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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第3章

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第67話『症例』

冒険者ギルドに入ると、午前の受付が動いていた。


カウンターの奥に声をかける。バルドの在室を確認すると、三階への階段を示された。


バルドは机の前で書類を確認していて、入ってきたのを見て手を止めた。


「緑の雫か。何かあったか」


「ダンジョン病の話を聞きたい。症例の記録があると聞いた」


バルドが少し間を置いてから椅子を引く。


「座れ」


バルドが机の引き出しから厚みのある帳面を出した。手書きの記録が何年分も積み重なっている。


「ダンジョン病は第三層以降で三日以上過ごしたパーティに出る。症状は毎回似ていて、体がだるい、食欲がない、傷の治りが遅い——ポーションを飲んでも治りきらずにそのうち動けなくなる者が出る」


「発症までどのくらいかかる」


「早い者で四日、遅い者で八日前後だ。第四層まで入って帰ってきた翌日に倒れた者もいる」


(四日——それだけ短期間で症状が出るのか)


「死者は出たか」


「ここ数年では出ていない。ダンジョン産の上級ポーションを使うか地上に出て食事を取れば回復するが、第三層で倒れた場合は仲間が担いで帰るしかなくて、そこで死んだ者は過去に何人かいる」


バルドが帳面を開いて一枚指す。


「ここ三年の記録だ。発症した者は全部で十七名、全員Dランク以上——Gランクが第三層に入ることは通常ない」


「発症した者の食事内容は記録にあるか」


バルドが帳面を繰る。


「干し肉、固いパン、塩漬け——どの記録も大差がない。水はダンジョン内の湧き水を使っていた者と、持ち込んだ者とで分かれる」


「新鮮な野菜や果物を持ち込んだ者は」


「ほぼいない。重いし傷むから持てないという話だ」


少し考える。


「その十七名——地上に出てから何を食べたら回復したか分かるか」


「記録まではしていないが、食事を取って二日以内に動けるようになった者がほとんどだ。ポーションを飲まずに食事だけで回復した者もいる」


(食事で回復する。やはり食べ物の問題だ——ただ、なぜダンジョン産の上級ポーションでも治るのかが分からない)


「ギルドは対策を検討しているか」


「している。ただ答えが出ていない」


バルドが帳面を閉じる。


「食事を持ち込めれば解決するが、何日分も担いで戦えるランクは限られる。今は発症したら即帰還する方針でやっているが、根本的な解決じゃないことは分かっている」


「話を聞かせてくれて助かった」


「何か分かったら教えてくれ。薬師のイルゼが記録を持っていて、南区の薬師通りにいる」


---


薬師通りに入ると、奥から薬品の匂いが流れてくる。


イルゼの薬舗は間口が狭く、棚に詰め込まれた瓶と乾燥草の束が天井まで並んでいた。


白髪を後ろで束ねた小柄な老女が、乳鉢で何かをすり潰しながら顔を上げる。


「ポーション屋さんかね。珍しい」


「ダンジョン病について聞きたい」


「座りな」


低い椅子を示して、自分は作業を続けながら話す。


「あれはね、体が欠けるんだよ。何かが足りなくなって体が動かなくなる——傷が治らないのも、だるいのも、全部同じ原因から来てる」


「何が欠けるか分かるか」


「分からないの。三十年調べているけど、何が原因か特定できていない——ただ」


イルゼが手を止めて、こちらを見る。


「新鮮な草や果物を食べると治るのは確かだ。焼いたり干したりしたものでは効かなくて、採れたての生のもの——水分が多いものの方が回復が早い」


(生のもの——加熱すると失われるものがある。それが何か、この世界の人間にはまだ分かっていない)


「ダンジョン産の上級ポーションでも治ると聞いた」


「そうだよ。不思議なことに普通のポーションでは効かないのに、ダンジョン産の上級だけは効く——中級でも効かなくて上級だけだ」


「なぜだと思う」


「ダンジョンの中には地上とは違う何かがあって、魔力の濃さとも違う。ダンジョン産の素材には地上では取れない成分が含まれている可能性があるけど、中身を解析する手段がないから証明できない」


少し黙る。


(ダンジョン産の上級ポーションに、壊血病に効く成分が含まれている可能性がある。だとすれば、ダンジョン産の素材から地上でも作れるものがあるかもしれない——ただ、それが壊血病と同じ仕組みなのかどうか、まだ分からない)


「予防策は考えているか」


「ギルドとも話したよ。生の草か果物を加工して持ち込む方法を探しているんだけど傷みが早くて実用にならなくて、長期間持ち運べる形にできれば話が変わるのにね」


イルゼが乳鉢を置いて、改めてこちらを見る。


「あんた、調合師だろ。何か思い当たることがあるから来たんじゃないのかい」


「仮説がある。ただまだ確かめていない」


「急がなくていい。ここ三十年で誰も解決しなかった話だし、何十人も診てきたけど原因が分からないまま死んだ者もいた——ただ解決できたら、それは本当に大勢の命に関わるから」


店を出る。薬品の匂いが薄くなっていく。


---


帰り道、頭の中を整理する。


発症は四日から八日で、食事は干し肉と固いパンと塩漬けのみ。地上で生のものを食べると治るが加熱したものでは効かず、ダンジョン産の上級ポーションでも治る。


(元の世界の壊血病と症状が一致している部分は多いが、ダンジョン産の上級ポーションで治るという点が説明できない。壊血病ならビタミンCを補給すれば治るが、なぜダンジョン産の上級だけに効果があるのかが分からない)


(もしかすると壊血病に似た別の病気かもしれないし、この世界ではメカニズムが違う部分がある可能性もある。成分を調べられればいいが、この世界にはその手段がない——ただ俺には解析がある)


分からないことの方が多い。ただ、生のものを持ち込めば予防できる可能性があるという点は両者の話が一致していた。


(持ち込める形にする——それが課題だ。生のまま持ち込めないなら形を変えるしかなく、小さく、軽く、傷まない形にする必要がある)


店が見えてくる。


今日聞いたことを整理して、次に何を確かめるかを考えながら扉を開けた。


---


【借金メモ・67話終了時点】

前話(66話)終了時:資金銀貨一枚と小銀貨八枚と大銅貨四枚・残債大銀貨三枚と銀貨八枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

67話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)二十本(大銅貨六枚×二十=銀貨一枚と小銀貨二枚)+初級ポーション(作澄:緑)七本(大銅貨八枚×七=小銀貨五枚と大銅貨六枚)=銀貨一枚と小銀貨七枚と大銅貨六枚

67話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨七枚)+フィア・ソル・充填×二(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+リナ帳簿管理費(小銀貨一枚)+食事分(大銅貨一枚)=小銀貨三枚と大銅貨四枚

残債充当:銀貨三枚を充当→残債大銀貨三枚と銀貨八枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚から充当→大銀貨三枚と銀貨五枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

ケイの資金:銀貨一枚と大銅貨六枚

残債:大銀貨三枚と銀貨五枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 20本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作澄:緑) × 7本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中・旧在庫)

 初級ポーション(作濁:緑) × 大保存瓶四本目充填中(累計9本/20本で満杯)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白)× 完売

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 完売

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(1本/20本)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 約四十枚

 ハコネソウ生葉 × 約四十六枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 約四十一グラム

 アオバクサ生葉 × 残一枚(次回試作不可)

 スイショウカズラの実 × ゼロ

 ミツロウソウの雫(小瓶) × 一本(ダンジョン産・効能不明・解析待ち)

 ホシクサの露(小瓶) × 一本(ダンジョン産・効能不明・解析待ち)


道具類

 調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式×二組

 保存瓶 × 約四十本(刻印済み・運用中)

 精密型刻印魔道具 × 一個(稼働中)


発注・依頼中

 採取クエスト(冒険者ギルド・Eランク以上指定)アオバクサ・スイショウカズラ:ウォルの森湧き水周辺・発注済み・未納品


採用・勤務中

 販売員:ミレイ(天秤座保証・正式長期契約・日当大銅貨七枚・六ヶ月更新)

 生産者A(加熱担当):フィア

 生産者B(濾過担当):ソル

 充填作業員×二


量産体制

 一日三十本(作淡濁二十本・作澄七本・作濁三本)

 販売対象:作淡濁・作澄のみ

 作濁累計:9本(67話末時点)・次の満杯まで11本

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次回もよろしくお願いします!

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