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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第80話『冷却の魔法』

三日後、油漬けの壺を開けた。


油の濁りはなかった——それは予想より良い結果で、素材を取り出して確認するとシュゴリーフの色は保たれエンシンルートの形も崩れていない。鼻を近づけると油の香りが先に来て、その下に野菜の匂いがある。


少量を口に入れた。


油の風味が強く、素材の味はその下に沈んでいて引き出しにくい。悪くはないが油の量に素材が負けていて、この方法はこの素材には合っていない可能性がある。


(保存はできている。ただ、食べるものとして成立していない)


壺を棚に戻して、石段を上がった。


---


乾燥は翌日から試した。


シュゴリーフを薄く切り作業台の上に広げて風通しの良い場所に置いておくが、試作場の厨房は窓が少なく乾燥に向いた作りではない。二日経っても中心部の水分が残っていて、表面だけが乾いた状態になった。


三日目に確認すると、一部に変色が出ていた。腐敗ではないが、食品として出せる状態ではない。


(乾燥させるための設備がない)


薄切りにした素材を均一に乾燥させるには、熱源か強い気流か、あるいは両方が必要だ。今の環境では無理だという結論が出た。


---


店に戻る途中、リナに経過を話した。


「発酵は見た目で拒否される。油漬けは保存できても味が問題で、乾燥は設備が足りない」


リナが少し考える。


「魔法は考えた? 保存とか、腐敗を遅らせるものとか」


「詳しくは知らない。魔法ギルドで聞けるか」


「聞くだけなら入れると思うわ」


---


翌朝、仕込みを終えてから高台へ向かった。


石段を上がると塔が見えてきて、近づくと外気とわずかに違う空気がある——薬品の刺激臭とは異なる静かで乾いた空気で、以前に秘密保持の魔法契約で来たことがある場所だ。


受付の女に用件を伝えると、奥から四十代ほどの男が出てきた。腕に複数の刻印が見える。


「食品の保存に使える魔法について聞きたい。腐敗を防ぐか遅らせる用途があれば」


男が答える。


「防腐の術式は存在しますが、対象は主に木材や革製品です。食品に使う場合は術式が素材に直接作用するため風味や食感が変化して、食べることを前提とした用途には向いていません」


「冷却は? 温度を下げる魔道具や術式は」


「冷却の魔道具は製品化されていません。ただ氷属性の魔法は存在します——術者が直接使う分には、対象を凍らせることは可能です」


(凍らせることができる)


「氷属性の術者はこの街にどの程度いるか」


「希少です。水と風の両属性を持つ者自体はそれなりにいますが、二属性を同時に制御して氷魔法として扱えるまで習熟した者は少なく、当ギルドの登録でもEランク以上で実用できる者は両手で数えられる程度です」


少し間があった。


「参考として聞く——ここで薬草の乾燥はどうやっているか」


男が少し意外そうな顔をした。


「魔法による急速乾燥です。術式で素材内部の水分を均一に飛ばすため、外側からの加熱ではなく変色や成分の変質が起きにくい」


奥の作業場の方を見ると、棚に薬草が並んでいて術者が一人手をかざしていた。薬草の周囲の空気がわずかに揺らいでいる。


(内部の水分だけを均一に飛ばす——熱を使わず、形を保ったまま)


---


試作場への道を歩きながら、頭の中で手順を組み立てた。


魔法ギルドで見た薬草の急速乾燥——内部の水分を均一に飛ばし、形も色も変えない。あの原理を食品に応用できれば、発酵でも油でもなく、素材をそのままの状態で保存できる。


氷属性の魔法を使えば素材を凍らせられて、凍らせた状態から水分を昇華させれば液体を経ずに気体として抜ける——それが凍結乾燥の仕組みで、見た目も風味も保ったまま水分だけが消える。ただし水と風の両属性を同時に制御して氷魔法として使いこなせる術者は希少で、継続的に確保できる相手がいなくコストも読めない。


(氷魔法に頼る方向は、仕組みとして不安定すぎる)


ならば凍結なしで同じ結果を出せるか。


凍結乾燥の核心は水分を液体にしないまま気体として抜くことで、そのために凍結が使われるが凍結以外に方法がある——真空だ。容器内の気圧を下げれば常温でも水分が蒸発しやすくなって、気圧が下がるほど沸点が下がり低い温度で水分が気体に変わる。


(真空を作れるなら、凍結は不要だ)


風魔法で密閉容器の内部から空気を引き出せれば、気圧が下がる。気圧が下がった容器の中に素材を入れれば、常温のまま水分だけが蒸発していく——見た目も風味もほぼ変えずに、乾燥した保存食ができる。


問題は一つだけだ——容器の口から空気を引き出そうとすると外気が流入してくる。内部の気圧を下げたまま保つには、抜く方向には開いて逆方向には閉じる弁の仕組みが必要になる。


(陶器ではなく、金属か魔道具で作れるものがあるかもしれない)


密閉と弁の精度が必要なら、鍛冶屋か魔道具屋に相談できる。魔道具がある世界だ——気圧の差を利用した仕組みを既製品で代用できるか、あるいは職人に依頼して作れるかを確認する方が早い。


試作場の扉を開ける。


凍結乾燥は諦めた——真空乾燥であれば、季節も氷魔法も関係ない。ただリナの風魔法が精密な制御に使えるかと、弁の調達が現実的かという二つの課題が残っている。


今日は弁の設計を考えるところまでだ。扉を閉めた。


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【借金メモ・80話終了時点】

前話(79話)終了時:資金銀貨五枚と小銀貨四枚と大銅貨三枚・残債なし(完済)

80話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(小銀貨一枚×二十=銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚

80話支出:従業員給与ミレイ・フィア・ソル・充填×二・新規×二四日分(銀貨一枚と小銀貨四枚と大銅貨八枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨一枚と小銀貨四枚と大銅貨九枚

ケイの資金:銀貨六枚と小銀貨五枚

残債:なし

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り17日

試作場:次回支払いまで残り10日

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)

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