第89話『流通』
数日後、バルドから使いが来た。
「風魔法使いの心当たりがある。会ってみるか」
ギルドへ向かうと、受付の脇に若い女が立っていた。二十代前半、短く切った黒髪に、腰に小型の魔道具を下げている。
「アデルだ。風魔法を使う——細かい制御は得意だと言われている」
バルドが短く紹介した。アデルが軽く頷く。
「話は聞きました。容器の中の空気を引き出す作業ですね」
「そうだ。実際にやってみてもらえるか」
試作場に連れていき、金属容器と弁を見せた。アデルが容器を手に取り、弁の仕組みを確認してから頷いた。
「やってみます」
シュゴリーフを入れて蓋を閉め、弁の口にアデルが手をかざした。
気流が出た——リナより細く安定していて、五分十分と続けても乱れがない。十五分を過ぎたところで手を止めた。
「集中が切れなければ、午前と午後で五セットずつは続けられます。慣れれば消耗が減ると思いますが」
蓋を開けると、シュゴリーフが均一に乾燥していた。リナが最初に成功したときより均質で色のムラが少ない。
「リナより安定している」
「リナさんは冒険者としての魔法の使い方で、私は補助作業向けに細かい制御を専門に鍛えてきました。方向性が違うんです」
「一日どのくらい続けられる」
「休憩を挟めば、半日は問題ありません。集中力の問題なので、慣れれば伸びると思います」
「採用する。条件の話をしよう」
アデルが小さく頷いた——表情が変わらない、余計なことを言わない人間だと分かった。
翌週から乾燥野菜の生産量は以前より増えたが、乾燥した野菜を小瓶に詰める作業を担う人員がいない——詰め作業専門でもう一人雇う必要がある。
ギルドへの納品も始まった。
「試験的に攻略組に配布する」とバルドが言い、最初の五十個分が一週間で出た。
---
夜、試作場の地下に下りた。
棚に乾燥野菜の小瓶が並んでいる。シュゴリーフ、エンシンルート——二種類を安定して出せるようになって、ギルドへの納品分とイルゼへの追加分と二方向に出ていくようになった。
(保存食は完成した)
次は量産と流通だ——詰め作業の人員を天秤座に求人を出す。それが整えば乾燥野菜が冒険者に行き渡り、ダンジョン病を減らせる。潜る時間が増えれば怪我や消耗も増え、ポーションの需要はむしろ上がる。
棚を一度見てから、石段を上がった。試作場の扉を開けて外に出ると、通りはすでに暗く、人影はなかった。
---
【借金メモ・89話終了時点】
前話(88話)終了時:資金銀貨三十八枚と小銀貨七枚と大銅貨六枚・残債なし
89話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(小銀貨一枚×二十=銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚
89話支出:従業員給与ミレイ・フィア・ソル・充填×二・ダル・セイナ(小銀貨三枚と大銅貨四枚)+アデル雇用(大銅貨八枚)+食事分(大銅貨一枚)=小銀貨四枚と大銅貨三枚
ケイの資金:銀貨四十枚と小銀貨九枚と大銅貨八枚
残債:なし
---
【賃料管理メモ更新】
緑の雫(店舗):次回支払いまで残り27日
試作場:次回支払いまで残り10日
---
【所持アイテムメモ】
ポーション類
初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)
初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)
乾燥野菜
シュゴリーフ(乾燥) × 量産体制確立・ギルド納品中・イルゼへ追加提供中
エンシンルート(乾燥) × 量産体制確立・同上
人員
アデル(風魔法使い):新規雇用・乾燥野菜担当
ダル:加熱担当(フィアの補助)継続
セイナ:濾過担当(ソルの補助)継続
フィア:加熱担当・工程管理
ソル:濾過担当・工程管理
ミレイ:帳簿・販売担当
次の課題
乾燥野菜の量産:詰め作業担当の採用・風魔法使い追加または容器増加を検討
---




