ひとりで引かれるもの
なんて恐ろしかったのだろう――!
私は飛び起きた。心臓が喉元までせり上がってくるように激しく脈打っていた。
どうやら、あまりの疲れに眠り込んでしまったらしい。
辺りを見回し、すぐに分かった。
叫んでいたのはフィルだった。
彼は私のピンク色のガウンを着たまま、ソファのそばに立ち、両腕を振り回して声の限り叫んでいた。
顔からは笑みが消えていた。
恐怖に歪んだその顔。声は何度も裏返っていた。
けれど不思議なことに――私は怖くなかった。
ただ、彼がかわいそうだった。
「フィル」
私は呼びかけた。
彼には聞こえていない。
「フィル!」
もっと大きな声で呼んだ。
もう一度。
そして、またもう一度。
五度目くらいになって、ようやく彼は私を見た。
その目には涙がいっぱいにたまっていた。
「神様……フィル……」
私はささやきながら一歩近づいた。
「痛いの? どこか苦しい?」
彼は、長い距離を走り終えたばかりのように、荒く途切れ途切れに息をしていた。
両手はまだ震えていた。
「フィル」
私はもう一度言った。
返事はなかった。
さらに近づく。
「聞こえる?」
彼はゆっくりと瞬きをした。
そのとき突然、部屋が暖かくなっていることに気づいた。
暖房のせいではない。まだつけていなかった。
まるで空気そのものが濃くなり、粘り気を帯びたかのようだった。
私は自分の前腕を撫でた。
肌は乾いていて、冷たかった。
つまり、この暖かさは本物ではない。
私は彼のそばにしゃがみ込んだ。
「もう家よ。終わったの。あそこから出てきたのよ」
フィルはうなずいた。
「あそこで……」
私は言いかけて、口を閉じた。
言葉が、どうしても文章にならなかった。
突然、フィルが私を見た。
初めて――まっすぐに。
「見た?」
彼が尋ねた。
声はいつもの彼のものだった。
普通の、少しかすれた声。
「何を?」
「あの部屋だよ」
彼は言った。
「階段の上にあった部屋」
胸の奥で何かが強く縮んだ。
「ええ」
彼はもう一度うなずいた。
「よかった」
そして顔を背けた。
私は台所へ向かった。
何か食べたかったわけでも、飲みたかったわけでもない。
ただ、動いている必要があった。
立ち止まれば、恐怖はもっと早く追いついてくる。
コップに水を注ぎ、それを流しへ捨て、もう一度水を入れた。
水は不規則に流れた。
途切れ途切れに。
私は修理業者のことを思い出した。
配管。
あの部品。
結局、買わなかった。
私はそう思った。
部屋へ戻ると、フィルは窓辺に立っていた。
「眠らなきゃ」
私は言った。
「疲れきってるのよ」
「疲れてない」
彼は静かに答えた。
「ただ、ここにいないだけ」
抑揚のない声だった。
ただ事実を述べるように。
私は音を立てないように彼へ近づいた。
「どういう意味? じゃあ、どこにいるの?」
彼は考え込んだ。
本当に、長いあいだ。
「僕が捕まえられている場所」
ようやく彼は言った。
「でも、全部じゃない」
身体が冷たくなった。
「誰に?」
私は尋ねた。
フィルはすぐには答えなかった。
窓の外を見つめたままだった。
暗いガラスには、庭や夜の枝よりも、もっと大きな何かが映っているかのように。
「彼を……助けなきゃ」
フィルは言った。
「僕ならできるって言った。彼はとても不幸なんだ。ひどく苦しんでる。もう、ほとんど何もできない。力も尽きかけてる……」
言葉は落ち着いていた。
落ち着きすぎていた。
身体の内側すべてが固くなるのを感じた。
「誰がそう言ったの? 市場にいたあの男? 苦しんでいるのは誰? 何を言っているのか全然分からない。そんなのおかしいわ」
あの部屋にいたとき、フィルは、財布の中を探っていたあの奇妙な男の話を嬉しそうに聞いていた。
私は話の一部しか聞いていなかった。
紙幣についての短い言葉を二、三聞いただけだった。
そのあとフィルが、私たちは部品を買いに行くのだと男に話し、男はそういう物なら市場のどの列で売っているかを教えていた。
今フィルが言っているようなことを、あの男が話しているのは聞かなかった。
フィルはゆっくりとうなずいた。
「彼は人間じゃない」
少し間を置いて付け加えた。
「そう見えているだけだ」
私はさらに近づいた。
「フィル……私たちは出てきたのよ。分かる? 私があなたを連れ出した。ここは家よ」
彼は顔をこちらへ向け、私を見た。
その目は澄んでいた。
ほとんど正気に戻ったように見えた。
フィルは腹を掻き、いつもの笑みを浮かべた。
「出てきたのは君だよ」
彼は言った。
「僕は出てない」
胸を殴られたようだった。
「どういうこと? 出てないって?」
彼は肩をすくめた。
「彼が糸を握ってる」
「君が引く糸じゃない」
「ひとりで引く糸だ」
私はすぐには彼の言葉の意味を理解できなかった。
もしかすると、理解したくなかったのかもしれない。
そのとき、音がした。
小さな音。
ほとんど聞き取れないほどの。
家の奥深くから。
私は動きを止めた。
「今の、聞こえた?」
フィルは答えなかった。
視線は再び窓へと戻っていた。
音がもう一度した。
ぽたり。
間。
もう一度、ぽたり。
水。
私はゆっくりと浴室へ向かった。
一歩踏み出すたび、その音が胸の中で響いた。
まるで床が空洞になってしまったかのように。
照明は消えていた。
私はスイッチを入れた。
蛇口は閉まっている。
洗面台も乾いていた。
けれど音は、壁の中から聞こえていた。
私はタイルに手のひらを押し当てた。
暖かかった。
私は勢いよく手を引いた。
部屋へ戻ると、フィルはもう窓辺にはいなかった。
玄関の扉を見つめていた。
まっすぐ前を。
身じろぎもせずに。
「君の住んでいる場所を、あいつらは知ってる」
彼は言った。
「違う」
私はあまりにも早く答えた。
「知らないわ」
フィルはゆっくりと顔をこちらへ向けた。
まるで私が、とても人間らしく、
そして、ひどく不正確なことを言ったかのように見つめた。
「あいつらは住所を知ってるんじゃない」
彼は言った。
「性質を知ってる」
「どんな性質?」
彼は自分の手のひらを見つめた。
まだそこにあるか確かめるように。
「気遣うこと」
彼は言った。
「待つこと」
「何かが芽を出すまで、待ち続けられること」
私は何も言わなかった。
身体の中で何かがずれるような感覚がした。
彼は錯乱している。
私は彼の額に触れた。
冷たく、乾いていた。
「フィル……」
私は言った。
「横になったほうがいいと思う」
フィルはその夜、泊まっていった。
そう口にしたわけではない。
ただ、帰らなかった。
もう遅い時間だったし、暗闇の中、通りを渡って帰る気にはなれなかったのかもしれない。
あるいは、私をひとりにしたくなかったのかもしれない。
私はソファを整え、彼に毛布を渡した。
私たちはほとんど話さなかった。
あの夜、言葉はうまく形を保てなかった。
口にしすぎれば、また何かが動いてしまいそうだった。
私は自分の部屋へ行った。
扉を閉めた。
けれど鍵はかけなかった。
彼は怖がっていたのかもしれない。
あるいは、自分のことではなく、
別の何かを恐れていたのかもしれない。




