ギャルとオタク、校則について話さない ②
校則が設定されて一週間、進学校である我が校の生徒は皆服装を正していた。
オタクは周りを見渡し、少し怖い気持ちになった。
まるで宗教みたいだ、同じ格好の男と女が並んでいるこの教室は、綺麗に見えて歪だ。
教室の中、一人目立っている女性徒がいた。スカートは膝上で健康的な足を見せびらかし、短く明るい茶髪はウェーブしていて、快活で彼女の明るい性格が伺えた。
背筋はピンと伸びていて自分が周りと違う事を全く気にしていないと伝わってくる。私がルールだと言わんばかりの背筋だ。
耳には銀色イルカのイアリングを付けている。これに関してはハイセンス過ぎてオタクには理解が出来ない。
緩く閉められたネクタイは、縛られるのは嫌だという彼女の気持ちが垣間見えるようだ。
彼女はギャル、現在は校則違反の塊である。
そんなギャルを見るのは、オタクにとって目の保養以外の何者でもない。ずっとそのままでいて欲しいと心から思った。
ギャルは校則違反を注意されるたび、自由とは何か説明し、「多様性を認められない人間が正しさを語るな」、等々の理屈を展開して教師を論破していた。
人間は追い詰められたときや、感情が高ぶったとき本性が出る。
ギャルに向けて頭ごなしに「校則を守れ!!」と怒鳴る教師もいた。こういう教師はダメだ。本質を理解していない。
それに比べ俺たちの担任は、自分なりの意見を考え説得しようと頑張ってくれた。
質問に対して簡単に受け流さずやり取りしてくれる先生は良い先生だ。
そんな良い先生も最終的には校則を守れとギャルを否定する。
彼女が注意を気にしてないのは素振りからわかったが、少しずつ消耗しているのではないかとオタクは思った。
校則が設定されたすぐは、ギャル系の格好をしている人たちもいたが、今では校則通りの人間になっている。
まあそれも、しょうがないだろう。皆将来を見据えてこの学校に来ている、服装を正さないだけで評価を下げられては頑張ってこの学校に入学した意味が無くなる。これは攻められることではない。
ただ一つ大きな問題がある。ギャルが俺に話しかけなくなったことだ。彼女が話さなくなったら理由は、(オタクの評価、成績が私と接することで下がることは嫌)だってところだろうか。
ギャルは俺だけでなく、他の友達とも距離を取っていた。それはギャルから始めたのか、友達から始めたのかわからない。
ひとつわかる事があるとすれば、今彼女は孤立している、ただそれだけだ。
――少なくとも俺は、そんな事望んでないのに。
◆◆◆
休み時間ギャルに話しかける。
「ギャルさん、ギャルソン、ギャルさん」
「オタクか、ごめん、ちょっと忙しいから」
ギャルがボケも無視して、外に出掛けてしまった。
話しかけても、軽く流されてどこかに行ってしまう。
ここ二日間ずっとだ。
体からギャルエネルギーが不足している。この状況を早く何とかしないと。とても深刻にオタクは思った。
◆◆◆
ギャルがそそくさと、一人で帰ってしまう。いつもは友達と話しながら帰っていたのに。
俺にバイバイの挨拶もしない。いつもはしてくれるのに。
取りあえず何故俺を避けるようになったか、彼女の口から直接聞く必要がある。
オタクは廊下を走って彼女に追いつき、肩を掴んで、
「おい、ギャル、一緒に帰ろうぜ、……えっ聞こえてない? ……無視はやめて!! 悲しいでしょ」とおどけながら、大きな声で喋りかけたのだが、ギャルの足取りは全く止まらない。
「おい、無視すんなよ」
少し強めの口調で言った。
ギャルは、振り返りギッと鋭い目つきでオタクを睨んだ。
張り詰めた空気、何をするかわからないと思わせる、狂犬的な表情を見せ、ギャルはオタクの手を鋭く払った。その動きは速すぎた。
俺じゃなかったら見逃しちゃうね。
「おい、あんまり馴れ馴れしくすんなよ」
低く即冷えするような音色の声、初めてのオタクに対する直接的な拒絶だった。
廊下の真ん中でオタクは立ち尽くしてしまった。




