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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
スペシャルスピンオフ──金と漆黒のヘテロクロミア

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§4 拒絶の鼓動

警報音が、地下施設に響き渡る。


赤い警告灯が明滅し、薄暗い通路を血のような色に染めていた。


慧吾は端末から目を離さない。


画面には無数の文字列が流れている。


《No.1201 覚醒プロセス 17%》


《感情制御システム起動》


《対象 No.06》


「止められるか」


諒介が端末に手を伸ばす。


慧吾は静かに首を振った。


「もう始まっている」


その瞬間。


地下全体が低く震えた。


遠くから、小さな悲鳴のような声が聞こえる。


「……!」


慧吾の表情が変わる。


「ノヴァだ」


走り出す。


諒介も迷わず後を追った。


その頃。


ノヴァは自室で胸を押さえていた。


「……いたい……」


鼓動が速い。


頭の奥で、誰かが囁いている。


《No.1201》


《帰還せよ》


「やだ……」


耳を塞ぐ。


声は止まらない。


《任務開始》


《No.06を確保せよ》


「ちがう……」


震える声で呟く。


「ぼくは……ノヴァだ」


《コードを修正》


《個体名 No.1201》


「ちがうっ!!」


叫んだ瞬間。


右目の金色が強く輝き、反対の漆黒の瞳は底なしの闇のように沈んだ。


二つの瞳が、まるで別々の意志を宿しているようだった。


「ノヴァ!」


慧吾が部屋へ飛び込む。


ノヴァは壁際で身体を丸めている。


「けいご……」


顔を上げたその瞳に、慧吾は息を呑んだ。


金色の瞳には涙。


漆黒の瞳には、何の感情もなかった。


「はなれて」


かすれた声。


「ノヴァ」


「おねがい……」


震える唇が言葉を紡ぐ。


「ぼく……けいごをきずつけたくない」


慧吾は一歩近づく。


「そんなことはしない」


「する!」


初めてだった。


ノヴァが慧吾に向かって叫んだのは。


「ぼくのなかにいるんだ!」


胸を押さえ、苦しそうに息をする。


「しらないだれかが……!」


ひくっ、喉が鳴る。


「けいごをつれてこいって……!」


手が震える。


「こわせって……!」


言葉の最後は嗚咽に変わる。


慧吾は静かに膝をついた。


目線を合わせる。


「ノヴァ……聞け。お前は兵器じゃない。俺たちの家族だ」


ノヴァは首を振る。


涙が止まらない。


「だったら……」


小さく笑った。


その笑顔は、泣いている子どものものだった。


「だったら……ぼくがいなくなれば」


慧吾の瞳が見開かれる。


「みんな……たすかる」


その瞬間だった。


漆黒の瞳がぎらりと光る。


ノヴァの身体が跳ねるように起き上がる。


「ノヴァ!」


慧吾が腕を掴もうとした、その刹那。


ノヴァは信じられないほどの速さで身を翻し、窓を蹴って夜の闇へ飛び出した。


ガラスが砕け散る。


雨が吹き込む。


慧吾は割れた窓辺で立ち尽くした。


雨の向こうを、小さな影が走っていく。


その背中は逃げているようでありながら――


誰かを守ろうとしているようにも見えた。


「……慧吾」


隣に立った諒介が静かに言う。


「追おう」


慧吾は小さく頷いた。


「ああ」


その声には迷いがなかった。


だが胸の奥では、ノヴァの鼓動が、自分の鼓動と重なるように響き続けていた。

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