奇襲
(あと、三分…凌ぎきる)
二人の敵に向かって電気を撃ちながら接近する。電気弾たちは躱され、幹部たちは身構える。
奴らの能力は規模が大きい、味方を巻き込むような能力の使用はできないはずだ。だから、片方と近距離で戦っている時は、もう片方を盾とするような戦い方をする。
まずはマイの父を攻める。義手になったばかりだから、接近戦には慣れていない筈だ。
「こんな、ものか?」
しかし、それでも攻めきれない。間合いを詰め、電気で体を強化して、防戦に回らせているのに攻撃を全て捌かれる。
遊ばれているのだろう、ならその油断を突く。
拳を振り上げた瞬間、纏っている雷を鞭のように変形させて急所に向かわせる。勿論それも避けられるが、そこから雷を剣に変形させたりして、戦い方を逐一変えて電気を浴びさせる。
ただ、それでも足りない。上手くそれらの攻撃を捌いて俺に一瞬でも隙があれば業火が飛び、頬を掠めている。
それをなんとか避けると、さらにナイフを振って起きた斬撃が飛んでくる。何とか目視は出来るが強力無比な力だ。
その攻撃は体勢を崩し、無理矢理避けざるを得なかった。
そこから生じる隙は必ず突かれる。
タケルの兄は俺を壁まで蹴飛ばした。
そして、眼前には二人が死を与えんとする光景がある。
身にまとう雷の一部を銃に流して、地面を撃ち発光させた。単純な目くらましだが、攻撃をずらして回避可能のものに出来る。
しかし、もう逃げを決めるために用意していた奥の手が使わされた。
幹部レベルではすぐに目くらましに慣れてくるだろう。次がラストチャンスだ。
「ちっ…!」
戦い方を、『戦略で実力差をごまかして拮抗させるもの』から『相手を妨害して実力を発揮させないもの』へと変更させる。一時的に能力を強化して、雷の鎧を薄く広げ、地面に走らせ雷のフィールドを作った。
超能力者は自身の持つ能力に対する耐性を得る。能力を持つことで電気の耐性を得た俺を例外とした妨害用の地形。地に足を着ければ電流が流れ、筋肉の動きを阻害する。
元々、あの鎧は発光の予兆をごまかすためのカモフラージュだ。ネタがバレているならごまかす必要はない。変形武器も相手にあまり通用しないし、そのリソースはもっと有効活用する。
「降りて来いよ。特権獲得とか、上の空言ってないで、地に足着けようぜ」
奴らはジャンプして自身が作った天井の傷や壁の傷に捕まったりして、床には触れないようにしている。幹部ほどの能力者となるとこんな芸当も軽く出来るようだ。
壁にも天井にも電流を流せるが出力が下がる。出力が下がった電気は幹部には通じない。
「降りない。なに。お前を見下すにはいい位置だ」
タケルの兄は態度を高圧的なものに変える。
「まさか我々に床を奪っただけで逃げられると思っているのか?」
マイの父も依然、余裕があるらしい。あれだけ電気を浴びたのにまだ動けるようだ。だが、さっきから義手の方から能力が出ていない。義手からでは能力が出せないのだろうか。
「勝てるさ。絶対」
俺の勝利条件は逃走、もしくは茨木ジンとの合流。そのためには彼らから抜け出さなくてはならない。もうそろそろ体力が無くなってくる。最早、粘ることは不可能だ。
俺は出口の方向へ走り出した。一秒でも早くこの戦いを終結させるために。
「「待て!」」
二人は俺の行く先に、出口へとつながる廊下へと能力を放とうとする。
俺から俺の行き先に意識が逸れた瞬間、床の電気を使い、閃光弾として発光させた。
その瞬間にドローンの能力強化を限定解放した。
マイの父にはマシンガンの電撃を撃ち、タケルの兄には飛び蹴りをする。
これで数秒稼げる。
防御されても電気は体の動きを封じられるはずだ。すぐにこの男を台にして出口まで飛ぶ。
体勢が崩れた着地は少しのロスだが、追いつかれることはない。
出口に繋がる道へ駆ける。逃げられる千載一遇のチャンス。 と思った矢先、俺の足元、目と鼻の先の地面と空間が抉れた。
(能力発動する暇なかったろ⁉)
斬撃ならばマイの父の能力だ。奴の方へ振り向くと片手を腰に当てながら俺を眺めている。
「置き刃だよ。よく気付いたな」
(気づいてねぇよ。躓かなかったら真っ二つだった)
強化を解除して、冷汗をかきながら運の良さを噛みしめる。タケルの兄も立ち上がって自身の体の調子を確かめている。あの電気量ならユウナの部屋に来た二人組ならもう倒れてもおかしくないだろうに。
さて、どうする。
まず、二人の集中砲火をなんとか凌がなくてはならない。
相殺?無理だ。お手上げか?いや違う。なんとかする。
「さて、どうする?押上家当主」
「燃殺する」
一瞬でも長く時間を稼ぐしかない。ここで、茨木ジンの到着に頼るしかない。
俺はまたドローンで能力を強化し、その能力で体を強化して走り出した。同時に幹部たちが能力を射出し、地面を切削、焼却しながら俺を喰おうと襲い掛かる。着地点は俺の前方、俺の行動を読んだ先に位置していた。
俺はそれを後ろに飛んで回避し、斬撃でできた穴に隠れる。
轟音が響く。
響いて消えて煙が舞う。
ゆっくり煙が消えてなくなり、抉られた先が露になる。
「ついに殺せたか?」
「さあな、分からん。良い人間だ。油断できない」
奴らは俺の安否を確認するために歩き始めた。すぐに銃で撃った電気の塊を三つの位置から展開。スナイパーライフルβへ形態変更完了。
出口への妨害時に抉られた地面から、展開した全ての電気を槍へと形状変化し発射させる。
「生きていたか!」
マイの父は嬉々として能力を出そうとする、
俺は深さ3メートル弱の深い溝の中で幹部たちを止める方法を考えていた。
奴らは俺のことを見失っているようだった。
その探している隙を使ってマイの父を狙う。スナイパーライフル本来の射程を捨て、威力と弾速にさらに特化させた形態。タイプβ。
その弾丸は異次元の速度で飛び、着弾点で弾けた。
タケルの兄は火炎を飛ばす。
しかし、今までの蓄積し放った槍の電気によって動きが鈍り、狙いをずらすことで、火は俺の右手を掠めて壁へと着弾した。
「あああ!」
燃えて、あ、あ。まず──。
パニックになって何も考えられない。
転げてもがく内に、焦りが俺を支配する。
装備で守っているとはいえ、このままだと右手が機能しなくなる。それどころか死ぬ。
切り落とすか?
俺の能力ではそんなことは出来ない。
マイの父も起き上がっている。ダメージは与えられただろうが、まだ戦えそうだ。
(クソ、クソ、クソ)
立ち上がって頭を回す。
回して、重箱の隅までひっくり返して考える。
「そこにいとけよ!」
俺の右腕に大量の水がかかり、火がおさまった。
そして、長身でコートの男が俺の前に立つ。
「あなたが、茨木ジンですか?」
「ああ、そうだ。撤退する」
その男が現れると幹部たちは一歩だけ距離を取った。
さらにマイの父は二本目のナイフを取った。
この男はリラシオ幹部たちの中でもかなりの警戒対象と見なされているらしい。
井原原に肩を貸されて、そのまま異能局が敷く包囲陣まで後退できた。
第一部隊の拠点の前、異能局が陣取っている場所で、強化を解除し患部を水で流した後、冷却グッズで冷やしていた。
「包帯しようか?」
「いや、包囲に参加するんだろ。これくらい自分でできる」
茨木ジンも、井原原も俺をここに連れてきたら包囲の方へすぐにUターンして戻って行った。
「そう、それじゃあ。」
椿はまだここに残っているようだった。
彼女も銃の弾倉を補給しており、包囲に参加する準備を始めている。
ユウナはゆっくりと休めているだろうか。
俺の仕事も終わった。敵を上手く拠点の中に集中させられたし、重い傷もなく抜け出せた。
「これで、万事終わり、生き延びた。生き延びられた」
「杜若!」
椿が慌てながらこちらに駆け寄ってくる。
「今すぐこっち来て!ユウナちゃんが!」
ユウナに危険があったということか。
「今すぐ移動するから、私のバイク乗って」
「ああ!」
保冷グッズは投げて、近くにあった応急キットと俺の枷を拾って手首に着ける。彼女はその間に近くにあったバイクに跨りエンジンを入れる。俺がドローンを装着し、彼女の後ろに跨るとすぐにバイクを発進させた。
「場所はここ」
彼女はこちらにタブレットを渡した。マップの中で赤い点が点滅して表示してある。
「その赤い点の場所にユウナちゃんがいる」
「直線で行きたい。協力してくれるか?」
「もち、そのつもり。そこまで移動するから」
「現場からの連絡はなんて?」
「幹部二人って」
「ふ、2人?どんな能力かは分かるか?」
たかが裏切り者を一人粛清するだけなのに、相当な力の入れようである。あの集団なら幹部一人と拮抗出来るかもしれないが、2人となると怪しくなってくる。
「能力は植物とか動物とか、二つの力の報告があがってる」
「動物?」
動物の能力者は聞いたことがない。まさか幹部レベルの実力者がまだいたのだろうか。
「私と応援が追いつくから、そんであと三秒でそこからビル群突っ切って」
「おう!」
「3、2、1」
彼女のカウントダウンで俺はビルの間の路地裏へ飛び出した。
「あとで来いよ!」
そう彼女に言ってから、ドローンの強化を起動して摩天楼の間を縦横無尽に飛び続ける。ほぼ一直線に、ユウナのいる場所へと走って、建物へ窓を突き破って中に入った。
ジャングルが建物の中で顕現している。
あの時と同じだ。
とんでもないことになっていますが、このリツトの事件が終わるまでのストックはあるので安心してください。




