう。
「どうして、そんなものを」
「俺は、負けたからな。それと自爆はあまり好きじゃないから」
「…そうか」
やけに親切なタケルに対する疑問が残る。タケルは途切れそうな声で話し続ける。
「俺たち、殴り合って喧嘩するの初めてだよな」
「そうだな。確かに初めてだ」
俺とタケルは先程まで叫んで殴り合っていた。
「そうだよな…なんか、良かった…」
彼は満足そうに気を失った。今まで殴り合ったことはなかった。そういうものをどこかで求めていたのだろうか。でも確かに、この感覚にはどこか爽快感があった。
だが、俺は彼らの願いを砕いた。
(しっかり、背負おう)
気に追いすぎるのは良くない。
ただ、俺は彼らを潰したからこそ、その欠片は俺の中に内包しなければならない。
(俺は、俺が、俺の、願いを叶えなければならないんだ)
『内田隊長、この施設内に爆弾が多く仕掛けられているようです』
『本当か?場所は聞いているか?』
『そこは知らないそうです。ただ、数が沢山、ということは爆弾一つの規模自体は小さいかと』
『分かった。後方の部隊にそれらの回収を行ってもらう。引き続き作戦を続けてくれ』
『了解』
俺はマップを見ながら突入時に誰も行かなかった道へ向かった。




