↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バトルファイル  作者: クバ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/22

バトルファイル 009 VS契約


ラルズ

「え?突然休暇ですか?」


護衛艦ヒュウガの倉庫で整備を手伝っていたラルズは、手を止めて顔を上げた。


女性整備員

「今連絡来たの。こんなの珍しいの。……いくの」

ラルズ

「どこへ?」





一時間前。


法務部ウルナン

「……キャンセルですか」

男

「いえいえそんな聞こえの悪い。契約上のオプションを行使した。と考えて頂ければ」


ホテルの商談用個室。

落ち着いた調度品と、事務的なスチール棚が不思議な調和を保つ部屋。

ここで向き合うのは二人の人物だった。


一人は没個性をテーマにしたかの装いで、姿勢よく椅子に座る男。対海賊護衛会社キリサメ法務部ホープのウルナン。

もう一人は、丁寧な口調とは裏腹に背もたれにふんぞり返り、高く足を組み、ずーっと顎髭をニジニジする男。バイソン。このコロニーまでヒュウガが護衛してきた輸送船ラダンのオーナーである。


ウルナン

「帰りの護衛をキャンセルですか」

バイソン

「ですからオプションを行使して、片道護衛で契約を満了する。ということです」


ウルナンは冷えた目でバイソンを見つめ、バイソンはしてやったり顔でウルナンを見下ろしている。


運送業は基本行って来る。往復が基本だ。行きの荷を運び、戻りの荷を運ぶ。往復とも荷台を満たし、利益ある往復をするのが良い運送業経営だ。


護衛もそれを前提に、往復護衛して母港に戻り、メンテナンスして次の仕事に掛かる。

なのに眼前の横柄な男は、片道で護衛をキャンセルするという。

運送業と違って帰りの荷を探すなど困難だ。そもそも対海賊護衛業自体がニッチで、殆どの船は協会の保険で会社を守っている。帰りだけ護衛を頼むクライアントなど皆無だろう。


バイソンの主張する法的根拠はオプション条項にある「海賊の襲撃によって航行不能あるいは困難な事態に陥った場合、相互協議の上航路の半分で契約を満了する事もある。」の部分を悪用解釈してものだった。


本来は護衛対象の船が破損などで航行不能・長期ドック入りを想定したオプションだったが、バイソンは虚偽の航行不能を申請し、キリサメ側が同意するまで出航しないと交渉してきたのだ。


「クルー数名が海賊襲撃のショックで心的障害と診断されまして、替えのクルーを募集しているのですが、こんなフロンティアではなかなか……」


もちろん嘘である。

調査結果は既にウルナンの手の中にある。

偽の診断書は準備しているが、偽募集の代行オフィスは自動メッセージを乗り継ぐだけで一向に人事にはたどり着かない。帰りの荷が軽量で相当の速度を出せる事から護衛不要と踏んで、最初から片道護衛復路をキャンセルするつもりだったようだ。

クルーの数も給料も桁違いのヒュウガは、こんな根比べには付き合えない。法的に不利なら損切りは早いほうが良い。


ウルナンはペンを取った。


バイソン

「キリサメの法務部は優秀だと聞いてましたが、ま、まだお若いですね。よい勉強になったでしょう?」


オプション適用の契約満了にサインするウルナンを、ニヤニヤと見下ろしてバイソンは髭をニジニジする。


ウルナン

「そうですね。大変勉強になりました。そちら様も勉強を今後に活かせると良いですね。ではご契約ありがとうございました」


そう言ってウルナンは後ろ向きに部屋を退出し、部屋の中から聞こえる高笑いを背にホテルを後にした。





時間は戻って急遽休みになったラルズ。


ブリッジクルーや整備士、パイロットからコックまで、ヒュウガ搭乗員の大半が宇宙港桟橋に集まっていた。


ラルズ

「総出で宇宙港に来てなにするの?護衛対象でも探すの?」

女整備士

「あっちを背景に自撮りして」

ブリッジクルー

「このテキストとこのデータを添付して……ポストっと」


まるで観光地に来たかのようにヒュウガ搭乗員の皆が、自撮りしてポストを始めた。

ラルズも言われたとおりに添付してポスト。してから内容を確認した。


自撮り画像は顔が別人に変換されている。背景には全員同じ船が写り、テキストは「単独航行の無事を祈る!!」そして添付データは暗号化されていない予定航路データだった。


ウルナン

「拡散率はどうですか?」

整備班員

「順調!」「上振れ中!!」「転載されてるぅ!」


ラルズ

「あの、これはどういう?」

ウルナン

「あの宇宙港から出ていく船が護衛対象だったのは知っていますね?」

ラルズ

「はい。復路キャンセル食らったって」

ウルナン

「ええ。復路は速度が出るから大丈夫だと思ってるんですね。最初から片道だけ護衛させるつもりだったようです。護衛費を半分ケチって利益率を上げた気になってるんです」

ラルズ

「汚いですね!」

ウルナン

「なので私たちは護衛の無い船の、航海の安全を広く広く願っているのです。海賊にまで聞こえるように」


護衛対象だった輸送船ラダンのブリッジ。

ヒュウガの整備班と気付いて、見下した笑いで手を振っていたブリッジクルー達。


一人のクルーの個人端末にDMが届く。

とあるポストを引用し「これアンタの船じゃない???」とのメッセージ。


DMを受けたクルーが端末を見て驚き、皆に共有している。急に慌ただしさを増したブリッジで、バイソンは顔面蒼白になっている。

他の船との調整膨大になる為、出港後の航路変更には莫大な金が掛かる。それでも金で済めば勉強代といえるだろう。


ラルズ

「航路さらしちゃって問題ないんですか?」

ウルナン

「契約を完了した航路データは守秘義務適用外ですからねぇ。おーげーんきでーー!」

楽しそうに手を振って輸送船ラダンを見送るウルナン。


ヒュウガに帰ったらもう一度、契約書を見直そうと心に誓うラルズだった。


読んで頂きありがとうございます。

いいね・ブックマーク、励みになります。

お仕事連絡はこちらでも Xアカウント @kuba_syosetu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。