↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
スペシャルスピンオフ──金と漆黒のヘテロクロミア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/73

§1 光の庭

──選ばれなかった未来。


もし、ノヴァが"光を受け継ぐ子"ではなく、敵側が生み出した試験個体として目覚めていたなら。


ノヴァを生み出した当時、最初に描いていたプロットをもとにした、もうひとつの物語です。


本編のノヴァは、慧吾から『透明の心臓』を半分受け継いだ、普通の男の子です。

「さっ、今日はノヴァの髪を切るわよ!」


リリカはエプロンを身につけ、散髪用の鋏を手にした。


庭では辰彦と哲平が、小さな椅子ごとノヴァを担ぎ上げている。


「ほーれ、ガタガタ道じゃ!」


「坂道だぞー!」


椅子が揺れるたび、ノヴァは声をあげて笑った。


花が風に舞う。春の光が庭いっぱいに降り注ぐ。


(こんな日が来るなんて……)


リリカは胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じていた。


「じっとしててね。動くと危ないよ」


鋏を入れるたび、陽射しを受けた金色の髪が、やわらかく風へ溶けていく。


「くすぐったい!」


肩をすくめるノヴァに、哲平が水をかける真似をして笑う。


「おっと危ねぇ!」


辰彦が哲平の頭を軽く叩き、三人の笑い声が庭へ広がった。


ほんの短い静けさ。


光が、こんなにも綺麗だなんて。


きっと闇を知った者だけが、こんなふうに感じられるのだろう。


陽が傾き始め、花びらがノヴァの肩へ静かに降り積もる。


「きれい……」


リリカが微笑む。


その瞬間だった。


ノヴァが顔を上げる。


片方の瞳は、陽だまりのような黄金。


もう片方は、夜の底を思わせる、深い黒。


まるで光と闇が、同じ命の中で静かに息づいているようだった。


「……ノヴァ、その瞳……」


ノヴァは不思議そうに首を傾げる。


「母さんが言ってた。


『ひかりはね、かげといっしょにあるんだよ』って」


その言葉に、慧吾の胸の奥が小さく疼いた。


振り向くと、廊下の影に慧吾が立っている。


何も言わない。


ただ、ノヴァの瞳だけを見つめていた。


(……何だ、この違和感は)


春風が吹き抜ける。


その風だけが、誰にも答えを教えようとはしなかった。


夕暮れ。


遊び疲れたノヴァは、リリカの膝を枕に眠ってしまった。


規則正しい寝息。


リリカは微笑みながら、そっと毛布を掛ける。


「おやすみ」


部屋を出ると、諒介がベッド脇へ腰を下ろした。


包帯の残る小さな手。


細い指先。


その寝顔を見つめながら、ぽつりと呟く。


「……不思議な子だな」


少し間を置いて、小さく笑う。


「こんなに穏やかに眠っているのに、時々、どこか別の場所を見ているような顔をする」


視線を落とす。


「……何を背負っているんだろうな、お前は」


その時。


廊下に気配がした。


振り向くと、慧吾が静かに立っていた。


諒介は少し照れたように笑う。


「……独り言だ。聞かなかったことにしてくれ」


慧吾は一瞬だけノヴァを見つめ、ゆっくりと頷いた。


「了解した」


そのまま歩き出しかける。


しかし数歩先で立ち止まり、静かに口を開いた。


「……だが、違和感を覚えたのは俺も同じだ」


諒介は驚いたように顔を上げる。


慧吾は振り返らない。


「だから、少し調べてみる」


それだけ残し、廊下の奥へ静かに消えていった。


諒介は、眠るノヴァに視線を戻し、小さく息を吐く。


「……慧吾がそう言うなら、やっぱり何かあるんだろうな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
, ,

,

,

,

,
,
,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。