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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第4章

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第92話『冒険者への決意』

夜、リナと向かい合った。


「ダンジョンに入りたい」


リナが手元の茶を置いた。表情は変わらないが、目線がまっすぐこちらに向く。


「本気で言ってる?」


「本気だ」


「理由を聞かせて」


茶が湯気を上げている。少し間を取ってから口を開いた。


「魔力が上がる可能性が残った。ダンジョン探索後に上がった事例があるとバルドが言っていた。理由は分からないが、可能性があるなら試す価値はある」


「それだけ?」


「それだけじゃない。スタンピードのとき、限界まで解析を使ったら見えるものが増えた。魔物と向き合うたびに、少しずつ何かが変わっている。ダンジョンに潜って戦い続ければ、解析がどこまで伸びるか確かめられる。地上で店をやっているだけでは、その先には進めない」


リナが腕を組んだ。


「気持ちは分かるわ。ただ、今のあなたがそのまま潜ったら死ぬ。それは前も言ったでしょ」


「分かっている。だからリナに聞きたい。何から始めればいい」


リナが少し考え込んだ。


「まず、いきなり自分だけで潜るのは論外。引率者付きで潜る方法があるわ」


「引率者?」


「新人研修。ギルドが定期的にやってるの。登録して間もない冒険者を集めて、経験者が引率してダンジョンの浅い層を回る。基本的な立ち回りを教えて、生きて帰る術を身につけさせる仕組み」


「それに入れるのか」


「登録して間もない実戦経験の浅い冒険者が対象よ。ランクは関係ない。あなたにはちょうどいい」


茶を一口飲んだ。ぬるくなっていた。


「引率は誰がやる」


リナが少し間を置いてから答えた。


「Cランク以上が持ち回りで担当する。次の研修は……たぶん私が引率に入る」


「そうか」


「偶然じゃないわよ。私が志願するからよ」


リナがこちらを見た。


「五班に分かれるから、確実に私があなたの班につくとは限らない。ただ志願すれば通る可能性は高いし、他の引率者にあなたを丸ごと任せるのは不安なの。解析のこと、金のこと、まだ文字が完全に読めないこと——事情を知らない引率者に預けたら、扱いに困るに決まってる。それに」


少し言葉が途切れた。


「死なせたくないから。私が見てる方が確実でしょ」


返す言葉を探したが、うまく出てこなかった。


「……頼む」


「ええ」


リナが茶を飲み干して立ち上がった。


「班の中での役割も決めておくわ。あなたは解析が使える。だったら斥候が向いてる——先を見て、危険を見つけて、仲間に伝える役目。前衛で剣を振り回すより、あなたの力が生きる」


「斥候か」


「装備も動き方もそれに合わせる。明日、ギルドで研修の登録をしましょう。その前に装備を揃えないと話にならないわ」


「何が要る」


「軽装で、音を立てない靴。それと短剣。斥候は身軽さが命だから、重い防具は動きを鈍らせるだけよ。最低限のものだけ揃えましょう」


「どういう装備を選べばいいのか分からない。案内してくれ」


「任せて。新人向けの手頃な店を知ってるわ。変なものを掴まされないよう、私が見てあげる」


リナが少しだけ口の端を上げた。


「その代わり、選ぶのはあなたよ。斥候の装備は体に馴染むかどうかが全部だから、人任せにしたら痛い目を見るわ」


---


翌朝、緑の雫にミレイを訪ねた。


「しばらく店を空ける。ダンジョンの研修に入る」


ミレイが帳簿から顔を上げた。表情は動かない。


「期間はどのくらいですか」


「研修そのものは数日だが、準備を含めて半月ほど見ている。その間、店はミレイに任せたい」


「ポーションの製造は」


「フィアとソルに続けさせる。充填とダルとセイナもそのままだ。乾燥野菜はアデルと詰め作業担当で回る。ミレイには販売と帳簿、それと全体の目配りを頼みたい」


ミレイが少し考えてから頷いた。


「分かりました。何かあれば天秤座を通じて連絡します」


「頼む」


帳簿を閉じたミレイが、一言だけ付け加えた。


「お気をつけて」


いつもの短い口調だった。ただ、その一言だけは少しだけ間が空いていた。


---


店を出て、リナと落ち合った。


「まず武具店ね。斥候の装備から揃えましょう」


通りを並んで歩く。朝の市場は人が多く、荷車と客と売り子の声が混ざり合っている。


「一つ聞いていいか」


「何?」


「新人研修には、他にも新人が来るのか」


「来るわよ。だいたい一班五人で、それが五班くらい。全部で二十五人前後ね。班ごとに引率が一人つく」


「五人か」


「あなたの班も五人になる。斥候はあなた、残りは前衛が一人、中衛が一人、後衛が二人——編成はギルドが決めるけど、だいたいそういう配分になるわ」


四人の見知らぬ新人と組む。頭の中で並べてみたが、実感は湧かなかった。


「うまくやれるか」


リナが横目でこちらを見た。


「あなた、人と組むの苦手でしょ」


「否定はしない」


「でも斥候は一人で完結する役じゃないの。前を見て、危険を見つけて、仲間に伝える。伝わらなければ意味がない。あなたの解析がどれだけ優れていても、それを言葉にして渡せなければ宝の持ち腐れよ」


言葉が刺さった。相場師だった頃、数字は一人で読めば良かった。誰かに伝える必要はなかった。


「……努力する」


「ええ。まあ、いきなり完璧を求めないわ。研修はそのためにあるんだから」


武具店の看板が見えてきた。


扉を押すと、鉄と革の匂いが流れてきた。


---


【借金メモ・92話終了時点】

前話(91話)終了時:資金銀貨四十一枚と小銀貨一枚・残債なし

92話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(小銀貨五枚と大銅貨六枚)+乾燥野菜販売分(小銀貨四枚)=銀貨二枚と小銀貨九枚と大銅貨六枚

92話支出:従業員給与(ミレイ・フィア・ソル・充填×二・ダル・セイナ・アデル・詰め作業担当)(銀貨二枚と小銀貨三枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨二枚と小銀貨三枚と大銅貨一枚

ケイの資金:銀貨四十一枚と小銀貨七枚と大銅貨五枚

残債:なし

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り9日

試作場:次回支払いまで残り13日

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