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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第93話『積み重なるもの』

朝、受付でバルドへの面会を申し入れると、今日は待ち時間が短かった。十分ほどで案内が来て、三階へ通された。


バルドが地図を広げたまま顔を上げる。


「ちょうど良かった。お前に話がある」


先を越された。椅子を引いて座る。


「乾燥野菜の件だ」


バルドが地図の一点を指す。ダンジョンの第四層付近だった。


「配布を始めてから、遠征組の滞在時間が伸びている。以前は食料の問題で三層が限界だった班が、四層まで安定して入れるようになった」


「乾燥野菜のおかげか」


「直接の原因とは言い切れないが、タイミングが一致している。軽くて日持ちして、お湯があれば食える——ダンジョン内での食事として条件が揃っている。それまでの保存食より明らかに使い勝手がいいと言う冒険者が複数いる」


(四層まで届いた)


ダンジョン解禁から日が経っていない。それでも確実に層が進んでいる。


「素材の採取量も増えた。四層に固有の素材が二種類確認されていて、これまで街で出回っていなかったものが流通しだす可能性がある」


「それは冒険者が深くまで入れるようになったからか」


「そうだ。乾燥野菜とは別の話だ」


バルドが地図を畳んだ。


「もう一つ。乾燥野菜のギルドへの卸しは今月で終わりにする。緑の雫で買えるなら、ギルドが間に入る必要はない。もともと試験的な配布だった」


「了解だ」


「こちらからは以上だ。用件は何だ」


「保存瓶の増量発注をハリル工房に入れる前に、ギルド側の納品数の見通しを確認したかった。今の話で整理できた」


席を立つ前に、バルドが一枚の紙を寄越した。


「もう一つある。以前お前が問い合わせていた件の回答だ。魔力値の変動について、本部に確認を取っていた」


紙を受け取る。文字は読めないが、バルドが続ける。


「魔力値が後天的に上昇した事例は、過去に記録が数件ある。ただし共通の原因が特定できていない。一件は長期のダンジョン探索後、一件は大型魔物との戦闘後、あとは原因不明が複数——パターンがばらばらで、意図的に再現する方法は分かっていないというのが本部の回答だ」


「上がった理由は不明ということか」


「そうだ。ただ上がること自体はある、ということは確かだと言っている」


紙をたたんで懐に入れた。


「参考になった」


「回答が役に立てば十分だ。ただ——」


バルドが少し間を置いた。


「……ダンジョンには入るなよ。今のランクでは話にならない」


「分かっている」


バルドの視線が地図に戻った。それだけだった。


---


緑の雫に戻ると、ミレイが棚の整理をしていた。


「今週の乾燥野菜の売れ行きを聞かせてくれ」


ミレイが帳簿を開いた。


「単品よりセットの方が売れています。ダンジョンに持ち込む用途で買う方が多い印象です。昨日は一人で三本まとめて持っていった方がいました」


「在庫は」


「あと二十本ほどです。アデルさんのペースだと今週中に補充できます」


「了解だ。保存瓶の発注も今週中に入れる」


ミレイが頷いて帳簿を閉じた。


(アデル一人では、需要が増えれば頭打ちになる)


一日十五本前後——今はそれで回っているが、ギルドへの卸しが終わり店頭販売だけになれば個人買いが増える可能性がある。風魔法使いをもう一人探す必要があった。バルドに相談するか、天秤座に掲示を出すか——どちらにせよ、今すぐではなく次の仕込み量を見てから判断することにした。


---


夜、リナと向かい合った。


「バルドから話があった」バルドの言葉を順に伝えた。


リナが聞きながら少し眉を上げた。


「四層まで届いたの。早いわね」


「乾燥野菜が一因らしい」


「……なるほど。食料が解決すれば、その分深くまで入れる」


リナが腕を組んだ。


「魔力の話はどう思う」


「上がることはあると分かった。理由は分からないまでも、可能性としては残った」


「ダンジョン探索後に上がった事例があったって言ったわよね」


「そうだ」


しばらく間があった。


リナが「まさか」と言いかけてから止まった。


「言わなくていい」


「……分かった。ただ」


リナが少し視線を落とした。


「今のあなたがダンジョンに入ったら、一層でも死ぬわよ。それは分かってるでしょ」


「分かっている。今すぐ入るとは言っていない」


「……そうね」


リナが視線を窓の外に向けた。ケイも何も言わなかった。


---


一善屋の方からイナが帳簿を持って来たのは、その翌日の夕方だった。


「報告があります」


カウンターの端に帳簿を置く。


「夕方の客から、アルコール飲料を出してほしいという声が増えています。今週だけで五人から聞きました。ダンジョン帰りの方が多く、食事のあとに一杯飲みたいというご要望です」


「試験的に出してみる。酒屋から仕入れる形にする。ただし問題を起こした客はすぐに店から追い出す——それだけ守ってくれ」


「分かりました。仕入れ先はどうしますか」


「心当たりがあれば教えてくれ。なければ明日探す」


「分かりました。ご要望があったことだけ報告します」


イナが帳簿を持って出ていった。


(アルコールか)


夕方に集まる冒険者が何を求めているか——食事だけではなく、場としての需要がある。ただ今は手が足りない。一善屋別館の契約もまだ決まっていない。


(後回しにしていい問題ではなくなってきた)


そこまで考えてから、頭を切り替えた。


窓の外で鐘が鳴った。第十鐘——夜が深くなっていく。


---


【借金メモ・93話終了時点】

前話(92話)終了時:資金銀貨四十枚と小銀貨二枚と大銅貨七枚・残債なし

93話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(小銀貨五枚と大銅貨六枚)+食堂収入(銀貨一枚と大銅貨八枚)+乾燥野菜販売分(小銀貨四枚)=銀貨三枚と小銀貨九枚と大銅貨一枚

93話支出:従業員給与(ミレイ・フィア・ソル・充填×二・ダル・セイナ・アデル・カナ・詰め作業担当・イナ)(銀貨二枚と小銀貨九枚と大銅貨八枚)+食堂材料費・パン仕入れ含む(小銀貨七枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨三枚と小銀貨六枚と大銅貨九枚

ケイの資金:銀貨四十枚と小銀貨五枚と大銅貨九枚

残債:なし

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