バトルファイル 013-3 VSアップグレード
ハンチョウ
「だめだ!整備班のトップとして判断する!ラルズ機はダメージを受けた装甲を交換してから出撃だ!」
周囲に敵影ナシの報告を受けて、ハンチョウ機、ラルズ機は同時に帰投した。
OSに繋ぐケーブルを持った整備兵とすれ違い、ラルズ機へと向かうハンチョウ。ラルズもコクピットからでるなり、機載工具を手にしてダメージを受けた装甲板の取り外しを手伝う。
今まで楽勝が多かったヒュウガ整備班はかつてない緊張感の中にいたが、悪い状況を想定しての訓練は重ねてきた。整備班の動きに迷いや混乱は無い。
装甲交換が進み作業量が減り、機動兵器を見上げて両手を下げたラルズの手に、ゼリー飲料が渡される。
女整備士
「シェイク耐性お化けのラルズさんならイケルはずなの。スタミナ勝負の可能性あるの」
ラルズは受け取ったゼリー飲料を握りしめてコクピットに移動。ハッチを閉じて気密確認後、ヘルメットのバイザーを上げてゼリー飲料を胃に流し込むのだった。
疑似ツーマンセルのラルズ機ハンチョウ機は、操縦スタイルからラルズ機が前で飛行している。戦闘中域はヒュウガから遠く離れ通信以上のサポートはない。
海賊の宇宙機が残っている状態で、ヒュウガが艦載機を全て攻撃に回すのは、通常手順ではない。「手順を捻じ曲げる重大な判断がされた」ということである。
磁気ノイズが減少し、ラルズ機に次いでハンチョウ機に通信が入ってくる。
プリーニオ
「エース!応答しろ!メロディの邪魔とか思ってんじゃねえだろうな!通信入れろよ!」
3対1でドックファイトしながらプリーニオ機は悲痛な通信を繰り返していた。
ラルズ
「プリーニオさん!!」
ハンチョウ
「状況説明を!」
パネルにデータリンクが構築され、戦闘AIラーニングが70%に届く所まで進捗と表示される。
プリーニオ
「海賊の母艦は中型大型共に離脱、ここ以外での戦闘反応なし!コイツらは時間とデータを稼ぐ為に残って戦ってる。エースの野郎は……応答しやがれねえ!」
ラルズ
「エースさん……が……」
ハンチョウ
「……そ、そんな」
プリーニオ
「状況を確定させるぞ!こいつらぶっ殺してエースの野郎を探すぞ!」
ラルズ
「はい!」
ラルズ機とハンチョウ機はツマミを回して、ビーム出力を最大に設定。
冷却システムを展開させる。
機体後方に伸びる円筒が中割れして、ロケットエンジンよりも長く後方に伸張、一本の細い柱が円柱の前後を繋ぎ、極細ネットが伸張した中央部を覆う。
慣性直進のままのラルズ機ハンチョウ機。2機の右腕武装である高出力ビーム砲から、艦砲かと思われる程の高出力ビームが3本ずつ計6本連射される。
宇宙機サイズではありえない出力、ありえない連射、ありえない命中精度で、6本のビームは3機の海賊宇宙機を熱貫通、爆散させた。
プリーニオ
「ラルズ!索敵と捜索!ハンチョウはヒュウガに戻って時間をもぎ取ってくれ!」
ハンチョウ
「海賊が戻ってくる可能性もあるわ。活動時間に余裕もって補給に戻るのよ!」
ラルズは海賊宇宙機の残骸から海賊の通信ログを取ろうと考えたが、損傷が激しく無理だった。そうなると戦闘中に被弾して流されたのか、母艦を追ったのか……まずは被弾して操縦不能で命の危機がある状態を想定しての捜索か。
ラルズは自分を落ち着けるように状況を咀嚼した。
プリーニオ
「エース、応答しろ。エース!」
繰り返すプリーニオ。機体制御は荒々しく、焦燥感を滲ませるものだった。
プリーニオ
「エース、応答しろ。エース!」
暗く冷たい宇宙空間にプリーニオの言葉が流れ続けた。
護衛船ヒュウガ格納庫。
ブリッジクルー
「プリーニオ。少しでいいから休息をとって。あなたが壊れてしまうわ」
プリーニオ
「あと25時間。そしたらたっぷり寝るよ。その前にエースの野郎を見つけるけどな」
人型機動兵器のコクピットに上半身を押し込んでプリーニオを説得するブリッジクルーと、応じないプリーニオ。
整備班が説得しても医療班が脅しても説得に応じないプリーニオ。整備班はカンケイがあるブリッジクルーに助けを求めた。
本来もっともプリーニオ説得に効果を発揮するはずのハンチョウが、プリーニオ同様に不眠不休で捜索ピストンをしているため、整備班も医療班も困り果てていた。
法務部ウルナンは契約書と救命憲章を盾に、72時間の捜索を護衛対象からもぎ取った。
護衛対象は遅延が確定するし海賊が戻ってくるかもだしと、なんとか運送再開を訴えたが、ウルナンは違約金を払ってでも捜索すると譲らず、どうしてもと言うなら単独航海でお行きなさいと交渉をつっぱねた。
救命におけるゴールデンタイムとされる72時間。
時代が変わり場所が宇宙に移っても、その思想は受け継がれ、宇宙機の生命維持機構や非常時備品は72時間の生存を担保するよう設計されている。
エースはきっと生きている。
72時間はその希望を抱いてよいタイムリミットでもある。
捜索は72時間で打ち切られ、エースは行方不明であるMIAから戦死認定であるKIAへとステータスが変更され、宇宙空間戦闘においては、遺体捜索されることもない。
沈まない太陽に守護されているのか。とも思えていたかつての護衛船ヒュウガ。
船内の陽は陰り、捜索猶予時間のタイマーは希望を削っていく。
気休めすら口にする事ができない空気が、ヒュウガを押しつぶそうとしていた。
ラルズ
「この補給でリミットまで戻らないので、パンパンにお願いします」
サイトウ
「お前もちゃんと補給しろ。諦めた訳じゃないが、プリーニオさんがタイムリミットでダウンしたら、ヒュウガを守るのはお前なんだからな」
エース亡き世界。
それをリアルに想像し、ラルズは貧血に似た感覚を覚えた。軽いパニックを起こしたかも知れない。
想像する事すら拒んでいた世界が、あと数時間で訪れてしまう。
吐き気をもよおして、バイザー越しに口を抑える。
サイトウ
「頼んだぞドリル。この絶望に穴を開けてくれ!」
読んで頂きありがとうございます。
いいね・ブックマーク、励みになります。
お仕事連絡はこちらでも Xアカウント @kuba_syosetu




