バトルファイル 006-2 VS戦闘AI
ラルズとハンチョウが悪い笑みを浮かべた頃、対海賊護衛会社キリサメのメインパイロットである二人エースとプリーニオは、社の法務部の者と連れ立って連邦法務局対海賊科コロニー支局を訪れていた。
入管に程近いこの施設は、宇宙空間における海賊対策を取り仕切る部局である。
ほぼ全ての有人コロニーに存在し、海賊との遭遇宙域・規模・殺害数などを戦闘ログと一緒に提出し、海賊の勢力把握の他、正当な護衛活動だったと自己弁護する場でもある。いくら海賊に人権ナシとは言っても殺人である。正当性を証明できなければ捜査の対象となり、捜査中は移動制限を受けることになる。
エース
「長いな」
プリーニオ
「長いな」
二人は廊下の長椅子に座って、法務部員が部屋から出てくるのを待っている。一足先に部屋から出された訳だが、今までこんなに長く待たされた事は無い。
オーバーイヤーヘッドホンをし、背筋を伸ばし、両手を膝の上に置いて微動だにしないエース。
その姿勢は、同じ画角にプリーニオが映っていなければ、警備AIが監視カメラ映像を静止画と差し替えられたと誤認するのでは?と心配になるレベルだ。
一方のプリーニオは、カフェテリアに休憩に来る女性職員全員に分け隔てなく声を掛け、都度困った顔を頂戴していた。そして程なく情報は共有され、カフェテリアには誰も来なくなり、プリーニオはカフェテリアからベーカリーケースとポットを持ち帰り、長椅子でドーナツとコーヒーを楽しんでいる。
カチャ。
聴衆室のドアが開き、法務部員が後ろ向きで廊下に出てくる。
法務部員
「必要なデータやログは明確に指定して頂ければいくらでも提出しますので……ええ、分かります。……はい。お疲れ様でした失礼します」
パタン。
エース
「長かったな」
法務部員
「お待たせしました。帰りましょうか」
法務部員はそういうと二人とは目を合わせる事無く歩き出した。会話はしないという意思表示だ。二人も無言で追従し、法務局ビルを出て駐車場に停めてあった車に乗る。
車を数分走らせた後、ハンドルを握る法務部員が秘密のボタンを押して車体をスキャンし、盗聴の危険がないことを確認してから、ようやく口を開いた。
法務部員
「済みません長くお待たせしてしまって」
エース
「いや構わまい。何があった」
法務部員
「戦闘中の全映像と、機動兵器の仕様書を出せと」
法務部員は二人が全てのログの説明と承認をして退出させられたあとの事をダイジェストで説明してくれた。
対海賊護衛会社キリサメは、護衛契約よりも拿捕した海賊船の売却によって大きな利益を得ている。護衛対象との契約に、護衛期間中の全て情報は非公開とする条項は入っているが、どこから漏れたか耳だけは良い同業が、どうやらビジネスモデルをパクろうと画策したようだ。
キリサメが人型機動兵器を使っているという情報は秘匿されていない。そもそもワーカーで宇宙機とやりあえる訳が無い為、護衛業界ライバル各社間では偽装情報として処理されていた。
そして模倣者は人型機動兵器を使わずに海賊船制圧を試み、多くの犠牲を出したらしい。
だが失敗の模倣者は、ゼロベースで失敗の原因を精査し、実際に対宙戦闘で人型を使っているのか、事実ならどんな運用で仕様なのか、情報を得ようと職員を抱き込んだようだ。
職員は言いがかりレベルの付帯条項を持ち出して、罰則と法的措置を匂わせた。
だがキリサメ法務部の中でも、原則に忠実で守りに強いと評される若手ホープの彼は、丁寧かつ強固にキリサメの権益を守り、妥協も譲歩も見せなかった。
エース
「さすが法務部の若手ナンバーワンだな、ウルナン」
法務部員ウルナン
「法務部で1番若いだけですよ」
契約に反して護衛中の行動を漏らした者と不当な圧力を掛けた職員は、法務部によって賠償請求や政治工作の末に排除されるだろう。
エース
「予想通りきな臭くなってきたな」
プリーニオ
「先手打ててる間はいいが、大丈夫か?僕らニッチな稼業なのに」
ウルナン
「ボスはニッチとは考えて居ないようですがね」
プリーシオ
「え?宙間運送業も、自衛運送船も、企業価値を高めたらさっさと売却してるよな?スタッフは誰一人手放してないが。ニッチだろ?」
ウルナン
「人型の自社開発も進めてますし、何より利益率が段違いですからね。お、新型フレームが搬入され既に慣らしは終えたようです。戻ったらメインパイロットであるお二人の模擬戦でブラッシュアップをとの事です」
プリーニオ
「お!新型か!ドリル付いてるかなぁ!」
同業他社からの横槍話をつまらなそうに聞いていたプリーニオは、新型と聞いて尻を跳ね上げた。前席の背もたれに抱きつくプリーニオをやれやれといった表情で見るエース。
エース、プリーニオ
「勝負だ」
そう言って拳を合わせた二人は、数十秒後には仮眠に入っていた。新型と聞いて吹き出したアドレナリンを瞑想によって抑え込み、護衛艦ヒュウガ到着までの十五分程を休息に充てる。スタイルは違えど二人共一流のプロであった。
1時間後。C556深奥宙域。
入管職員の交代を確認して、再びC556宙域に戻ってきたヒュウガ搭載の小型船搭載の新型2機。
人員は倍以上に増えている。
1号機搭乗のエース。2号機搭乗のプリーニオとラルズ。
小型船でモニターするのは軽宇宙服を着たクルー達。
ハンチョウと魔法使いサトウ。そして今回の主任務である戦闘AIのラーニング熟成を専門にモニターする整備士二人。
プリーニオ
「コイツはいい!軸が通ってて機動イメージをトレースしやすい。しかもポスチェのキックが強い」
ラルズ
「調整後とはいえ……こんなに……」
ラルズが言葉を失っているのはルートチューブスコア。1号機2号機共にハンチョウの参考記録を大幅に更新している。ラルズのスコアなんて周回遅れ扱いだ。
それでもパイロット経験をしたラルズは、新型フレームをぶん回すプリーニオのシェイクに耐え、何が凄いのかうっすらと理解できる程度には成長していた。
ハンチョウ
「それじゃ模擬戦準備」
AI用オペレーター
「ラーニング設定、AIレベルミドルハイ」
AIレベルミドルハイは、現状多くの海賊が使っている宇宙機に採用されているAIだ。
軍用としては型落ち。民生品としては入手出来る最高級、そんなレベルである。
そして新型KENフレームを使った、メインパイロット二人による模擬戦が始まる。
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