偉い人間、格式ある機械
「で、どうなったの?」
取り調べは終盤。業務上で聞くべきことは全て聞いた椿は、俺が考え抜いた答えを聞こうとしていた。
「決意は出来たみたいだけど」
「ああ、それはもうできた。俺を異能局に入れてくれ。戦わせてくれ。まだ俺は正式には所属してないだろ。ただ武器を貰っただけだ」
「入る理由は?」
「俺の手で終わらせるためだ。俺は血を流すあらゆる存在を潰す」
彼女は両肘を机につけ、顔の前で手を合わせ、俺に期待しているような眼差しを向けている。
「これ以上、被害を出すわけにはいかない。リラシオが過激寄りになった以上、俺みたいな人たちが、より増えていくだろう。それは避けなきゃいけない」
「そう」
彼女の返事は肯定も否定もしないニュアンスのものだ。
「ああ、そうだ。だから、地獄を終わらせる。そう決めた。現場に立つ資格だとか、責任の所在だとか、そんなもの、どうでもいい!悲しみをこれ以上漏れさせない。俺がどうなろうと、ここの地獄を終わらせる」
彼女は机の上で腕を組んでそこに頭を乗せている。
「ギリギリまで粘るくらいの我儘はいいだろ。抱えすぎにはならないよ」
「それくらいなら、大丈夫でしょ」
「なら良かった。これなら進める」
俺は座っている姿勢を崩した。どうしてか、彼女に肯定されたら、心からに安心できた。
「あのー、それでさ。それ。私にも付き合わせてくんない?」
対して彼女は姿勢を正した。
「理由を聞いていいか?」
「私の両親、死んでるの。リラシオのせいで」
俺は何も言えない。彼女の過去は、彼女が話す以上に詮索してはいけない。そう思った。
「彼らが死ぬときの感情を見て、これ以上、他人を絶望させたくないって思った」
彼女は身を乗り出し、俺の顔の隣、耳元まで顔を持って来た。
「何があっても、『貴方』の隣に立つ。もし、抱えきれなくなったら、私が一緒に抱える」
声は荒げていないが、誰かを助けるために必死な形相をする彼女は、素を曝け出しているような気がした。
「俺、抱えすぎないようにするって、言ったはずだけど?」
「それで、もし抱えすぎたら?私はその時の保険」
「ククク、そうか。ありがとう」
彼女は心配してくれているのだろう。
「よろしく。リツト。一蓮托生ね。いいお話を作ろうか」
「よろしく。クイナ、映画みたいな美談を目指そう」
彼女は何もなかったかのように、椅子に戻ってタブレットの操作をした。
「さって!取り調べ終わり。夕食でも食べに行く?」
「あ、ごめん。夜は予定あるんだ」
「え?嘘。なに?会食?偉い人と?誰?」
「総理大臣」
夕食の相手を聞いたクイナは唖然としていた。
「えっと、粗相のないように…?」
「…ああ。そうするよ」
取り調べの後に連絡された集合時間になった。
俺は戻ると部屋に用意された服装に着替えて拠点を出る。その先で、高級車で出迎えられ、起こっていることの重大さを実感出来た。俺はこの国のトップと面と向かわなくてはならない。
用意されていたものは、無線などのspの道具だった。どうやらspに扮しろとのことらしい。
「お、お願いします」
「ええ、安全運転で行きますよ。それと、そんなに怖がらないで」
やけに爽やかな返事をした彼らは、俺を車に入れてから車を走らせた。
「ははは。怖がってるの顔に出てました?」
「出てましたよ。すごく厳つかった。鬼みたいに。も、こんなんですよ。こんなん」
助手席に座っていた人が変顔をルームミラー越しに見せると車内でささやかな笑いが起きる。
「それで、総理が俺みたいな人と食事するってよくあることなんですか?」
「あまりないな。かなり特例だ。総理は君の境遇?について色々聞きたいらしい」
「はぁ、不思議な人ですね」
「カリスマは有るし、才能がある人だからな」
身近にいる彼らも彼のことは評価しているようだった。
「リツト君、公邸の幽霊について知っているかな?」
「幽霊ですか?」
「そうだ。しかも軍服の。確か二・二六事件の亡霊とかなんとか」
ここまで科学が発展した世界ではあるが、幽霊だとかそんなオカルト話が消えるわけではなかった。むしろ追及されたことにあるように感じる。
「えっと、人住んでるんですよね。そこって」
「ああ、総理は『そういう話は好きだが、そんなものは実在しないだろ。実在しないなら心配する必要はない』と言っていたな」
「なんか、肝が据わってますね」
「風習とか慣習とか、あの人は神輿にならないものしか信じないタイプだからな」
「あー、ニュースでもそういう人だって言われてましたね」
「そうだな」
そんな雑談をしながら、俺たちは公邸までの時間を潰した。
そして、公邸に到着する。
ここまで連れてきてくれたspの人たちによると、やはり、俺はspということになっているらしい。
玄関口に入ると、そのまま大ホールと呼ばれるらしい場所へと案内された。
パーティを行えるくらいの大きな部屋に、沢山の四角いリビング用のテーブルが複数置いてある。
部屋の中央に位置するテーブルの上座に現職の総理大臣、山吹リュウノスケがいた。
「お、君が杜若リツト君だね」
彼は四十代前半で、絶大な人気と建設的で革新的な政策で入閣を果たした男だ。弁論では果てしなく俺の上にいる存在だろう。正直なところ、すでにオーラが違う。
「座って座って」
彼の前にある席を手で指す。そこに座れということだろうか。
「失礼します」
一つ後悔をした。テーブルマナーを確認するのを完全に忘れていた。最低限の知識はあるが、確認した方が絶対に安心できる。俺の席の前には様々な種類のナイフやらフォークがある。
(やばい、これマジな奴だ)
並べられている食器の豪華さ、頭上にある絢爛なシャンデリア、そしてテーブル中央にある雉の像。それらが今いる場所の壮絶さを説明している。
「はは、緊張しているか?」
「いえいえ、そんなことはないです」
固まるな。こういう場所では緊張した様子や慌てる表情を見せることが一番好ましくない。
「君と話がしたくてね」
「ほんとに良いんですか?」
「いやなに、今日は時間の空いたspと食事をするだけだ。何も問題ない。私、結構そういうことするからな。日頃の感謝を伝えるために。いつもはかなり人数を入れるんだがな。今日はスケジュールが合わなかったらしい」
「そうですか…」
ナプキンはもう膝の上に敷いても良いのだっただろうか、と迷いながら端正にそれを敷く。
「君の境遇は聞いている。壮絶だったな」
「ははは、そうかも、しれないですね」
「ああ、それにその話は良くない話でもある。そして私たちは今、超能力者の制度を作っている訳だが…君はどう思う?」
「内容は基本的に平等っていう解釈で良いんですよね?」
「ああ、そうだな」
「特権を用意しろと言うつもりはありません。ただ、能力者には現行のコンピューターより頭が回る人もいるんです。そういう人たちは、どうなりますか?」
意見を言うと、彼は数度頷いてから口を開いた。
「安心していい。今の社会は十分に能力主義だ。国が保護せずとも力でのし上がれる仕組みになっている。もし、能力者の保護し能力の有無の違いを鮮明にしてしまうと、これだけで未来が決まるという風潮がこの国に浸透してしまい、国に活力が無くなるからな」
確かに、そこで差別が生まれてしまう点には言い返せない。
適応するまでは時間がかかる、というのは当たり前のことだろう。そこは、待つしかない。
「ま、そこに至ってくれたならいいよ。結果を示すのは我々政治家だ。君たちはそれの是非を考えてくればいい。さて、この意見はどうだった?2p」
彼は俺を見たまま何かに話しかけた。
『そこの調整こそ、我々が苦心している点なので、なんとも』
どこからともなく電子音声が聞こえた。
「え?」
辺りを見回すがスピーカーらしきものはない。
『目の前です。リツトさん』
どうやら雉の像から音声が流れているようだ。その音声が誰のものかと考えた途端、とある可能性にたどり着いた。
「これって政府、内閣直属のAI」
『初めまして、国家政策予測システム、NPPSです。総理からは2pと呼ばれています』
政治とAIの融合。それの象徴とされるものだ。




