第74話『見学』
翌昼、裏通りに向かった。
煮込み屋の扉を開けると、老人が奥から出てきた。荷物の片付けの途中らしく、棚がいくつか空になっている。
「緑の雫の店主か。話は聞いた」
「見せてもらえるか」
老人が奥へ案内する。
厨房に入ると石床で、長年使い込まれて表面が滑らかになっている。隅の溝に排水が通っていて、大きな水場が壁際に設けてあり石造りの流し台が二つ並んでいる。
「水は井戸から引いている。今も使える」
仕込みの大鍋がいくつか残っていて、床には樽を長年置いていた丸い跡が複数ある。
「樽はどこに」
「ほとんど処分したが置けるスペースは十分ある。奥の棚も外せる」
厨房の奥に扉があった。
「地下だ」
石段を下りると、温度がひと段階下がる。石造りの壁に棚が並んでいて、かつて壺や瓶が置かれていた跡がある。
(温度が低い。安定している)
地上の温度変化がここまで届いていない感触がある。夏場でも一定の冷涼さが保たれるはずだ。
老人が壁の一角を指した。
「前の店主から引き継いだもので、温度を一定に保つ魔道具だ。今でも動いている」
壁に埋め込まれた小さな石板に、かすかに魔力の光が宿っている。石板に触れると、空気を一定の温度に保つ微弱な力が伝わってくる。
「これも含めて貸せるか」
「備品として残す。ただ修理が必要になったときは借り主の負担だ」
(発酵に向いている)
地下の温度は安定していて薬草の匂いもなく、樽を並べるには十分な広さがある。
地上に戻る。
厨房の窓は小さく外気の影響が少ない。食品だけを扱ってきた場所で、薬草の匂いもない。
(ここがいい)
「家賃はいくらか」
「月に銀貨一枚と小銀貨三枚だ。保証金は銀貨三枚」
今の店の月賃料は銀貨一枚と小銀貨七枚——それより少し安い。保証金は今の店が銀貨八枚だったが、調合場として使っていないこともあり低めに抑えられている。
「契約は商業ギルドを通すか」
「そうだ。正式な手続きはギルドでやってくれ、今日中に意向だけ伝えてもらえると助かる」
少し考える。
月に銀貨一枚と小銀貨三枚を払いながら残債を返せるかどうか。今の収益から給与・素材代・食費・現在の家賃を引いた残りで、追加の家賃と保証金を出せるかどうか。
(保証金三枚は今の資金で払える。月賃料は厳しいが、不可能ではない)
「借りたい。今日中に天秤座で手続きをするので、そちらも同席してもらえるか」
老人が頷く。
「分かった。昼過ぎなら出られる」
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【借金メモ・74話終了時点】
前話(73話)終了時:資金銀貨九枚と大銅貨六枚・残債大銀貨二枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚
74話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(小銀貨一枚×二十=銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨二枚と小銀貨五枚と大銅貨六枚
74話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨七枚)+フィア・ソル・充填×二(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+天秤座契約手数料(大銅貨五枚)+保証金(銀貨三枚)+初月賃料(銀貨一枚と小銀貨三枚)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨四枚と小銀貨三枚と大銅貨九枚
残債充当:なし(支出が多く充当分なし)
ケイの資金:銀貨七枚と大銅貨五枚
残債:大銀貨一枚と銀貨七枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚(変動なし)
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【所持アイテムメモ】
ポーション類
初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作淡濁:緑・試作強化版) × 1本(ミツロウソウの雫一滴添加・効能確認待ち)
初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)
初級魔力ポーション(作淡濁:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨三枚で販売中)
初級魔力ポーション(作澄:白) × 製造中(ケイ直接・小銀貨四枚で販売中)
初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(4本/20本)
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