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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第85話『弁と気圧』

九日後、鍛冶屋へ向かった。


「できてるか」


「昨日仕上がった」


店主が奥から持ってきたのは掌よりひと回り大きい金属の容器で、側面が滑らかで蓋と容器の縁が精密に削り合わされていて、蓋を開けると内側の面がほぼ隙間なく噛み合っている——陶器とは別物の精度だ。弁は別体で、容器の口に取り付ける小さな金属の筒で、内側に薄い金属板が蝶番で固定されている。


「試してみていいか」


「どうぞ」


口を手でふさいで弁の方から息を吹き込んでみると板が開いて空気が入り、逆に口から吸うと板が閉じて空気が出てこない——一方向にしか通らない。


「これでいい」


残金の銀貨三枚を渡した。店主が受け取って帳簿に記録する。


---


試作場に戻り、リナを呼んだ。


金属容器と弁を見せると、リナが手に取って確認した。


「これが弁?」


「そうだ。弁の側から空気を引き出せれば、容器の内部が低圧になる」


「やってみる」


地下に下りて作業台の上に容器を置き、素材はシュゴリーフを一口大に切ったものを入れて蓋を閉め、弁の口にリナが手をかざした。


最初は前回の陶器の壺と同じように、ゆっくりと気流を作る。今回は弁があるため、引き出した空気が逆流しない——リナの手から離れた気流が弁を通って外に出ていくのが分かる。


「……出てる。ちゃんと外に向かってる」


「続けてくれ」


二分ほど続けた。リナの呼吸が少し浅くなる。


「……ちょっと待って」


手を止める。少し間があった。


「難しいわ。一定の気流を保つのが——強くなったり弱くなったりして、安定しない」


「どのくらい続けられるか」


「今のところ、二分が限界かしら。それ以上やると集中が切れる」


二分で容器内の気圧がどこまで下がるか——確認する手段がない。蓋を開けて素材を確認した。


シュゴリーフの表面が、わずかに変化していた。全体ではなく一部だけ、表面がわずかに乾いたような質感になっていて、触ると普段より少し硬く色はほぼ変わっていない。


(変化はある)


完全な乾燥ではない。ただ何かが起きているのは確かだ。


「もう一度やってみてくれ。今度は別の素材で」


エンシンルートを薄く切って入れて、蓋を閉める。リナが再び手をかざした。


今度は一分半ほどで手を止めた。


「……ごめん、集中が持たない。気流が乱れてきた」


「無理しなくていい」


蓋を開けて確認する。エンシンルートは変化がほぼなかった——時間が足りなかったか、切り方の問題か、あるいはシュゴリーフより水分が多いせいか。


(時間と精度が問題だ)


弁の機能は確認できた。問題はリナの風魔法の持続時間と安定性で、二分では足りない——乾燥させるにはもっと長い時間、安定した気流が必要になる。


「どのくらい練習すれば安定するか」


リナが少し考える。


「分からない。ただ……方向は分かったから、一定の細い気流を保ち続けるのが難しいだけで、できないわけじゃないと思う」


「続けてみてくれ」


「うん。少し練習する」


石段を上がりながら、リナが言う。


「シュゴリーフの方は変化があったのよね」


「あった。表面だけだが」


「じゃあ方向は合ってるじゃない」


「そうだ」


リナが少し頷いた。それだけだった。


店に戻りながら、今日の結果を整理した。


弁は機能した——引き出した空気が逆流しないことで容器内の気圧が下がり続けることが確認でき、シュゴリーフの表面に変化が出たことで気圧を下げれば水分が蒸発することも確認できた。問題はリナの魔法の持続時間と安定性だけで、それが改善すれば完全な乾燥に辿り着ける可能性がある。


(目標は乾燥野菜だ)


乾燥させた野菜は軽く匂いもなく、密閉した小瓶に入れればダンジョンに持ち込める。現地でスープを作るときに入れれば野菜として食べられて、生の野菜と全く同じかどうかは分からないが——加熱して乾燥させているわけではないから、生に近い状態が保たれている可能性がある。


それがダンジョン病に効くかどうかは実際に試してみなければ分からないが、イルゼが言っていた加熱したものでは効かないという話が正しければ、加熱していない乾燥野菜には可能性がある。


(まずは完成させる。結果はその後だ)


試作場の扉を振り返った——今日一歩進んで、リナが練習を続ければ次の実験で変わるかもしれない。


---


【借金メモ・85話終了時点】

前話(84話)終了時:資金銀貨三十五枚と小銀貨一枚・残債なし

85話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(小銀貨一枚×二十=銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚

85話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨七枚)+フィア・ソル・充填×二(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+ダル・セイナ(大銅貨十枚)+金属容器・弁受け取り残金(銀貨三枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨三枚と小銀貨二枚と大銅貨四枚

ケイの資金:銀貨三十四枚と小銀貨三枚と大銅貨二枚

残債:なし

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り7日

試作場:次回支払いまで残り25日

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)


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読んでくださってありがとうございます。

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次回もよろしくお願いします!

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