バトルファイル 001-3 VS人型
浮岩群外縁からそれ程深くない位置。直径1キロ程の浮岩に六本のアンカーで固定された海賊船の母艦があった。
マッコウ型に分類される船首が四角く格納庫の大きな中型宇宙船。質実剛健な構造で改造も比較的楽な船である。
武装として各面に一から二門のビーム砲を増設されているが、主に対船用で宇宙機などの機動兵器を相手取る武装は無い。
レーダーに探知されにくいように主機を停止されて浮岩群に潜んでいた海賊母艦。
新しいボスは今から主機を起動しても確実に追いつかれると判断し、母船を占拠されない方を選んだ。
帽子の男
「追撃とか頭湧いてんのか!」
実際どれだけの戦力を持っているか分からない海賊相手に、護衛対象から離れて追撃をするなど過去に例が無い。
そして船を占拠するという事が、どれだけの血が流れるか海賊達は知っている。外から銃を突きつけるだけでは管制・主機・武器庫の全てに白旗を上げさせる事はできず、少人数の荒事に慣れない人員で船内に乗り込み占拠するなど不可能だった。
籠城で時間を稼げれば仲間の海賊が来ることもあるだろう。大きな借りを作る事にはなるだろうが。
帽子の男
「ぐ……まだ、まだあああ」
帽子の男の予想以上に、対宙迎撃はあっさり終了した。望まぬ形で。
情報統合がされた軍艦でも無い限り、対宙迎撃は目標情報の受け渡しと、各銃座の連携が重要となる。
対宙用の連射に優れた武装を装備していたとしても、死角から飛来し一瞬で死角へと消える目標を撃ち落とすのは十分に訓練された兵士でも至難である。しかも目標の背中が見える頃には、こっちも火だるまである。
艦橋のモニターには、銃を突きつけるロケットワーカーが映し出されている。
ロケットワーカーの胴体部。ガラスに覆われたキャビンの中。軍用レベルのパイロットスーツに身を包み、見た事のないデザインの複座式操縦席に収まる二人のパイロット。
前席のパイロットが、右手に持ったガングリップをモニター越しに向けている。
キャビンである。農耕作業機械のキャビンと大差ない作業機のキャビンである。軍用と言われても納得しそうな最新機器が、トラクターのキャビンに収まっている。このチグハグ感は銃を突きつけられる身としては、どうしてもおちょくられてる気がしてならない。
通信
「こじ開けて入ってくるぞ!迎撃!撃て撃て!」
気密決壊の吸い出し現象での混乱を防ぐために、あらかじめバキュームされた格納庫内。
人工重力による極小重力下、遮蔽物の影に陣取り機関銃を固定、施設内用宇宙服に身を包んだ海賊達。
真空射撃可能な無薬莢の機関銃が、銃口から毎秒10発の実体弾を飛ばす。
外側からこじ開けられようと空いた隙間。そこに集中する銃弾。海賊達はひたすらに撃ちまくった。どうだ降りて来られないだろうと。
自分達がする制艦戦は連絡艇やカーゴを使って強行突入し、人海戦術で数で押し込む戦術を取る。それが海賊流制艦戦の基本だった。そうやって今まで成功してきたし、それ意外の方法など考える必要も無かった。これまでは。
海賊
「うそだろ?!」
海賊
「ワーカーのケツにロケットがぶっ刺さってやがる……」
格納庫に侵入した人型は、後部座席が空席の二人乗り。擬似重力の発生した床にしっかりと足を付き、二歩三歩と踏み出す。
キャビンを襲う銃弾が一番外側の塗膜にヒビを入れるのを一顧だにせず、上半身を振って左腕の銃を構えた。
海賊の隠れる遮蔽物のわずかに左、背後の壁を狙った射撃。振動が一発二発と格納庫の床を震わせる。
遮蔽物の陰はピンクの嵐が吹き荒れた。
人体が爆弾で四散する状態をピンクの霧というが、それとも違う。遮蔽物の左側から吹いてきた何かに宇宙服は裂け、ヘルメットは削れ、小火器は半壊した。
ピンクの嵐は、別の遮蔽物に隠れる海賊達を柱の陰から押し出す。よろめき床に手を付く海賊達は左半身をべっとり血糊で染めている。
射撃は繰り返され、わずか5発の射撃で倉庫で迎撃していた海賊は無力化した。
侵入者は安全なキャビンから出ること無く、海賊達は遮蔽物の陰から押し出され、何故か、ピンクの霧になって吹き飛ばされる。
艦橋から迎撃戦をモニターしていた海賊は目を覆った。嘔吐する者こそいなかったが、口元や胃の辺りを抑える者も多い。
帽子の男
「何が起こってるんだ……?機体から降りずに戦えるワーカーが優位なのは分かるが、あの武器は……」
一方向に爆散するようにピンクの霧になる人と、血肉のスプレーに押し出される海賊達。
帽子の男
「マスターキーか!」
マスターキーとは、ショットガンを使ったドア破りで蝶板や錠前だけを破壊する為に作られた特殊弾である。
ワックスなどの結合剤に金属粉を混ぜて固めた弾丸は、対象の蝶板や錠前を破壊したら拡散して跳弾や破散などの二次被害を出さない。どんなドアでもこじ開ける破壊的な鍵、それがマスターキーである。
では35ミリでマスターキーを使ったらどうなるか。
遮蔽物後方の壁に向けて撃たれたマスターキーは、壁に当たって左右に飛散。
暴風となって襲いかかる砂嵐は、ヘルメットや小火器を削壊させ薄い宇宙服を一瞬で切り裂き、その下の血の入った風船を容易く破裂させる。
閉鎖された真空低重力空間で暴風は意外な長さで暴れまわり、血肉の暴風は低質量の者が遮蔽物の陰に留まる事を許さない。そして使用者は安全なキャビンから出る必要がない。
帽子の男
「あ、悪魔かよ……俺らでもこんな事思いつかねえぜ……。」
絶望に目が眩む帽子の男。その時艦橋に内線が入る。
内線
「聞こえているな。格納庫は全滅だ。お前たちに残された選択は主機を爆破して道連れを狙うか、脱出艇にすし詰めになって逃亡するかだ。海賊に人権は無い。よって我々はお前達を連行しない」
帽子の男は内線スピーカー横の壁に拳を打ち付け、項垂れた拍子に帽子が床に落ちた。
内線
「なお、この船は機能を完全に停止した状態で曳航し、最低でも一ヶ月放置してから解体を始める。つまり密航しても空気も水も完全に尽きてミイラ確定って事だ。30秒待つ。救命船への避難命令を出す事を期待する」
帽子の男は、この海賊団のボスの名において、時間内に救命船への乗り込みを命令し、時間と労力を浪費すること無くこの船を後にした。
艦橋に睨みを効かせていた人型のパイロットは、正常な判断に対して水タンクを一つ褒美として救命艇に外付けした。ダクトテープで。
取り込み方法に頭を捻っている間は、極端な選択はしないだろう。
倉庫外壁の仮溶接、アンカー解除と曳航、と宇宙機なら人力の船外活動になる作業を、短時間で終わらせたのは、流石元ワーカーである。
こうして人型機動兵器は、宙間戦闘で、宇宙機を限定的に上回り、低重力狭空間という特殊条件が重なる制艦戦で、圧倒的優位を証明したのだった。
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