バトルファイル 005-3 VS新フレーム
模擬戦三本目。
ラルズは開始早々距離を取った。
相手からどう見えるか、そしてどう動くか。後手に回ってちゃ勝ち目は無い。とにかくハンチョウの想定を超えなくてはならない。
隠れる場所を探していたラルズは、割れた岩を発見。コンソールを操作し始める。
一方のハンチョウ。
新型フレームに大分慣れてきたハンチョウは、岩の影でだけスラスターを吹かし、極力光を出さないようにしながら、想定エリアを削って行く。
サトウ
「グラフィックは再現してるか!?このニンジャのような軌道を!一度もスラスター光を見せずに距離を削るこの操縦を!」
通信
「ニンジャ!ニンジャ!」
「隠密機動ならエースの上じゃないか?」
ハンチョウ
「左上!?」
接敵想定宙域よりだいぶズレた角度から迫る物がある。その速度から戦闘AIは敵機の判定をしている。
ハンチョウ
「岩?隠れて近付くには速度超過ね、不自然よ。それとも囮?」
角度をずらして頭上から攻撃しようと、岩の間を縫って天頂方向へ移動するハンチョウ機。
だが、不自然な岩はハンチョウ機を追尾するかのように、軌道を修正した。
ハンチョウ
「押してるわね。囮じゃないなら!」
サイトウ
「おっとハンチョウ!一気に距離を詰めてすれ違いざまに岩を押すラルズをロックオンする気だー!ラルズ!感知してるか!」
後ろから岩を押すラルズ機。その映像をイメージして、ガングリップを構えながら岩横をすり抜けるハンチョウ機。
一瞬後にはラルズ機の背中が見える筈……が。
ハンチョウ
「どういうこと?」
後側に回り込まれた筈の岩は、さっきと同じ面をハンチョウに見せている。まるで地球には表しか見せない月のように。
一旦身を隠す機動を考えて、ガングリップから集中を解いた瞬間。
岩の陰からビームが伸び、ハンチョウ機の右脚を掠める。
戦闘AIの判定では塗膜蒸発12%。かすり傷ではあるが命中でもある。
サイトウ
「おおお!?まじか!まぐれか!マジカルか?!」
通信
「マジカルううう!」
ハンチョウ
「くっ、あの岩!押してるだけじゃない……どうやってホールドしてるの?」
回り込もうと機動が単調になると、岩から殆ど身を晒す事無くビームが飛んでくる。ハンチョウは素晴らしい反射神経で熱貫通される程の長い照射は受けないが、少しずつ塗膜はダメージを受けていた。
ハンチョウ機から牽制気味に射撃されるビームも実弾も、ずっと正面を見せている岩に効果的なダメージは与えられない。
サトウ
「みんな……気付いたか?ラルズは板状の岩をワイヤー使って左腕に固定してるぞ!」
通信
「シールドってことぉ!?」
サイトウ
「シールドってこと!ラルズは宙間射撃戦闘にシールドを持ち込んだぞ!!」
通信
「イノベーション!イノベーション!」
通信の向こうの整備士兼アーティスト達は、新しい発想が大好きだ。
ラルズ機に固定された盾は、左半身にワイヤーで岩を巻き付けた。というのが正確な表現になるだろうか。
ラルズは板状の岩を見た時、偏差必須で当たる気がしない左腕の実弾武器と、大盾の如く身を隠せる岩とをトレードした。
回り込もうとしてくるなら、機動予測も可能だ。
大盾に身を隠し、命中率が高そうな時には、チラリと姿を見せて射撃する。
岩が実戦で35ミリに耐えられるがどうかは分からない。だが戦闘AIは岩を破砕するグラフィックを表示していない。
ビーム戦しか想定していない宇宙機へのアドバンテージとなる実弾の塗膜割り。
実弾戦を想定してのキャビン廃止の新型フレーム。
そしてこの盾は、実弾戦を優位にしうる装備として、新型フレームのコンセプトに合致していた。
ラルズ
「よっし!赤エフェクト!今のは結構塗膜を蒸発させられたな!」
自分の判断に、急速に自信が満ちる。
ラルズ
「行ける!行けるぞ!このまま慎重に……」
その時強烈な衝撃が機体に走り、岩が割れて破片を散らす。
岩を固定していたワイヤーが外れて、ウインチが巻き取りを始めた。
ラルズ
「しまっ……」
グルグルと縦横に回る視界。姿勢を安定させなければ、索敵も回避もままならない。
短くフラッシュするレフ板。小刻みに倒し引かれるポスチェグリップ。スクリーンを侵食する赤いスクエア。
ピーーー。
何とか姿勢を制御したラルズ機は、塗膜を割られた末にビームの熱貫通を許した。
サイトウ
「ここでキルサイーーン!ハンチョウまさかの突進からのキックでラルズをぶっ飛ばしーー!」
通信
「凄いのでた!」
「新戦術に新戦術かぶせて来たーー!」
サイトウ
「模擬戦終了。両機収容後に改良要望お願いしますー。お疲れ様でしたー」
抑揚の無い声で帰投を促すサイトウの声を聞きながら、乱れた呼吸を懸命に整えているのは……ハンチョウだった。
心臓の辺りに手を置いて、早い鼓動を鎮めようと目を閉じる。
ハンチョウ
「まさか……手詰まりから物理格闘が有効的なシチュがあるなんて。プリーニオが見たら、やっぱりパンチがーって言いそうじゃない」
小型船への帰投コースを取りながら、戦闘ログを見返すハンチョウは、シールドねぇ……と楽しそうに顎を摘んだ。
そしてもう一方のラルズは……。
ラルズ
「くっ、そうだよ対応してくるじゃんよ、当たり前だろ!何がこのままだよ!」
床を蹴りそうな勢いで悔しがっていた。
ラルズ
「折角想定を超えたのに、僕が想定を止めてどうすんだ!体当たり想定出来るじゃん!そしたらワイヤー外してカウンター準備出来たじゃん!」
この日の模擬戦は、ルートチューブ含めてハンチョウの四勝。AIは全ての予想を的中させ、サイトウは生配信を成功させ、割れた盾岩から少量の金属が採取され、金を払った。
全敗したラルズだったが、初めて操縦席に座り、短時間で熟成する機体を見、読みや想定の駆け引きを体感し、パイロットとしての可能性を見せた。
枯れた宙域で取れた鉱石。
無から新たな戦術を生み出す発想。
共に希少ではあるが、一方はとうに価値が定まり、一方は無限の可能性を秘めていた。
読んで頂きありがとうございます。
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