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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅴ 赦しの環

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第11章 見送りの涙

風が止んだ村の跡地。


ノヴァは、光の残滓たちが完全に昇りきるのをただじっと見ていた。


笑っていた。涙ひとつこぼさずに。


昇っていく光の粒が、ノヴァの髪をやわらかく照らす。


最後のひとしずくが空に溶けた瞬間、慧吾が小さく、息をついて呟いた。


「……昇った、な」


その声が合図みたいに──ノヴァの膝から力が抜けた。


慧吾はすぐに抱き上げた。小さな身体は強張り、指先が震えている。


「ノヴァ……」


慧吾が小さく名前を呼んだとたん、ノヴァの胸の光がふっと揺れた。


そして──ずっと堪えていた涙が、静かにあふれ始めた。


声を上げない。息も詰めたまま。泣き声をこらえすぎて、身体が震えている。


慧吾はその小さな背を強く抱いた。


ノヴァは袖を握りしめ、顔を埋めたまま震える声で言った。


「……ないたら…… また……しんぱい……するから……っ」


ぽたり、ぽたり。慧吾の外套に涙が落ちる。


「……だって…… ぼく、もう…… だれも……くるしく……したくなくて……」


言葉にならない声が漏れる。ずっと張りつめていた糸が切れる音がした。


慧吾はその頭を胸に押し当て抱きしめる。


「泣いていい。 もう、誰も心配しない。 お前の家族は……笑って昇っていった」


ノヴァは顔を上げられないまま、慧吾の胸をぎゅっと掴む。


慧吾の喉が強く揺れた。


言葉を返す前に、後ろで気配が動いた。


ジャックが、横を向いたまま手の甲で目を乱暴にこすっていた。


「……クソ…… こんなの……泣かねぇ奴の方がおかしいだろ……」


声が震えていた。


ノヴァは慧吾の胸に顔を埋めたまま、やっと、しゃくり上げて泣いた。


こんなに小さいのに、胸が締めつけられるほど静かな泣き方だった。


慧吾の腕の中で、ようやく──強がらなくていい子どもに戻った。


慧吾はその小さな身体を抱きしめたまま、ぽつりと言った。


「ノヴァ。 お前は……よく、頑張ったな」


その言葉に、ノヴァはまた涙をこぼした。


風がそっと三人を包む。


すべてを赦すように。すべてを抱きしめるように。

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