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偽りのピースキーパー   作者: 新川翔
Reviver編
13/50

窮地

「サァ!始めようか!」


 扉を避けたもう一人が、怯えるような目で、俺を見ていた。


「お前はァ!」


「誰だァ⁉」


 怒鳴られたので大きな声で聞き返す。


「まさか、忘れたのか⁉」


 怒り心頭の表情だが、俺はその顔をすぐに誰かと言い当てることは出来なかった。


「ああ、忘れたよ!色々ありすぎてな!」


 言葉を吐いた後にやっと思い出した。カリムの家で俺に話しかけてきた男だ。

 あのうるさい、押しつけがましい男だ。


「君は何故裏切った⁉みんな残念がっていたぞ!お前だけは絶対に許さない!」



 『みんな残念がっていた』



奴の言葉は苦渋を溢れさせた。


「じゃあなんだよ。ただ殺された方が、都合が良かったか?野垂れ死ぬのが正解か?」


 ここまで言う奴の答えにむしろ興味が湧いてきた。


「ああ!そうすれば君たちのその精神を汚されることはなかった!崇高な死として我々の御旗の一つになれたのに!」


 寸分でもこいつに期待した自分に失望した。


「ク、ははは!」


 無意識に口が笑ってしまう。すぐに顔を素面に戻した。


「気持ち悪いな。そんなの出来る訳ない。簡単じゃないだろ。テストの問題じゃないんだぞ」


 コイツは頭がおかしい。こいつに期待した俺も少し心配になる。


「お前、まさか、組織の誇りとなる名誉に唾を吐くつもりか⁉」


「あー」


 名誉、名声、勲章。人々が人を称えるための概念。

 そんなものを、考えていたら、道を決められなかったんだ。俺は。


「そんだけ気楽なら楽だったかもな!」


 アイツのように、何かの犬になって、家畜となって、抗わずに従っていればどんなに楽になれるのだろう。


「そうか!分かり合えないな。君とは!」


 意見が違えた瞬間、奴は先ほどのうるさい調子に戻った。


「分かりあうわけねーよ。お前とは」


 奴が怯えている眼前で銃を構える。


(正しいことはないんだろうな)


 高威力の弾丸を叩きこめる射程に入れるために、距離を徐々に詰める。


(それでも探り続けるしかない)


 奴はじりじりと後退して、銃の射程外に上手く逃げようとしている。もし、目の前の男に戦う意思があるのだとしたら、能力は中遠距離タイプ、対象に現象を付加するType:mago(魔術師)の可能性が高い。それとも、俺と同じType:scenic(愚者)か。


「手に入れたものが、正解でなくても」


──新釈したものが、完全な答えでなくとも。


「それを求め続けるのが俺なんだ」


「なに言ってっ──」


 奴は俺へ構える。近づいて殴る度胸もない人間が、皇帝レベルの能力を持っている筈がない。


「死ね!リツト!」


 能力を発動する瞬間を見切り、右壁、天井、左壁へと飛び、その間に五回の発砲を挟んだ。

 壁を蹴った勢いそのままに奴を殴りつけ、雷の刃を突き刺して最後に槍で串刺しにする。


「なんてザマだよ!」


 怒りをぶつけるように叫ぶ。


 すると、空白の衝撃により後方へ吹き飛ばされた。受け身を取って立ち上がり、奴の方へ目をやる。能力は発散、押しつけ吹き飛ばすサイコキネシス。射程距離は分からない。


 しかし、それほど遠くにも吹き飛ばされておらず、さらに追撃もない。俺の立っているこの位置、三十メートル地点は能力の射程外なのだろう。

 なら、この間合い保てば一方的に攻撃することもできる。


「死ね!すぐに死ね!」


 すぐに間合いを詰めてくるので、後退しながら引き金を引き続ける。

 ただ、突入部隊の中で一番にこの場所に来ただけはある。身体能力だけで銃撃を躱している。


 遠くからの撃ち合いもあまり続けてはいられない。長引けば長引くほどリラシオの仲間が集まってしまう。求められるのは速攻、即討伐。

 ここまでの戦いで能力の限界、誘導範囲、効果範囲。それらを推定する。

 この距離でも、隙さえあれば十分な電撃を浴びさせるために近づける。この状態で脚力を強化すれば可能だ。そして、隙を作る布石なら既に打っている。


 俺は撃った先の、彼の肺後のさらに先で空中に留めていた電気を一気に引き寄せる。

 奴は不意の電撃を受けて膝を着く、その隙に形状をマシンガンに変更。適切な距離に立ち狙いを定めて十分な弾を撃ち尽くした。しかし、奴はしぶとくまだ意識がある。


 それを見ると、すぐに奴へと飛んだ。もしこのまま放置しておいたら、奥の手を出される可能性がある。それを食らったら何が起きるか分からない。


 それが使えない近距離で、かつ速攻で倒す必要があるので、電流を浴びせて完全に動けなくした。


「もう、…喋らないでくれ」


 誰にも聞こえないはずなのに、淡々と呟いていた。

 これ以上、雑音を聞きたくなかった。


「…そろそろタイミングか?」


 襲来してきた二人の気絶を確認したら、無線から全ての部隊は外に出た旨を通達される。そろそろ作戦の第二段階に移る頃だろうか。これからの行動の選択肢をいくつか考える。



・このままずっとここにこもる。

・もう少しだけ、タイミングを見極める。

・離脱(複数ルートあり)。


ここですべきは遠回りで離脱だろう。


 移動はする。

 これは最低条件だ。囲まれて殺されることが最悪のケースであり、それを避けるためにはここから離れる必要がある。

 ただ、カリムがこの光景を予知している場合、一番近道に幹部を配置しているだろう。俺の位置は内ポケットの発信機で把握している筈だ。出口を変えても対応してくれるだろう。


 奴は可能性という言葉を口にしていた。それを信じるなら、彼自身は未来のフローチャートのように観測しているのだろう。ただ、彼か彼自身で観測しない限り、俺が今、何をしているかを、どのルートか推察することは出来ても、確定させることは出来ない。


「この選択、間違えられないな」


 今の実力、余力なら幹部一人ならば逃げることができる。組織の構成員や準幹部、綿密な連携があっても抜け出すことも出来る。


 俺は三番目に遠い出口に向かって走り出した。道中にいた者を行動不能にまでする必要もない。俺の目標は脱出だ。そこ以外に欲張る必要はない。


「リツトだ!」「そこか!」「殺せ!」


 三人と目が合った瞬間に銃の引き金を引く。電気で動きが鈍った瞬間に横切って進んでいく。今の三人も、異能局の作戦が始まればすぐに拘束されるだろう。


 T字路などの角が多いこの施設は物陰に隠れやすくていい。


『どう?』


 無線に椿の声が入る。


『順調だ』


 超能力者は能力が強化されれば、身体能力も強化される。自分でもまさかこれほど動きが違うとは思わなかった。


『このまま──』


 出口まで大体半分。そこで俺は立ち止まる。カリムは上手く俺の行く先を予知したようだ。


「ここに来たか、良き人間」


「よし、私の法を執行できる」


 あの時の、親父を殺した幹部の二人だ。様々な区画と繋がる少し広い広場で待ち構えていた。


 カリムの助言でここまで来たのだろうか。


 もし奴がそうしたとなると、俺は奴の手の平で転がされているのだろうか。

 ただ、今はその不安を考慮しなくていい。


 幹部二人を相手に戦う時に、そんなことを考える余裕はない。


「昨日以来ですね。元気でしたか?」


 マイの父は左手に刃渡りの長いナイフを持っており、親父が捻じったはずの右腕がある。恐らく義手だ。あの傷を負った二人が本調子である筈もない。


 ただ、その程度ハンデでこの二人から逃げられるという保証もない。


「ああ、良い人間にこうも立て続けに会えると、元気はつらつだ」


『椿、茨木って人はいつ来る?』

『あと三分』


「いいから殺してやる。規則に従い、な」


 幹部たちが何か言っている間に目標を設定する。この三分間は何としても生き残る。


「殺してみろ、今の俺はあの時の親父よりも強いぞ」


 全身に雷霆を纏う。


「見掛け倒しも良いところだな」


 タケルの兄が呆れたように俺の姿を見て言った。


「纏って偽るか…それは良い人間とは言えないな」


 マイの父も俺の姿の感想を言っている。相手には余裕がある。

 能力は幼い頃にマイとタケルに聞いていた。マイの父は『捌く』サイコキネシスで、タケルの兄はタケルと同じ火炎を操る能力だ。彼らの能力を集中放火されたら死ぬ。だから、遠距離で能力を出力させないように戦いたい。


(あと、三分…凌ぎきる)


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