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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

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第65話『処分』 Side:商人

路地の両端に守備隊がいた。前に二人、後ろに一人。


男が立ち止まる。革鞄を持った手が、動かなくなる。


「商人か。商業ギルドの依頼で同行してもらう」


逃げる場所がない——走っても前後を挟まれている。男が静かに鞄を地面に置き、両手を開いた。


---


天秤座の調査室に、二日ぶりにトリウスが呼ばれた。


向かいの席に初めて見る顔があった。守備隊の制服を着た男で、担当者が書類を開く。


「供述と照合する。南東区の石造り——その商人の倉庫で、ポーションの詰め替えが行われていたという話だったな」


「そうだ」


「倉庫の棚の配置、作業台の位置、使われていた瓶の種類を話せ」


トリウスが順に答える。守備隊の男が紙に書き取っていく。


「緑の雫に色を似せた瓶は、どこから調達していたか」


「男が東区のガラス工房に特注していたと聞いた——直接は知らず、俺が受け取るときには既に瓶に入っていた」


担当者が守備隊の男と目を合わせる。


「ガラス工房の特注記録は確認できたか」


「できた。三か月前から同じ規格の瓶を月二百本発注していた記録がある——緑の雫の標準瓶と同じ規格だ」


書類が一枚追加される。


「偽の当事者を立てた件はどこまで知っているか」


「俺は知らない。そういう話は聞いていないし、俺がやっていたのは運搬だけだ」


「分かった」


担当者が書類を揃えて立ち上がる。トリウスはまた廊下の椅子に戻された。


---


男が調査室に通されたのは夕方だった。


机の上に書類の束が置いてある。担当者が一枚ずつ開きながら話す。


「ガラス工房の特注記録、持ち込みを受けた商店五軒の証言、トリウスの供述——三つが揃った。商業ギルドの規約では、他の登録店舗の商品に外観を模倣した品を製造・流通させた場合、不正競争として処分の対象になる」


男が黙っている。


「加えて、偽の当事者を使って虚偽の評判を流布した件は風評毀損として別途扱う。金で動かした人物の供述も取れている」


「……供述は取れたのか」


「当事者が昨日の朝、自ら天秤座に出頭した。酒場で疑問を呈した冒険者から問い詰められて、持ちこたえられなかったらしい」


男が少し目を閉じる。


(あの冒険者か)


一人疑問を呈した人間が、証言を崩した。金で動く人間を使った時点で、どこかで綻びる可能性があったのだ。


「処分を聞く」


「商業ギルド登録の取り消しとアウラム支部管轄内での五年間の営業停止。加えて、緑の雫への営業損害補償については追って算定する」


「異議は」


「……ない」


担当者が書類を閉じる。


「守備隊に引き渡す。拘留期間は別途通知される」


男が立ち上がる前に、一つだけ聞く。


「緑の雫は——今、どうなっている」


「通常通り営業している」


男が何も言わずに立ち上がった。


---


翌朝、天秤座の担当者が店に来た。


リナが対応して、奥に声をかける。


「トリウスの供述から粗悪品の指示元が特定されました。南東区の商人で、緑の雫に色を似せた瓶をガラス工房に特注して倉庫で詰め替え、トリウスに流させていました」


「刻印を入れた後も動いていたのか」


「はい。偽造が難しくなった段階で方針を変えて金で人を雇い、虚偽の評判を流させていましたが、昨日その当事者が自ら天秤座に出頭して、酒場で問い詰められて持ちこたえられなかったようです」


「その商人の身柄は」


「昨夜確保しました。本日付けで商業ギルド登録の取り消しと五年間の営業停止が確定していて、緑の雫への損害補償については追って算定します」


「分かった。告知は出るか」


「はい。虚偽の評判が流されていた旨を、冒険者ギルドと当組合の掲示板に今日付けで掲示します」


少し間を置く。


「それだけでいい。告知を出してくれ」


担当者が頷いて出ていく。


リナが横に立ったまま、少し黙っていた。


「終わったわね」


「終わった」


二人とも、しばらく何も言わなかった。


昼前、来客が続いた。


一人が棚を見回してから声をかける。


「刻印の話、掲示板に出てたな。偽物を流してた奴が捕まったって」


「そうだ」


「じゃあここが本物ってことで間違いないな」


「間違いない」


男が三本まとめて荷カバンに収めた。次の客もすぐ来て、ミレイが淡々と対応している。


夕方、ミレイが今日の数字を報告する。


「三十一人でした」


三十一人——偽物騒動が起きる前の来客数を超えた。


何も言わずに頷く。ミレイも余計なことは言わず、棚の補充を続けている。


夜、リナと帳簿を確認し終えた後、しばらく無言が続いた。


「最初に粗悪品の話を聞いたのはいつだったか」


「夏の終わり頃だったわね。随分前の気がする」


「随分前だ」


じわりと、何かが腹の底に落ちていく感じがある——安堵とも疲れとも違う、ただ重さが抜けていく感覚だ。


(終わったんだ)


石臼を出す。今夜の仕込みを始める前に、一度だけ棚を見る。


淡く濁った緑が、刻印の入った瓶に並んでいる。


最初の一本を仕込んだ夜からずっとこの形だった。何も変えなかった。


石臼を動かし始める。


---


【借金メモ・65話終了時点】

前話(62話)終了時:資金銀貨二枚と小銀貨八枚と大銅貨四枚・残債大銀貨七枚と銀貨四枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

63・64話:ケイ視点なし・収支変動なし

65話収入:初級ポーション(作澄:緑)フィア作八本(大銅貨八枚×八=小銀貨六枚と大銅貨四枚)+初級ポーション(作淡濁:緑)ケイ作八本(大銅貨六枚×八=小銀貨四枚と大銅貨八枚)+初級魔力ポーション(作淡濁:白)試作品一本(小銀貨三枚×一=小銀貨三枚)=銀貨一枚と小銀貨七枚と大銅貨二枚

65話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨七枚)+フィア・ソル・充填×二(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+リナ帳簿管理費(小銀貨一枚)+食事分(大銅貨一枚)=小銀貨三枚と大銅貨四枚

残債充当:銀貨三枚を充当→残債大銀貨七枚と銀貨四枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚から充当→大銀貨七枚と銀貨一枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚

ケイの資金:銀貨三枚と小銀貨三枚と大銅貨二枚

残債:大銀貨七枚と銀貨一枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚


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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 10本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作澄:緑) × 6本(今日仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級魔力ポーション(作淡濁:白)× 完売

 初級魔力ポーション(作澄:白) × 完売

 初級魔力ポーション(作濁:白) × 大保存瓶一本目充填中(1本/20本)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大保存瓶三本(満杯・保管中)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 約三十七枚

 ハコネソウ生葉 × 約三十八枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 約三十三グラム

 アオバクサ生葉 × 残一枚(次回試作不可)

 スイショウカズラの実 × ゼロ

 ミツロウソウの雫(小瓶) × 一本(ダンジョン産・効能不明・解析待ち)

 ホシクサの露(小瓶) × 一本(ダンジョン産・効能不明・解析待ち)


道具類

 調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式×二組

 保存瓶 × 約七十本(刻印済み・運用中)

 精密型刻印魔道具 × 一個(稼働中)


発注・依頼中

 採取クエスト(冒険者ギルド・Eランク以上指定)アオバクサ・スイショウカズラ:ウォルの森湧き水周辺・発注済み・未納品


採用・勤務中

 販売員:ミレイ(天秤座保証・正式長期契約・日当大銅貨七枚・六ヶ月更新)

 生産者A(加熱担当):フィア

 生産者B(濾過担当):ソル

 充填作業員×二


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