バトルファイル004 VSスラスター
護衛船ヒュウガ。格納庫。
ラルズ
「整備手伝います!……ってあれ?メーカーメンテとかですか?」
女整備士
「違う。チェンジなの」
ラルズ
「え?新型?サイクルめちゃめちゃ早い。てかこんなに広かったんですね」
ツナギ姿で格納庫に降りてきたラルズだったが、ガランとして淋しい格納庫に面食らっている。普段物が溢れている場所ほど、何も無いだけで異様に空間が広く感じるものだ。
ハンチョウ
「で?あんたはチェンジ?ステイ?」
端末から視線を上げてラルズを見るハンチョウ。その目は興味より優しさが滲んでいた。
ハンチョウの言うチェンジステイとは、ラルズ採用時のトラブルとその後の身の振りの話である。
航海士として採用されたラルズだったが、出港直後にトラブルに見舞われ航海士の席に付けない事に。
ナビゲーターの適正を見出されたが、人型機動兵器の後部座席でナビをするか、約束が違うと船を降りるかは、二週間のオシゴトを終えて帰港した時に決める事になっていた。
そして帰港したのが二時間前。
ラルズ
「契約書にサインして来ました。改めて宜しくお願いします」
ラルズの選択はステイ。ナビの給与が存外高額だったのもあるが、たった二週間であるがこの船を、ここの人たちを気に入ったのである。
ナビゲーターとして正式に契約したラルズは、後付けだがパイロットの資格を取る為に勉強する事になる。
格納庫の警告灯が回転する。
ハッチ開放を示す白の回転灯。バキュームサインにならないと言うことは、船外にも空気があるという事。搬入である。
5メートル四方の荷物が6つ、牽引車に引かれて搬入される。
女整備士
「フレームタイプKEN4機、ほか予備パーツ。来ちゃあ!」
引き渡し確認が終わるやいなや、整備士他のクルーが新着の荷物へと群がり、梱包材がみるみる剥ぎ取られてゆく。
幾つになっても新しい玩具は、テンションをビンビンに刺激するものだ。
女整備士
「先週上げた改良案が、すぐ形になって配備される。この速度感はここでしか味わえないのです」
喜びにふるふると打ち震える女整備士。を視界の端に収めてラルズは「そうなんですか?」とハンチョウに聞く。
ハンチョウ
「サインしたならもう問題ないわね。人型機動兵器を戦力として採用してる護衛会社は今のところウチだけよ。先駆者と呼ばれるかロマン馬鹿と呼ばれるかはこれから次第だけど、とにかく運用データがないのよ。だから問題も改良点もバンバン出てくるわけ」
「物凄い速さで積み上がるデータを最速で活かす為に、ウチの会社は宇宙機を独自開発出来る規模の工場を買収したの。だからウチの整備士はエンジニアでアーティストなのよ」
ハンチョウのギリシャ彫刻のような横顔を見ながら、ラルズはなるほどとだけ応える。
最後の梱包材が取り除かれ、新人型機動兵器はその姿を現した。
全員
「おおおおお!!」
ラルズ
「ああ!キャビンが無くて尖ってる!手が無い!印象全然違いますね!」
KEN型フレームの改良点は、いずれ対塗膜用として実弾兵器が増える事を見越しての、実弾耐性の低いキャビン廃止。
操縦席全周モニターによる補正表示全面見直し。
手を廃止した事で考案された新たな換装システム。
蓄積されたデータを元に再配置効率化された、重心変更及び、改良スラスターだった。
キャビンが胴装甲になり、背部には武器ラックが設けられたKEN型は、前HAKU型と比べると一気に兵器に寄った感がある。
ラルズ
「あのキャビン。あれはあれでブサ格好良かったんですがねぇ」
ハンチョウ
「フン。パイロットがエースやプリーニオだからそんな事言ってられるけど、並のパイロットならビーム二発で700度よ。パイロットスーツの中で自分の肉が蒸し上がる臭いを嗅ぐ事になるわ。35ミリ弾は角度次第じゃ一発で刺さるわよ」
ラルズ
「うへぇ」
ツナギの整備士が新型によじ登る。
機体中心。人型の腰にあるブロックが前方に伸長し、上方の乗り込み口があらわになると、整備士が乗り込む。今回の操縦席は腰だ。
キャビン付きの前型は腰の水平回転軸の上、胸の位置に操縦席があったのだが、今回のフレームは腰、機体重心により近い位置に操縦席が移動されている。
ラルズ
「重心近くに操縦席があると、機動時の遠心力は軽減できそうですね。ただでさえ六方向からきっついGが掛かるのに、さらに遠心力で振り回されてましたからね」
ハンチョウ
「自分で操縦してないのに、それに耐えられるあんたも凄いのよ」
そう言ってハンチョウは苦笑いした。
女整備士
「今回の操縦席移動は、ラルズさんのそのレポートも吸い上げた設計変更。主機を中心に、それを押すブースターを真後ろに、前に操縦席を配置して、腰ブロックを脇の下まで伸長した重心重視のワタシの設計案。すぐ試作来るとかヤバイのです」
インカム
「ハンガー固定します。ポスチェスラスターチェック開始。イエローゾーン外側に移動してください」
整備用ハンガーに後ろから腰を固定されて足が床から離れる人型。周囲に居た整備士やクルーは梱包材を抱えて黄色い円の外側に退避した。
パシュン!パシュン!
ラの音にも似た空気が炸裂するような音を立てて、皿状の黄色いレフ板が発光。大きな力で殴られたように揺れる機体が、強い反発力を表している。
ラルズ
「前に聞いた時はぐらかされましたけど、アレ……燃焼系のスラスターじゃないですよね?」
バックパックに装着、頭上方向に噴射しする降下スラスター。膝上に装着され前下方向と後下方向に噴射するスラスター。太モモ裏に装着、ロールすることで前後方向と横方向へと噴射方向を変えられるスラスター。これらはおわん型の噴射口を持っている。すなわち燃焼系スラスターである。
だが今、炸裂音と共に光を発しているレフ板は、パラボラ型。同じ原理で推力を得ているようにはちょっと見えなかった。
ラルズ
「燃焼系の曲線的モーメントと違って、ガツンと1メートル位ずらされる感覚も……」
テスト稼働中の機体をモニターする端末からチラリと目を移して、ハンチョウは「ほほう」と微笑んだ。
ハンチョウ
「鋭いわね。あれはビームミスファイアリングスラスター。ビームを収束させる直前で暴発させて、その爆発を効率よくレフ板でキャッチして反発力を得てるの。この技術のお陰でウチの人型機動兵器は姿勢制御で消費するプロペラントと噴射装置をカット出来たの。この軽量化は、宇宙機平均を推力重量比で40%上回り高機動とペイロード増加と稼働時間延長に繋がったわ」
ラルズ
「暴発を制御ですか?!全く聞いたこと無い技術ですけど」
ハンチョウ
「マイボスが開発した技術よ。技術開示したくないから特許申請はしてないって。ウチの機動兵器運用システムの鍵になる技術だから、A級守秘案件ね。お漏らししたら……」
ハンチョウは、口をいの形に開いて舌を鳴らしながら、首に当てた親指を横に引いて見せる。
反動を相殺するように、対になるスラスターを同時に作動させているのだが、それでも機体は震え、ハンガーは軋音を漏らしていた。両肩から始まったテストは足まで行って今度は順に戻っている。
インカム
「ポスチェスラスターチェック終了。ハンチョウ……単純スラストパワーが7%も上がってます。これ姿勢制御プログラム新規ラーニングクラスじゃないですか?」
ハンチョウ
「そうね。いそいでもう一機チェックして頂戴」
ラルズ
「新規ラーニングってAIに一から教え直すってことですよね?」
ハンチョウ
「7%アップはもう別物だし重量バランスも相当変わったからね。ヨチヨチ歩き程度にはしておかないと……あそこ……か……」
形の良い顎を指で摘んで答えるハンチョウだったが、後半は独り言のように声が萎む。
10秒後。
ハンチョウ
「ラルズちゃん!あたしと模擬戦しましょう!」
整備士とナビゲーターが新人型機動兵器を駆って模擬戦。経過も結果も、予測できる者は只の一人も居なかった。
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