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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第79話『完済』

第四鐘の少し前に、三人が「煙と真理」の紹介状を持って来た。


一人目は三十代半ばの男で、背が高く手首が太く、前職は別の錬金術師の工房で加熱担当だったと言う。もう一人は二十代後半の女で話し方が端的で視線が安定しており、濾過を三年やっていた——三人目の若い男は二十歳前後に見えて、魔力ポーションの調合経験があると言ったが声に少し力みがある。


三人を作業台の前に並ばせ、フィアとソルを隣に立たせた。


「今日は工程の概要を説明する。その後、個別に話を聞く」


フィアが加熱工程の流れを短く説明した——素材の種類、火加減の調整、完成の判断基準。余計なことは言わずソルが濾過の手順を続け、三人とも黙って聞いていた。


説明が終わってから、個別に話す。


最初に若い男を呼んだ。魔力ポーションの調合経験があると言ったが、詳しく聞くと独学で数本作った程度で、工程を分業で担うには経験が薄い——見込みはあるが、今必要な即戦力ではない。


「今回は見送る。経験を積んでからまた来てほしい」


若い男が短く頭を下げ、出ていった。


次に三十代の男を呼ぶ。加熱担当の経験が三年あり前の工房での分業体制も理解していて、フィアが隣で聞きながら一度だけ口を開いた。


「素材の火加減は毎回同じですか、それとも状態を見て変えますか」


男が答える。


「状態を見て変えます。素材の水分で調整が要る」


フィアが頷く——それだけで終わりで、声に余分なものがない。前の工房でも同じように聞かれてきたのかもしれない。


最後に二十代の女を呼ぶ。濾過三年の経験は申し分なく、分業の説明を聞いたときに最初から頷いていて、ソルが一つ確認した。


「前の仕事はなぜ辞めましたか」


「工房が閉まりました」


ソルが短く頷く——それだけで終わりで、答えが短く余計なことを言わない。ソルが確認したかったのも、そこだったかもしれない。


二人を採用することにした。


「明後日から来てほしい。今日は天秤座で契約を結ぶ——秘密保持の魔法契約も含むが、異論があれば今のうちに言ってほしい」


三十代の男が確認する。


「日当は」


「初級ポーション担当で大銅貨五枚——フィアとソルに工程を教わりながら習熟してもらって、問題なければ上積みの話をする」


二人とも頷いた。


---


天秤座でリナが代筆する——二名分の雇用契約と秘密保持の取り決め、手数料の大銅貨五枚を払って手続きを終えると、外に出たとき日が西に傾いていた。


「一枠足りないわね」


「当面は三人で回す。魔力ポーションの担当は追加募集する」


「いつ?」


「フィアとソルが新しい二人に教え始めてから——工程が安定するまでは人を増やすより先にやることがある」


ミレイが頷いて、帳簿に書き込む。


夜、試作場に寄ると、リナがすでに来ていた。


扉の外の石段に腰を下ろして、帳簿を膝に置いている。月明かりが薄く差している。


財布から硬貨を出して、リナの前に置いた。


「残りだ。小銀貨一枚と大銅貨二枚」


リナが受け取り、帳簿を開いて数字を確認する。少し間があった。


「……合ってるわ」


帳簿に線を引いて閉じた。重さが消えた感覚がある。


「ところで」とリナが言う。「利息、どうしようかしら」


「決めていなかったのか」


「決めてなかったわ。……まあ、なしでいいわよ」


少し間があった。


「只より高いものはない、という話がある」


リナが目を丸くした。


「……何それ」


「ただでもらう方が、後で何を要求されるか分からない。利息を取る方が関係がはっきりする——利息なしというのは、回収の形が別にあるということかもしれない」


「……何を取るつもりなのかしら」


「まだ分からない。ただ、完済したからといって終わりとは限らない」


リナが石段の上を見て、それから膝の帳簿を見た。


「……そういうことを、なんで最初に言わないのよ」


「言っても変わらない。返せるうちに返すことだけ考えていた」


リナが短く息を吐く。


「まあ……完済はしたわけだし、いいわよ」


「そうだな」


二人並んで、しばらく黙っていた。


---


リナが帰った後、石段を下りて地下に入る。


棚の前に立ち、今日やろうと決めていたことを確認する。


油漬けだ——発酵は通らなかったし見た目が変わる保存方法は受け入れられない。油の中に沈めれば空気と遮断できて腐敗の速度が落ち、見た目も匂いも大きく変わらないまま保存期間が延びる可能性がある。


今日用意したのは、市場で買ったオリーブに近い植物から搾った淡い黄色の油と、シュゴリーフとエンシンルートだ。シュゴリーフは刻まず大きめに切り、エンシンルートは一口大に揃えた。


陶器の口の広い壺に油を注ぎ、素材を沈める。


空気が入らないよう油の量を多めにして、蓋をする。重しは使わない——油が蓋の役割を果たす。


壺を地下の棚に置いた。


何日待てばいいか分からない——三日か五日か。今回は匂いの変化ではなく素材の状態と味を基準に判断して、油が濁っていれば問題が出ていて、濁りがなく素材の状態が保たれていれば次の段階に進める。


(見た目が変わらなければ、客は受け入れるかもしれない)


それが今回の仮説だった——発酵と違うのは油の中では素材がほぼそのままの形を保つ点で、色も形も大きく変わらず匂いは油の香りが加わるが腐臭ではない。正しいかどうかは、開けてみれば分かる。


石段を上がり、扉を閉めた。今夜できることはやった。


---


【借金メモ・79話終了時点】

前話(78話)終了時:資金銀貨三枚と小銀貨二枚と大銅貨八枚・残債小銀貨一枚と大銅貨二枚

79話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(小銀貨一枚×二十=銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚

79話支出:天秤座契約手数料×二名(大銅貨五枚)+従業員給与ミレイ(大銅貨七枚)+フィア・ソル・充填×二(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+油・食材購入(大銅貨三枚)+食事分(大銅貨一枚)=小銀貨二枚と大銅貨二枚

残債充当:小銀貨一枚と大銅貨二枚を全額充当→完済

ケイの資金:銀貨五枚と小銀貨四枚と大銅貨三枚(手元残)

残債:なし(完済)

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【賃料管理メモ更新】

緑の雫(店舗):次回支払いまで残り21日

試作場:次回支払いまで残り14日

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)

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読んでくださってありがとうございます。

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次回もよろしくお願いします!

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