第16章 幸せのかたち
久しぶりの、仲間があつまった夕餉の席が、一段落した頃。
ふと、リリカが首を傾げた。
「……慧吾、あなた……」
慧吾が箸を止めて顔を上げる。
「どうした」
リリカは少し驚いたように微笑んだ。
「顔色が……ね。前よりずっと、いいのよ」
慧吾は少しだけ瞬きをした。気づいていたのは、ジャックだけではなかった。
その時。
ノヴァがキュッとジャックの袖を引っ張った。小声で──いや、わりと丸聞こえで囁く。
「ねぇねぇ、じゃっく、いって!ねっ?」
ジャックは吹き出した。
「自分で言えよ坊や!」
「やだぁ!! はずかしい!!」
慧吾が一瞬だけ肩を震わせて笑う。
リリカが「どういうこと?」と首をかしげると、ジャックは渋々と言いながらもどこか誇らしげに鼻を鳴らした。
「……まぁ、あれだ。 この旅で、坊やの光がだいぶ“役立った”んだよ」
ノヴァは顔を真っ赤にしながら、消え入りそうな声で言った。
「けいごのいたいの、すこしだけ、ね、“なおした”んだ…」
慧吾の目がふっと柔らかくなる。
「……謙遜するな。 お前のおかげで、ずいぶん楽になった」
「すごいねノヴァ!」
「さすが風の戦士ジュニア!」
「大手柄だな!!」
みんなが口々にノヴァへの賛辞を贈る。ノヴァはついに照れてジャックの後ろに隠れた。
ジャックは笑いながら、ノヴァの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「ほら見ろ、お前の手柄だってよ。 誇れ誇れ。いっちょまえに“命の恩人”なんだからな」
ノヴァはくしゃっと笑った。
「すこしだけ…おんがえし、できたかな」
呟くような声を聞き、慧吾が破顔して、大きな手をノヴァの頭に置いた。
ふたりの笑顔を見て、リリカの胸に、静かで深い安堵が広がった。
「……ありがとう。 あなたたち、本当に……綺麗にしてくれて」
風が窓辺で軽く鳴り、夕餉の灯りがほんのり揺れた。
それはまるで──「この家族は、もう壊れない」そう告げるような、優しい揺れだった。
寝入りそうなノヴァの髪を整えながら、リリカはふと慧吾を見た。
「……あなたね。 自分の痛みを隠すの、ずっと下手よ」
慧吾はわずかに眉を動かした。
「隠しているつもりだが」
「ふふ。 隠し事は、あなたよりジャックの方が上手よ。 あなたは、誰かに気づいてほしくて、 でも迷惑をかけたくなくて…… そういう顔、すぐに出るんだから」
慧吾は何も言えず、ただ視線を落としてノヴァを見つめた。
リリカは続けた。
「──大丈夫。 あなたの痛みは、あたしたちで全部背負わせてもらうわ。 だってね、慧吾。 あなたはもう、ひとりで闇に立つ人じゃないのよ」
慧吾の喉が、かすかに震えた。
ノヴァの寝息が、すう、と静かに響く。
「……ありがとう、リリカ」
リリカは女神のような微笑みで、ふっと顔をあげた。
「あたしね。あなたに救われたあの日から、ずっと言いたかったの。
ありがとう。
そしてここに戻ってきてくれて、ほんとにありがとう。何度言っても、足りないくらいよ」
慧吾は柔らかく微笑む。
「そしてね」
リリカはノヴァに毛布をかけ直しながら、続ける。
「ここでみんなで、生きていってくれることが、 あたしの一番の“救い”よ」
外の風が、やさしく二人の間を通り抜けた。




