第10章 祈りの手
村の奥へ進むほど、空気は静かになっていった。風の音すら、どこか遠慮がちだった。
ノヴァがふと立ち止まる。
「……ここは……」
指先が震え、胸の光がかすかに脈打つ。
慧吾とジャックは言葉を飲み込んだ。この先にあるものを、二人とも理解していた。
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崩れた家屋の影──そこに、淡い光がいくつも漂っていた。
ゆらゆら揺れながら、形を保てないほど弱い “残滓” たち。
その中心で、ひときわ小さな光がノヴァの方へと揺れた。
「……おかあ、さん……?」
ノヴァの声が震えた。
小さな足が、ゆっくりとその光に近づく。
慧吾の胸が痛んだ。ジャックは拳を握りしめたまま視線を落とす。
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ノヴァは膝をついた。
光の手──かつて自分を抱いたはずの温もりにそっと自分の手を重ねた。
「……ごめんね。 おそくなって……ごめんね……」
小さな声。その言葉は幼いけれど、胸を裂くほどの重さがあった。
光がふるえた。まるで「待っていたよ」と返しているように。
ノヴァは泣かない。涙をこらえて、笑った。
「ぼく、ね…… いま、たのしいよ…… けいごと、じゃっくが…… そして、やさしいひとたちが、 いっぱい、いっぱい……まもってくれたんだよ……」
声がかすれた。
「だから、しんぱいしなくて……いいよ……」
光が強まった。ノヴァの手の下で、ぬくもりが流れた。
慧吾が思わず息をのむ。
(……生きていたときと同じ“温度”だ)
ノヴァの胸の光がふわっと広がり、優しい輪となって残滓たちを包んだ。
その光の中で、亡骸の影がゆっくりほどけていく。悲しみではなく──すべてを赦して消えていくように。
ノヴァは最後まで笑っていた。泣かずに、ただまっすぐに。
「……いってらっしゃい。 ぼく、ちゃんと……いきるから。……いつか、また、あおうね」
光は風に溶けて消えた。
残ったのは、あたたかい空気だけだった。静かで、どこまでも優しい。
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慧吾は目を伏せた。胸の奥で何かがひりついた。
ジャックは手の甲で顔をこすりながら呟く。
「……強ぇな、坊やは…… 俺よりも、よっぽど……強ぇよ……」
ノヴァは振り返って、小さく微笑んだ。
それは、“赦し”を身に宿した子どもの笑顔だった。




