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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第90話『開店』

天秤座から使いが来たのは三日後だった。


「帳簿管理と接客の候補者が一名おります。本日第三鐘以降にお越しください」


天秤座の待合に入ると、窓際の椅子に二十代半ばほどの女が座っていた。背筋が伸びていて、膝の上に両手を揃えている。こちらが入ってきた音で顔を上げ、軽く頭を下げた。


「イナと申します」


「食堂の帳簿と接客を任せたい」


「はい」


「帳簿は毎日付けられるか。収支の記録だ」


「読み書きと計算は問題ありません。前の仕事で三年、商家の帳簿を担当していました」


「なぜ辞めた」


「主人が店を畳みました」


「客への対応はできるか」


「はい。前の店では仕入れ業者との交渉も任されていました」


答えが短く、聞かれたことだけを返してくる。余計な愛想がない。


「日当は小銀貨一枚。第二鐘から第九鐘まで。食事は賄いで出す」


「分かりました」


「採用する。明日から来てくれ」


受付で手続きを済ませ、天秤座の保証制度を使った契約書を結んだ。手数料は小銀貨二枚だった。


---


翌日、イナが来た。


メニューの板を見せ、品名と値段を順番に告げた。品数は四つ——セット、唐揚げ単品、テラポテトの揚げ、バッファローカツだ。クロパンはセットとおかわりのみで単体販売はしない旨も伝えた。イナが板の絵と値段を見比べながら確認し、一度繰り返して言った。内容が全部合っていた。


「ザワークラフトを怪訝な顔で見る客が来たら、揚げ物と一緒に食べるものだと伝えてくれ」


「酸っぱい野菜ですね。理由を聞かれたら何と答えますか」


「脂っこさをさっぱりさせるためのものだと伝えればいい」


イナが頷いた。


翌朝、正式な開店日になった。


第二鐘が鳴り終わる前にイナが来て、客席側の卓を拭き始めた。カナが厨房で油の温度を確かめながら、揚げる前のダストチキンに粉をまぶしている。角のパン屋からクロパンを二十個受け取り、籠に並べて卓の端に置いた。外から叩く音がした——板のメニューが風で倒れかけていたのを、通りがかった冒険者が起こしてくれた音だった。


第三鐘を過ぎたところで最初の客が来た。二人連れで、板のメニューを覗き込んで小声で話し合っている。


「唐揚げってなんだ、これ」


「揚げ物だろ。絵が鳥の形してる」


二人がイナの方を向いた。


「これ、二つくれ」


カナが油に沈めた。しゅっと音が鳴り、厨房から白い湯気が出る。引き上げて皿に乗せ、ザワークラフトの小瓶を添えてイナに渡す——イナが卓に置いて下がった。


二人が箸を取って一口食べた。少し間があってから、片方が口を開く。


「……なんだこれ」


「うまいか」と連れが言う。


「うまい。なんかカリッとして中が——」


二人が小瓶の中身を少し取り、唐揚げと一緒に口に入れた。また間があった。


「さっぱりする」


「また食えるな」


昼前になると客が途切れなくなった。卓が八つしかなく、六卓が埋まった状態でイナが立ったまま注文を捌いている。カナが揚げ物を出すペースを上げると油の音が厨房から絶えなくなって、揚げ物の匂いが入口まで漏れ出した。


通りを歩いていた男が足を止めて扉を覗いた。


「席はあるか」


「今お一人分空いています」とイナが言い、男が入ってきた。


昼を過ぎて客の波が一度落ち着いたとき、カナが厨房の入口から顔を出した。


「テラポテトが思ったより出ます。追加で切っていいですか」


「切れるだけ切ってくれ」


「根菜スープも——お代わりを頼む方が何人かいました」


「出せるなら出す」


カナが引っ込んで、また油の音が鳴り始めた。


夕方、客の流れが止まったところでイナが帳簿を出した。


「本日の売上です」


受け取って確認した。唐揚げが十七皿、テラポテトが十二皿、バッファローカツが六皿、根菜スープが十四杯——合計、銀貨一枚と大銅貨一枚だった。


「明日の仕込みを増やす。カナに伝えてくれ」


「分かりました」


イナが帳簿を閉じ、卓を拭き始めた。厨房からカナが大きな鍋を洗う音がする。扉の外の通りはすでに暗くなりかけていて、帰っていく冒険者の影がちらちらと見えた。


明日はダストチキンを倍仕入れる必要がある。テラポテトも半分では足りなかった。厨房に入り、残った油の量を確かめて火を落とした。


---


【借金メモ・90話終了時点】

前話(89話)終了時:資金銀貨四十枚と小銀貨七枚と大銅貨三枚・残債なし

90話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(小銀貨五枚と大銅貨六枚)+食堂収入(銀貨一枚と大銅貨一枚)=銀貨三枚と小銀貨五枚と大銅貨七枚

90話支出:従業員給与(ミレイ・フィア・ソル・充填×二・ダル・セイナ・アデル・カナ・詰め作業担当・イナ)(銀貨二枚と小銀貨九枚と大銅貨八枚)+食堂材料費・パン仕入れ含む(小銀貨七枚)+天秤座保証手続き費(小銀貨二枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨三枚と小銀貨八枚と大銅貨九枚

ケイの資金:銀貨四十枚と小銀貨四枚と大銅貨一枚

残債:なし

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り21日

試作場:次回支払いまで残り4日

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