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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第90話『詰め作業と量産』

翌朝、天秤座へ向かった。


詰め作業担当の求人を出して数日後、候補が一人来た。二十代の男で、細かい作業が得意だと言ったので小瓶を渡してみると、蓋の締め方が揃っていた——力任せでなく、指先だけで均等に回している。


試作場の地下で詰め作業をやってもらった。乾燥野菜を小瓶に計量して詰める工程を一度見せると、二回目からは自分で手を動かせて、棚に並べた瓶の口の高さが全部同じだった。


「採用する。明日から来てくれ」


男が頷いた。


---


翌日から乾燥野菜の生産量が安定した。アデルが空気を引き出し、詰め作業担当が計量して瓶に収める——二人の動きが噛み合うと一日の本数が前より増えた。


棚に並んだ瓶を確認しながら、次の課題を頭の中で並べた。


ギルドへの納品分、イルゼへの追加分——今は二方向に出ていくが、個人で買いたい冒険者への対応も考える必要がある。アデル一人の生産量では近いうちに頭打ちになる。風魔法使いをもう一人探すか、容器の発注数を増やすか、どちらにせよ早めに手を打つ必要がある。


(保存食としての形は整った)


あとは量をどう確保するかだけだ。


---


リナとの夜の話し合いで、乾燥野菜を緑の雫でも販売したいという話をした。


「ギルドへの納品は続けるつもりだが、緑の雫でも並行して販売したい。個人で買いたい冒険者の対応だ。先にバルドに話して確認する」


「ポーションを買いに来た冒険者がついでに買っていく形ね。確かに動線は悪くない」


リナが口を開く。


「一つ聞いていい?」


「何だ」


「冒険者って、乾燥野菜の使い方を知らないわよね。そのまま食べても美味しくないし、戻し方を教えないと意味がないんじゃない?」


手が止まった。


(そうだ——使い方を知らなければ意味がない)


「説明が要る。買った客に一枚ずつ渡す形で、絵で手順を示したものを作りたい。紙はいくらくらいで用意できるか」


リナが少し考えた。


「枚数にもよるけど、絵入りで一枚小銀貨一枚はかかるわよ。毎回渡すなら相当な量が要るわね」


手が止まった。


(百人に渡せば銀貨十枚以上——毎回かかる。現実的じゃない)


「別の方法にする。一枚だけ作って店に貼る。買った客にはそこを見てもらう」


「掲示板ね。それなら板一枚で済むわ。絵師に頼めば文字が読めない人にも伝わるものが作れるんじゃないかしら」


「そうする。絵が描ける者を探す必要がある」


「ミレイに聞いてみたら? 知り合いに心当たりがあるかもしれない」


「頼む。板の寸法を決めて木工所に発注する」


---


翌朝、冒険者ギルドへ向かった。


受付でバルドへの面会を申し入れると、しばらくして案内が来て、三階の執務室へ通された。


バルドが書類を確認していた。入ってきたのを見て手を止める。


「何かあったか」


「乾燥野菜のことで話したい。ギルドへの納品は続けるつもりだが、緑の雫でも並行して販売したい。個人で買いたい冒険者が出てきたときの対応だ」


バルドが少し考えた。


「ギルドとしては納品分が確保されれば問題ない。店で売ることに口を出す理由はない」


「分かった」


バルドが書類に視線を戻す前に一言添えた。


「量産が進んだら、また話に来てくれ。全体の数が増えれば配布の枠も広げられる」


---


緑の雫に戻り、ミレイに話した。


「乾燥野菜を店でも売る。ギルドへの納品分とは別に棚に在庫を置く。管理を頼む」


ミレイが帳簿を開いた。


「値段はどうしますか」


「シュゴリーフとエンシンルートで一本ずつ。乾燥野菜だけの単品が小銀貨一枚、干し肉と岩塩を同じ瓶に入れたセットが小銀貨一枚と大銅貨五枚を考えている。お湯を注ぐだけで食べられる形にする」


「セットですか。それなら買った方がそのまま使えますね」


「ダンジョンに持ち込む用途を想定している」


「一本あたりの量はどのくらいですか」


「一回分が二、三日分になる量だ」


ミレイが書き込んだ。


「掲示板を作る。乾燥野菜の使い方を絵で示したものだ。絵が描ける者に心当たりはあるか」


「一人います。この通りで看板の絵を描いている人で、丁寧な仕事をする方です」


「紹介してほしい。今日中に会いたい」


「伝えておきます」


---


昼前、木工所に寄った。


「掲示板用の板を一枚作ってほしい。壁に引っかけられるもので、縦に長い形だ。横は三十センチ前後、縦は五十センチ前後でいい」


「三日以内に。大銅貨八枚になります」


大銅貨八枚を渡し、受け取りを確認してから木工所を出た。


---


ミレイが紹介した絵師は四十代の男で、染料と細筆を持ち歩いていた。試作場に来てもらい、乾燥野菜の瓶を見せながら使い方を説明した。


「一——瓶の蓋を開ける。二——椀にお湯を注ぐ。三——中身を全部入れる。四——野菜と干し肉が柔らかくなるまで待つ。五——そのまま食べる。これを順番に絵で示してほしい。セット版と単品版で工程が少し違うから、二種類描いてもらえるか」


男が瓶を手に取り、中身を確認してから頷いた。


「三日いただけますか」


「構わない」


「料金は大銅貨十五枚でいかがでしょうか」


「払う」


---


三日後、板と絵の両方が届いた。


木の板に、工程が上から順に描かれていた。上半分がセット版、下半分が単品版で分かれていて、各絵の横に短い文字が添えてある。


カウンターの脇の壁に引っかけた。


ミレイを呼んで確認させた。


「乾燥野菜を買った客には必ずこの板を指して、使い方を確認するよう伝えてくれ。会計のときに一言口頭でも添えてくれ」


「分かりました」


ミレイが板をもう一度見た。


「これなら読めない方にも伝わりますね」


「そのつもりだ」


---


【借金メモ・90話終了時点】

前話(89話)終了時:資金銀貨四十枚と小銀貨七枚と大銅貨三枚・残債なし

90話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚

90話支出:従業員給与(ミレイ・フィア・ソル・充填×二・ダル・セイナ・アデル・詰め作業担当)(銀貨二枚と小銀貨三枚)+掲示板用板(大銅貨八枚)+絵師代(大銅貨十五枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨二枚と小銀貨六枚と大銅貨四枚

ケイの資金:銀貨四十枚と小銀貨七枚と大銅貨三枚

残債:なし

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り17日

試作場:次回支払いまで残り21日(支払い済み)

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【所持アイテムメモ】

人員

 詰め作業担当(20代男):乾燥野菜小瓶詰め担当・新規採用


乾燥野菜

 単品:シュゴリーフ・エンシンルート各小瓶 …小銀貨一枚(緑の雫店頭販売開始予定)

 セット:乾燥野菜+干し肉+岩塩(一瓶) …小銀貨一枚と大銅貨五枚(同上)

 ギルドへの卸し:継続(攻略組への配布分は変わらず)・バルドへの確認済み


掲示物

 乾燥野菜使い方掲示板:緑の雫カウンター脇に設置済み


進捗

 乾燥野菜:量産体制確立・緑の雫での販売準備完了

 次の課題:風魔法使いの追加・保存瓶の増量発注

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