表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/94

第83話『帰還と酸味』

リナが出発した。


「二週間ほど、潜ってくる」


「分かった」


「ポーション、多めに持っていくわ」


「持っていけるだけ持っていけ」


リナが荷を背負って扉を出て、それだけだった。


リナがいない間、仕込みとOJTが淡々と続いた——フィアがダルに加熱を教えソルがセイナに濾過を見せていて、二人とも余計なことを言わない。試作場にも一日一度寄って、ザワークラフトの状態を記録した——酸味は毎回出るが香草を合わせると和らぐことと食用油で口当たりが変わることが分かってきた。


五日目に資金を数えると銀貨十九枚と小銀貨九枚——あと少し足りなかった。翌朝の仕込みを終えて収入を合わせると、大銀貨二枚を超えた。


(揃った)


財布を閉じた。感慨のようなものは特になく——次にやることが決まっているからかもしれない。


---


二週間後の夕方、リナが戻ってきた。荷を背負って扉を開けると装備に土と何かの染みがついていて髪が乱れているのはいつもと変わらないが、顔色が悪く体に重さがあって椅子に座ったとき口元が少し腫れているのが見えた。


「お帰り」


「ただいま」


リナが荷を下ろして椅子に座った——背中から力が抜けるような座り方で、いつもの身のこなしがない。


「食べたか」


「……あまり食べられなかった。ずっと食欲がなくて、体も重くて」


「野菜はいつ最後に食べた」


「……五日は食べてない。ポーションと干し肉だけだった」


五日——それだけあれば兆候が出始める。歯茎の腫れも口には出さなかったが今は食わせる方が先だと、試作場から持ってきていた小瓶を出した。


「これを食べろ」


リナが瓶を見た。


「……なに、これ」


「ザワークラフトだ——発酵させた野菜で、以前試作したやつの改良版だ。酸味があるが香草と合わせると和らぐ」


香草を添えた小皿を一緒に置いた。


リナが瓶を開けて、鼻を近づけた。眉が動く。


「……酸っぱい匂いがするわ」


「酸っぱい。ただ腐ってはいない」


「前に客に出して怒られたやつじゃないの」


「改良している。香草と合わせると酸味が和らぐ」


リナがしばらく瓶を見ていた。それから少量を指先で取って、口に入れた。


少し間があった。


「……思ったよりは食べられる」


「そうだろう」


「褒めてないわよ」


「分かってる」


リナが香草と合わせながら少しずつ食べた。全部ではないが半分ほどは食べて、食欲がないと言っていたが口をつけ始めると止まらない——体が欲しているのかもしれない。


「なんで急に出したの」


「五日野菜なしで潜れば体に支障が出る。これを食えば多少は補える」


リナが少し黙った。


「……ダンジョンに持ち込めるものを作ってるの?」


「揚げ物の付け合わせとして出す形なら受け入れられるかもしれない。地上で食べてもらう分には、これで十分だ」


リナが瓶を見た。


「これ、そのままじゃ商品にならないって言ってたわよね」


「味の問題は残っている。ただ効果はある——野菜が摂れない状況での代替になるかを確認したかった」


「つまり私は実験台」


「協力者だ」


リナが短く息を吐いてまた少し食べたとき、ミレイが夕食の揚げ物を持ってきた——ダストチキンを一口大に切って塩と粉をまぶして油で揚げたもので、脂の匂いが広がる。


リナが揚げ物を一口食べ、少し間があった。


「……なにこれ。外がかりっとしてる」


「ダストチキンを粉をまぶして油で揚げた」


「揚げる……? 油の中に入れるの?」


「そうだ」


リナがもう一口食べた。目が少し動く。


「……脂っこいけど、おいしいわ。初めて食べる感じ」


それから何気なくザワークラフトを一緒に口に入れた。


少し間があった。


「……あれ」


「どうした」


「なんか、さっぱりするわ。さっきの脂っこさが消える感じ」


(やはりそうか)


試食を重ねる中で気づいていたことだった——ザワークラフトの酸味は単独では主張が強すぎるが、脂の多い料理と合わせると互いを引き立てて揚げ物の重さが消え次の一口が食べやすくなる。


リナが揚げ物とザワークラフトを交互に食べている。さっきまでより明らかにペースが上がっていた。


「……これ、セットで出せばいいんじゃないの?」


「そう思っている」


「じゃあ商品になるじゃない」


「揚げ物と一緒に出す形なら、な」


メモに書き留めた——揚げ物との組み合わせで受け入れられる可能性あり、食堂形式で出す場合の候補。


「……次、潜るときも持っていきたいんだけど——でも匂いが漏れたら魔物を引き寄せそうよね」


「止めておけ。密閉しても食べるときに開ければ匂いが出る——ダンジョンの中では使えない」


「……そうよね」


リナが瓶を見た。少し残念そうだった。


---


翌朝、鍛冶屋へ向かった。


「発注する。前回預けた設計図の件だ」


店主が棚から設計図を出した。広げて、追加で描き込んでいた容器の寸法を確認している。


「前払いは銀貨五枚でいいか。残りは受け取り時に」


「構わない」


銀貨五枚を渡すと、店主が設計図を巻いて別の棚に入れた——発注済みの仕事を置く場所だろう。これで動き始める。


「仕上がりはいつ頃になる」


「弁と容器を合わせて、十日から十二日だ。複雑な加工が入るから、少し余裕を見てくれ」


「分かった」


店を出た。十日後——それまでにリナが次の潜りから戻っていれば、実験の準備が揃う。


---


【借金メモ・83話終了時点】

前話(82話)終了時:資金銀貨八枚と小銀貨九枚と大銅貨四枚・残債なし

83話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二百八十本(小銀貨一枚×二百八十=銀貨二十八枚)+初級ポーション(作澄:緑)九十八本(大銅貨八枚×九十八=銀貨七枚と小銀貨八枚と大銅貨四枚)=銀貨三十五枚と小銀貨八枚と大銅貨四枚

83話支出:従業員給与ミレイ・フィア・ソル・充填×二・ダル・セイナ十四日分(銀貨七枚と小銀貨六枚)+発注前払い(銀貨五枚)+食事分十四日(大銅貨一枚四枚)=銀貨九枚と小銀貨七枚と大銅貨六枚

ケイの資金:銀貨三十五枚

残債:なし

---

【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り9日

試作場:次回支払いまで残り2日(次話で支払い予定)

---

【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)

---

読んでくださってありがとうございます。

続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや★評価で応援していただけると嬉しいです。更新の励みになります。

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ