ギャルとオタク、校則について話し合う⑤
夏の雲は、縦に長く厚い。アイツが俺たちの頭の上に来ると一時的に風が強くなり、スコールが降る。
そんな夏の雲の代名詞、積乱雲のような、環境を変えるエクストリームを起こすために、一歩一歩、足を踏みしめながら、学校に向かっていた。
自分の席に付き、回りを見渡す。
窓からカーテンの隙間を駆けて来た光が、チラチラ見える姿は風情を感じる。
風で揺らめくカーテンの動き。まるで風と遊んでいるようで、自然的な美しさがある。
それに対して、どの人間も個性などない、違いなどない、そう思わせる、統率のとれた生徒たちは、自然的でなく、これは人工的な美しさがある気がした。
どちらも本当に美しくないと言い切れるなら事は簡単だったのに。
そんな空間に一人の女子生徒が入ってきた。
ギャルである。
セミロングの茶色い髪をたなびかせながら、教室のドアをそっと閉める。
背筋は伸びていて、顔はしっかり前を向いている。眼球の力強さが他の統率のとれたモブとは、段違いだ。
俺も、その場所で生きたいと改めて思わせられた。
ギャルはオタクを見てから、プイッと顔をそらして席に着いた。
オタクは呟いた。
「オタク……動きます」
おもむろに鞄からゲームを取りだし、耳にイヤホンをつけ、やり始める。
統率のとれたモブたちがその姿を見て、ザワザワとし始めた。
当たり前か、先生に見られたら確実に成績が落ちるからな。
ギャルが鬼の形相でこちらを睨んでいる。
眉間にはシワが寄り、眉毛と目の距離がこれでもかと近くなっていた。
立ち上がり、腕を組み、椅子から立ち上がり、オタクの横に立つ。
オタクは平然とゲームをしているようで、内心はビビリまくっていた。
おいおい、いくらなんでも顔恐すぎんだろ、どんだけキレてんだよ。
今すぐ逃げ出したい気分になったが、そんなわけにも行かない。
自分なりの考えがあって俺は今ゲームをしている。
「おい、オタク」と、ギャルは言った。
「なんだよ」と、オタクは返す。
「今すぐゲームを止めろ」
「何で止める必要がある?」
「見られたら不味いだろうが、成績下がっちまうぞ」
「それを踏まえた上でゲームしてんだよ」
「私、昨日ちゃんと話したよね……私はオタクの事を考えて言ってるのに……」
彼女が俺のゲームクリエイターになる為の夢への第一歩が成績だと考え、成績が落ちないように配慮してくれているのは知っている。
彼女の怒りの形相は、言葉を交わすごとに憂いていくような、悲しんでいるような形に変化していった。
「ギャル……、君が僕の事を考えて、そんなに感情的になってくれることが、どれだけ嬉しいことか、君は俺じゃないからわからないだろうね」
「話をすり替えるな」
ギャルの瞳は鋭く、触れただけで切れてしまいそうなくらい、研ぎ澄まされていた。
オタクはその瞳の奥を見ようとしながら話しかける。
「それだけ、人の事を思える君だから言うよ。君が先生に怒られているとき、君の将来に少しでも不安要因が増えるじゃないかと思われる行動をしているとき、俺だって、君の事を心配して……止めてほしいと思ってしまうのだよ」
ギャルは黙って下を向いている、思いやりのある彼女の事だ。
俺が、自分の成績を人質に取るようにして、やめてと頼めば……きっと彼女は自分の意志を曲げてしまうのだろう。
「じゃあ、私が校則を守れば、オタクも止めるんだな」とギャルは言った。
「いや、止めるつもりはないよ?」
「どういうことだ」と、彼女は困った顔をする。
「俺の意志でゲームをしているのだ。ギャルが心配だからと言って、校則に違反する姿勢を批判する気持ちなどゼロなんだ、俺は今の君の物事に挑む姿勢は美しいとすら感じている。けして君に姿勢を崩してほしいなんて思ってない」
「はぁ、お前ってやつは」と、ギャルは呆れた顔で呟いた。




