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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第81話『設計図と風』

明後日から来てほしいと伝えていた二人が、第三鐘前に来た。


加熱担当の男——ダルと名乗った——は革の前掛けを持参していて、前の工房でも使っていたものだろう、使い込まれた色をしている。濾過担当の女——セイナと名乗った——は手ぶらで来て、棚の配置を目で確認してから定位置に立った。


フィアとソルが向かい合って待っていた。


「今日から初級ポーションの工程を教える。まず一から見てもらう」


フィアがダルに向いた。余計な挨拶はない。


「加熱の手順から始める。見ていてくれ」


ダルが頷く。ソルがセイナの方へ向いた。


「濾過は隣で手順を見せる。質問は後でまとめて聞いてほしい」


セイナが静かに頷いた。


作業が始まると、フィアの動きは無駄がなくダルはその手先を一度も視線を外さずに見ていた。ソルは説明が短く手順を見せてからセイナが理解したかどうかを目で確認してから次に進み、セイナも口を挟まない。


四人のやり取りを横目で確認しながら、今日の仕込みに入った。


問題は起きなかった。


---


昼を過ぎてから、リナに声をかけた。


「少し聞きたいことがある」


リナが帳簿から顔を上げる。


「風魔法で密閉した容器の中から空気を引き出すことができるか」


リナが少し間を置いた。


「……どういう用途?」


「風魔法で密閉した容器の中から空気を引き出すことができるか」


リナが少し考える。


「やってみないと分からないわ。風の方向を細かく制御するのは得意だけど、容器の口に向けて内側の空気だけを引き出すというのは、試したことがない」


「できない可能性もあるか」


「ある。ただ、できない理由も今は分からない——やってみないと」


「分かった。試す機会を作る」


リナが少し眉を上げた。


「それ、保存食の話よね? ポーションじゃなくて」


「そうだ」


「随分遠回りしてるわね」


「発酵も油も乾燥も魔法も通らなかった。これが今残っている方向だ」


リナが少し考えてから、帳簿を閉じた。


「……いいわよ。試してみる」


---


夕方、試作場に向かう前に鍛冶屋に寄った。


薬草通りから一本入った路地に、鍛冶屋が一軒ある。扉を押すと金属の匂いと熱気が来た。


「一方向弁を作ってほしい」


店主の男が顔を上げた。五十代ほどで、腕が太い。


「どういうものだ」


「気体が一方向にしか通らない弁だ。押し込む方向には開いて引き戻す方向には閉じる——容器の口に取り付けて内部の空気を外に逃がすが、外気が入ってこないようにしたい」


男が少し考えて、奥から紙を持ってきた。


「描いてみてくれ」


紙と炭を渡された。弁の断面を描く——円筒の内側に薄い金属板が蝶番で固定されていて、内圧が上がれば板が開き外圧がかかれば板が閉じる仕組みで、密閉のために縁にはめ込むパッキンも描き加えた。


男が図を見てしばらく黙っていた——図を横に倒したり断面の寸法を指でなぞったりしてから、顔を上げた。


「作れるが、オーダーメイドになる。こういう弁は既製品にない」


「費用は」


「この精度で作るなら、金属の種類にもよるが——最低でも大銀貨一枚はかかる。パッキンの素材次第でもう少し上がる」


大銀貨一枚——銀貨十枚に相当する。今の手持ちから出せない金額ではないが、試作段階で投じる額としては重い。


「素材によって変わるか」


「変わる。安い金属で作ればもう少し下がるが耐久性が落ちる——試作用に一本作るなら安い方で試して、うまくいったら本番用を作り直す手もある」


「安い金属で作った場合の費用は」


「銀貨六枚から七枚といったところだ」


少し考える。


「一週間待てるか」


「受注が入ってるが、十日あれば対応できる」


「では持ち帰って検討する。設計図を置いていっていいか」


「構わない」


---


帰り道、頭の中で試算する。


安い素材で銀貨六枚から七枚。リナの風魔法が使えるかどうかまだ分からない——使えなければ弁を作っても意味がなく、順序としてはリナが試してから発注する方が合理的だ。


試作場に寄って、リナを待った。


しばらくしてリナが来た。扉の前に立って、中を見回す。


「ここで試すの?」


「地下に壺がある。口の部分を使って試してみてほしい」


地下に下りて空の陶器壺を出し、蓋は外してある。壺の口に向かってリナが手をかざす。


しばらく何も起きなかった。リナの指先がわずかに動いて、壺の口の縁に沿うように風が流れているのが空気の揺れで分かった。


少し間があった。


「……難しいわね。口が狭いから、風を細く絞る必要がある」


「できそうか」


「できないとは思わないけど、精度が要る——今日すぐというのは難しいわ。少し練習が必要」


「いつ頃できる」


「二、三日もらえれば試せると思う」


「分かった。急がなくていい」


リナが壺の口をもう一度見てから、顔を上げた。


「費用の方はどうだった?」


「銀貨六枚から七枚——安い素材で作った場合だ。本番用を別に作るとさらにかかる」


リナが少し口を開けた。


「……高いわね」


「試作段階の費用だ。リナが試して、風魔法で空気を引き出せるなら発注する」


「つまり、私次第ってこと」


「そうだ」


リナが少し間を置いて、息を吐いた。


「……やってみるわよ。ただ、うまくいかなくても怒らないでね」


「怒らない」


「それだけ言えるの、なんか怖いわね」


扉を閉めた。


---


【借金メモ・81話終了時点】

前話(80話)終了時:資金銀貨六枚と小銀貨五枚・残債なし

81話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(小銀貨一枚×二十=銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚

81話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨七枚)+フィア・ソル・充填×二(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+ダル・セイナ(大銅貨十枚)+食事分(大銅貨一枚)=小銀貨三枚と大銅貨四枚

ケイの資金:銀貨八枚と小銀貨七枚と大銅貨二枚

残債:なし

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り16日

試作場:次回支払いまで残り9日

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)


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読んでくださってありがとうございます。

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次回もよろしくお願いします!

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