バトルファイル 005-2 VS新フレーム
c556宙域。外縁からはまあまあ深く入った辺り。
サトウ
「おいおいラルズ!随分と慎重じゃあねえか。そんなペースじゃハンチョウのケツが見えなくなっちまうぜ!」
枯れた宙域と言われて久しく、今では足を踏み入れられる事のなくなった宙域。
大小の浮岩が太陽風の度に衝突を繰り返す滞在困難宙域で、常に衝突アラートが鳴る状態。それぞれ異なった残光を引きながらも、同じ方向を目指して機動する二つの光点はそのペースを徐々に上げていた。
ラルズ
「す……ごいな魔法使い。上書きが入る度、角が取れて滑らかに、最適化されてくのが分かる」
想定した軌道にするのに四度発光していたポスチェが三度になったかと思うと、次のクランク軌道では、もうカウンター一発でビタリと入る。
噴射型のスラスターとの同期も滑らかになり、体感ドッカンだった軌道変更からの加速がニュルンになった。
戦闘AIによると、離脱速度もプロペラント効率もニュルンが優位だ。
ハンチョウ
「ラルズちゃん!切らない限り浮岩への衝突は戦闘AIが回避してくれるから、もう少し遠くを見るのよ」
全天モニターになったコクピット。今までナビシートにいたラルズは、初めて実機の前席に座った。
ラルズ
「こんなに違うのか」
ラルズは二重三重の戸惑いの中に居た。
実機での操縦席、シュミレーターがチュートリアルにすらならない新フレームの進化、そして模擬戦中にどんどんブラッシュアップされて行く戦闘AI。
サトウ
「ラルズはだーいぶ離されたぞ。ここからの逆転はほぼ不可能だ!次の模擬戦に備えて少しでも操縦に慣れたい所だ!」
通信
「んー。もうちょっとやるかと思ったけどな」
「期待感はあったけど……」
ラルズ
「さっきは自動回避に振り回されてロックどころじゃなかったけど、遠くを見て、ルートを想定して、ターゲットにいい角度から回り込む」
操縦席。
ラルズは左手のポスチェグリップを繊細に動かしながら、右手に握ったガングリップでスクリーンに映し出される疑似ターゲットを狙う。
椅子に座ったまま銃を構え、直感的にロックオンしてトリガーを引く。ガングリップを前に突き出しても標的との距離は全く変わらないが、慣れるまではシートから背中が離れる程前のめりになるのは仕方ない。
偏差を取らなくていいビームは、ターゲットとの方向・速度の相対を合わせる程連続照射が楽になる。
偏差の必要な実弾をあんなに簡単に浴びせて、塗膜が割れた瞬間に無偏差でビームを打ち込むプリーニオやエースの凄さを改めて実感する。
サトウ
「ゴ――――ル!ハンチョウに遅れること34秒!まあ初めてならこんなもんかぁ!オマエら!お楽しみの模擬戦はこの後スグだぜ!」
「チューブ終了。二人共改善要望お願いしますー」
すん。とテンションを落として、サポート業務に戻るサトウ。ここまで見事なテンションコントロールを見せられると、人格が入れ替わってるんじゃ疑惑が湧くのも納得である。
小さな修正点を的確に伝えるハンチョウに対して、ラルズは自分の軌道ログと操作ログとを突き合わせていた。
ラルズ
「障害物へのアプローチはクリップポイントが浅いから、抜けた後で慌てるのか……奥にするって事はそこはもう次のエントリーの……」
ハンチョウ
「……ちゃん。……ルズちゃんー!ラルズちゃんって!」
ラルズ
「え?はい!どうしました!?」
ハンチョウ
「改善要望がないなら模擬戦始めるわよ」
ラルズ
「あ、はい!」
ハンチョウは更新されるアップデートシークを見ながら、ヘルメットの上から顎辺りをさする。
ハンチョウ
『呼びかけが聞こえないって、随分と集中してたわね。このままじゃ終わらないって、期待していいのかしら?』
サトウ
「ではお互い指定の座標に着いたらスタートですー。右腕ビーム、左腕実弾の設定でスクリーンには疑似弾と演算ダメージが表示されますー。キルサインが出たら、一旦改善タイムでお願いします」
サトウ
「いるか!?オマエら!三本勝負始まるぜ!戦闘AI予測は現在84対16と圧倒的いいいい!」
通信
「一泡吹かせてやれドリル!」
「整備が神だから倉庫に居るが、並のパイロットじゃハンチョウにゃ勝てねえって」
予定宙域に到着と同時に始まるカウントダウン。
ラルズは唾を飲み込んでカウントを見守った。
そして……。
サトウ
「のおおおおおおおおお!キルサインが灯ってしまったあ!二戦目は回避で粘りはしたが、優勢位置を取れず!ラルズこれで二敗!」
「改善要望お願いします」
ハンチョウ
「重心軸が通ってるおかげか、アタシはメインブースターはもっとドバっと吹いて欲しいわね。背中と脚のスラスターは今のでいいわ。それと……ラルズちゃん、機体の設定やAI学習目的の模擬戦なんだから、もう少し楽にしていいのよ」
初めてにしては悪くない。
ラルズのここまでの操縦はそのレベルである。
強いシェイク耐性を活かして今後エースのナビに座れるか、二分隊編成になった時操縦席に座るか。いずれにしても焦らずしっかり訓練してゆけば良い。まだまだこれからの人材であった。
ラルズ
「一戦目はどこから撃たれてるか分からないままキルサイン。二戦目もずっと後ろ取られっぱなしか……先に発見出来なかった時は……」
ラルズは少ない実践経験を思い起こす。重心や遠心力以前にプリーニオさんの操縦はこんなマイルドじゃなかった筈だ。
常にガキガキのバッキバキに動いて、相手の「なにいいい!」って声が聞こえてきそうな程ビームが逸れまくっていた筈だ。思い出せプリーニオさんは何かかっこつけて言ってなかったか……。
「相手からどう見えてるか。相手がどう対応するか。それをどう逆手に取るか。命がけの読み合いはヒリつくなぁ」
イメージ内のプリーニオがドヤ顔で上から見下ろしてくる。長い下まつ毛のイケオジ面がムカつく。背は低いくせに。ロボの手がなくなった位で泣くくせに。
泣きっ面のプリーニオを思い出して、思わずクスリと笑ったラルズ。
ようやく緊張が解けてきたようであった。
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