バトルファイル 008 VS復讐者
古いが小綺麗な宇宙船艦橋。
シミュレーターの様子を覗き見する帽子の男。
モニター内のワーカーは、左右の四肢もバラバラのポンコツ、モタモタと動き、踏ん張り過ぎて固定ワイヤーを引きちぎり、無重力の倉庫で手足をバタバタさせている。
帽子の男
「もうちっとマシなヤツはいねーのか」
羽飾りの付いた黒い三角帽子を被った男が、艦橋指揮座で脚を組み不機嫌そうに漏らす。
艦橋クルーA
「宇宙機乗りならそこそこ居るんですが、ワーカー乗りなんていませんよ」
艦橋クルーB
「そうですよボス。あんな泥臭えヤツ。俺たちゃ血と酒の海を征く海賊よお!」
他クルー
「おおお!」
帽子の男
「馬鹿野郎!こないだその泥臭えワーカーに宙間戦闘でも制艦戦でもこっぴどくヤラれたのを忘れたか!」
その言葉にそろって首を縮めるクルー達。
この羽根付き三角帽の男はローガン。数週間前ロケットワーカーに護衛された輸送船を襲撃、先代棟梁と多くの仲間そして母船を失いながらも生きながらえ、新棟梁の地位とその資産を引き継いだ、転んでもタダでは起きない男である。
救命艇で命を繋いだ仲間の結束は強く、生還後誰一人抜ける事なく海賊団は再興を果たしている。
アジトにたどり着いた一味は、溜め込んだ財を放出して中古の宇宙船と型落ちの宇宙機をなんとか揃えた。
だがこれでは海賊の列に復帰しただけ。いや腕の良いパイロットを失った分、列から後退している。
転んでもタダでは起きない男ローガンは、ワーカーの制艦戦での優位を認め、自分たちがヤラれた方法を取り入れてのし上がろうと企んでいた。
見栄なのか前向きなのか、海賊は自分達がヤラれた話を本当にしない。一度もヤラれた事のない海賊団がやせ細って潰れるのもザラだ。
ワーカーによる制艦戦。いずれ広まる戦法だろうが、その時間は意外に長くその間荒稼ぎできるとローガンは考えていた。
海賊は稼ぎが良い。それは生業が命がけだからだ。その中で最も命を落としやすいのが制艦戦。
人海戦術で押し込む海賊流の制艦戦は、頭数が必要だし怪我人も多数出る。怪我人を放逐する海賊団は評判が下がって人が集まらない。頭数が多いと分前が減る。
その辺の非効率さを一掃するワーカーによる制艦戦。
ローガン
「考えたヤツは天才……」
言いかけてローガンはブルッと身を震わす。大口径マスターキーで人をミンチにする対人戦闘を思い出す。
ローガン
「……いや、やっぱ悪魔だな」
荒稼ぎ計画に必須なワーカーだが、海賊界隈ではどうしても手に入らなかった。災害救助用に少数生産され公社でのみ長期運用されるのがワーカー。宇宙用はコロニー公社の独自カスタムだ。
ローガンは異常とも思える執念でコネを付けたが、ワーカーと引き換えに、護衛会社が海賊の母船を逆襲して鹵獲している情報を売ったのだった。
そしてようやく手に入れたワーカー。
1機は廃棄品ながらコロニー公社仕様、もう1機は元は災害汎用っぽいが、各種部位が交換修理されまくっており、何に使っていたのか想像出来ない。
艦橋クルー
「ボス、宇宙ワーカーの準備出来やした。コイツは宇宙機乗りですんでイケると思いますぜ」
あの時のロケットワーカーを参考に、重心のある腰にメインスラスターユニットを着けてのテスト機。
まずはコレから始めて、宇宙機と渡り合う設定を見つける。
ローガン
「オーダーファイルは見えてるな。まずは宇宙機の免許取る時にもやったルートチューブだ」
テストパイロット
「ああ、分かる。ボス、もう一回確認さしてくれ。まじでコレでやるのか?」
ローガン
「まじだ。……壊すなよ」
テストパイロット
「アイサー」
テストパイロットはキャビンの中、迷いを払うように頭を振り、表情を改めてテスト開始を宣言した。
数十分後。
ローガン
「なんでだ……」
テストパイロット
「どうですかボス!。今のは悪く無かったんじゃないですか!」
ローガン
「なんでジジイの車庫入れみたいなんだ……」
テストパイロット
「自己ベストですよ今の!」
ローガンはモニターしていたクルーを睨みつける。
ローガン
「おい。宇宙機でのタイムは」
クルー
「3分45秒です」
ローガン
「ロケットワーカーのタイムは」
クルー
「15分50秒……です。ボス、補給しないと次のトライは無理ですぜ」
ローガン
「こんなノロクサやっててどうやって宇宙機と戦うんだよ!お前が戦うのは宇宙機のタイムで、昨日までの自分じゃねえんだよ!」
指揮座のアームレストをバンバン叩きながらローガンは怒鳴ったが、何故こんなに違うのか意味が分からない。
アイツラは2機のロケットワーカーで4機の宇宙機を撃墜して、そのまま母船に制艦戦を仕掛けてきた。なにもかもが違いすぎて同じ世界で起こっている事とは思えない。
パサッ。
ガックリと項垂れた頭から、羽根付き三角帽が落ちる。
ふうーーっと長い息を吐いて、床に落ちた三角帽を拾うローガン。
ローガン
「ロケットワーカーを収容。低重力下のOS追加で入れとけ」
テストパイロット
「俺はこのままパイロット兼オペレーターですか」
ローガン
「ああ、頼む。無重力と低重力両方でワーカーを使えるようにしといてくれ」
テストパイロット
「アイサー」
ロケットワーカーをモニターしていたクルーが、何か言いたげにローガンを見ている。
なんだ?と促され口を開くクルー。
クルー
「いいんですかボス?」
ローガン
「良くはないが、何が悪いのか精査出来ない程の差だ。一旦ロケットワーカーは捨て置く」
ローガンは、ワーカーを宙間戦闘に使う事を一旦諦めるとクルーに説明。
ただ、制艦戦でのワーカー優位は動かないから、そこは訓練を重ねていく方針のようだ。
ローガン
「宇宙機で宙間戦闘を制してから、ワーカーを制艦戦用に改めて出す事になる。相手に時間をやっちまうが仕方がねぇ」
クルー
「なんでこんなに違うんですかねぇ」
クルーは頭の後ろに手を組み、椅子に負担を掛けながら大きくのけぞった。
ローガンは知っている。
シームレスに運用出来なくとも、制艦戦でワーカーに大きな優位がある事を。
ローガンは知らない。
高機動軽量化の要となる技術的ブレイクスルーが必要である事を。
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