バトルファイル 006-3 VS戦闘AI
模擬戦宙域で警戒機動する2機の人型機動兵器。モニターに映し出されるモデルは、互いの位置を把握しているかのように、浮岩群を縫い、中心に引き寄せられて行く。
プリーニオ
「10時から11時、下30。そろそろ見えるぞ」
ラルズ
「了解」
プリーニオに言われる前からその方向を睨みつけていたラルズ。
空間の削り方やスラスターを使うタイミングから、その方向を意識しての操縦と理解していた。
火器管制モニターに目をやる。
左腕に35ミリ速射砲、右腕に高収束ビーム砲。背面の武器ラックには左右共に同じ武器が予備として懸架されている。
機体と武器を示すグラフィックの隅、何も無い所にテストと書かれた枠。
プリーニオ
「光った!エースの想定は後ろ下だな」
浮岩の影で吹かされたメインスラスターの光がかすかに見えた。発見先手は勝率にして20%のアドバンテージを得た事になる。
時々チラリと見えるエース機のスラスター光に対して、プリーニオ機は光が漏れないブラインドでのみスラスターを使い、確実に優位位置へと距離を詰める。
最後の姿勢制御のポスチェスラスターを光らせ、岩陰から滑り出すプリーニオ機。コクピット内のプリーニオが姿勢に影響が出ないようにゆっくりとガングリップを上げ、シンクロしたプリーニオ機の左腕がエース機の通過地点にロックを置く。
連続命中すれば標的は岩に押し付けられ、更に数秒隙を晒す事になる筈だ。
35ミリ速射砲が連続して火を吹く。宇宙空間用に作られた実弾は薬莢内の酸化剤を爆発的に燃焼させ、毎分550発の発射レート、毎秒1.4キロメートルの弾頭速度でバレルから飛び出してゆく。
薬莢は排出されずマガジン内をローテーションすることで重量バランスを大きく変える事無く次弾を押し出し、空薬莢が関節に入り込む等のトラブルも未然に防いでいる。
列をなして飛翔する実弾頭はUV劣化樹脂弾。紫外線を浴びると劣化して数分で塵になる特殊樹脂で出来た弾頭で、耐ビーム塗膜を割るにとどまらず軽装甲への物理攻撃としても十分に効果を見込める弾頭である。地球連邦設立前から各国宇宙軍で結ばれていた「デブリ協定」によってデブリとして永遠に飛び続ける弾頭は禁止されていたが、その協定締結の一助となったのがUV劣化特殊樹脂弾のオープンソース化と言われている。
地球を周回しあらぬ方向から飛来して監視衛星を破壊した徹甲弾が、実は数年前の戦闘で自軍が発砲した物だった。というのは宇宙に資産を多く所有する宇宙先進国に共通する悪夢だったのである。
プリーシオ
「3・2・」
プリーシオは小さな声でカウントダウンする。偏差を取って打ち出された実弾が、タイミングよく通過する標的に着弾するその時を。
パッ。
周囲の岩を一気に照らす程の光量が発せられ、その光は尾を引いて急速に加速した。
光の元が通過した直後、UV劣化弾は岩に着弾。岩の破片を散らした。
ラルズ
「加速して回避した!」
プリーシオ
「反応オバケめ。よーし始めるぞ!」
ファーストコンタクトを確認し、モニターしていた小型船も緊張の度合いが高まる。
ハンチョウ
「接敵!はじめるよ!」
AI用オペレーター
「マーク」
2機は互いに好位を求めて浮岩間を高速で飛び回り、標的が通るであろう数か所に偏差射撃しては移動し、射線の通る一瞬でビームの直射を試みる。
サトウ
「まじ……か……」
ラルズに魔法使いとまで言われ、ソフトウェアが未熟だったKENフレームを一動作毎に即座にアップデートし、使いやすく調整していたサイトウが、モニターされる2機の機動を見て喘ぐ。パイロットでここまで違うのか……と。
ハンチョウ
「サイトウ!エースからメロディの改善要求来てるわよ。戦闘中でもお構いなしでアプデしてやりなさい!」
サトウ
「は、はいー」
AI用オペレーター
「エース機戦闘AIラーニング熟成率65%。プリーニオ機塗膜損傷40%、被弾率更に上昇」
ピーーー。
プリーニオ機内に響くキルコール。
プリーニオ
「くうぅ。あの切り返し良くなかったなぁ。アレで随分ラーニング稼がれちまったな」
ラルズ
「そうですね。継続視認時間が伸びると一気にラーニングが進むようです。浮遊物があるんなら目切りできますけど、何も無い空間だとそんなに持ちませんね」
ヘルメットに触れて通信を切り替えるプリーニオ。
プリーニオ
「ハンチョウ。連続視認だとラーニング熟成まで何分か試したい」
ハンチョウ
「試算だせるわよ。機動予測精度が急速に上がる熟成率70%を限界点とすると……7分って所ね」
プリーニオ
「なら最新の戦闘AIなら5分掛からないって事か」
ハンチョウ
「4分半が命の分岐点になりそうね。2戦目は最新AIハイエンド設定でいくわよ」
エース
「4分も掛からんよ」
プリーニオ
「言ってろ」
小型船内がバタバタと慌ただしくなる。
サトウ
「ステージ2へ移行。メロディのハイエンド最適化まで60秒」
AI用オペレーター
「戦闘AI、OS書き換えに90秒」
シミュレートではなく書き換え。つまり対海賊護衛会社キリサメが保有する人型機動兵器に搭載されている戦闘AIは、最新軍用品か、それに準ずるスペックを持つAIという事になる。
AI用オペレーター
「書き換え完了。チェック」
「チェック」
サトウ
「準備完了」
ハンチョウが少しだけ深く、息を吸い込む。
ハンチョウ
「2戦目開始」
通常機動時、戦闘AIの性能差はそれ程大きくは出ない。機体制御はシステム化されて蓄積されたデータがある。
最高峰のAIが大きく優れる点、それはデータの無い状態からの熟成度の速さ。少ない情報から条件を選定し予想をしそれぞれに対処を準備する。これを複数同時並行して、合致しなかった枝すら伸ばしつつ応用に備える。それが最高峰戦闘AIハイエンドの強み。とされている。
サトウ
「今度はエースが先手を取りますね」
モニターに表示されるグラフィックモデルは、初動で大胆に下前に移動したエースが、上方にプリーニオ機の発光を捉えた所だった。
エース
「さて、熟成までに何度、視線を切れるかな?」
エースの動きは、前戦で好位から実弾を当てて塗膜を割ろうと試みたプリーニオとは違い、視線を遮る遮蔽物が少ない空間を間に置くような軌道だ。
継続視認時間を初手で確保し、ラーニングで優位を得る事で結果短時間で戦闘に勝利しようという作戦である。
なので初手は、発射時に発光して偏差回避される実弾ではなく……。
ピーーー。
ラルズ
「ロック!」
プリーニオ
「どこだ!?」
初手で放たれたビームは、プリーニオ機の塗膜を10%程度蒸発させたが、目的は変則軌道をラーニングさせること。
エースは浮岩の陰から動かない。プリーニオがエースを発見出来ずにもがけばもがく程、変則軌道は学習され照準補正は正確になっていく。
今回|も・楽勝か。
エース
「な……にぃ」
予想外のプリーニオ機の動向に、エースは眉間を釣り上げた。
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